5.愛し愛されている。
「ダリア。今回はドレスは作らないのかい?」
目の前で食事をしている父ノーマン・ルルーシュが唐突に聞いてきた。
「はい、今回は作りません。」
「そうか、前回のときのダリアが懐かしいな。
新しいドレスを着ると、とても喜んで。可愛さが増してもっと可愛かったのに」
「必要な場合は、買いたいと思います」
「わかった。その時は良いデザイナーを呼ぼう」
話をしているのと、親バカがすごいことが伝わってくる。
朝ごはんを食べている時に毎日行われる行事があるんだよな〜
「カーネンは今日も綺麗だね」
「旦那様こそ、今日もかっこいいですわ」
「僕たちの天使のソロンやダリアは今日もとても愛らしいね」
「そうですわね、とても愛らしいわ」
そう言ってうっとりと2人は見つめあっている。これが私の家の朝の恒例行事。
朝からはきついよ…本当。これは、無理だ。前世から慣れない光景だ。
そんな光景を見るのをやめ。
ソロン兄さんに話しかける。
「ソロン兄さんは、今日は何をしますの?」
「今日は稽古が終わったら、庭を見て回るつもり」
「私もご一緒してもいいですか?」
「あぁ、構わないよ」
と言って、いつもの変わらない優しい笑顔を向けらる。
「ありがとうございます」
ソロン兄さんの笑顔は自然と笑顔になるものだ。
今日やることは決まったわ。
とりあえず、兄さんが稽古中は、私はお茶会のドレスをアルナとヤメノと選んだりしなければ。
でも、庭を見に行くなんて久しぶりかもしれない。
今の時期は何が咲いているのかしら。
楽しみね。
今って思えば、すごく楽かもしれないわ。
前世の時はマナーも何も知らない世界に来たんだもの。もう、毎日、毎日が覚えることが多すぎて、忙しすぎて、大変だった。
けれど、前世を頑張ったからこそ、今は、結構、楽できているのよね。
前世の私グッジョブ。よく頑張ったわ!
でも、レッスンなどはちゃんと受けなきゃね。身体が鈍ってしまうもの。
ソロン兄さんと別れて。
さて!アルナとヤメノにドレスを選んでもらおう〜!
と思って2人を呼んだら…
「え〜!お嬢様は、このドレスが似合いますよ〜!!」
「いや、お嬢様はこの、静かな色の方がいいわ」
「えぇ!ありえないです!アルナ先輩おかしいです!!お嬢様はこの!赤で行きましょう!」
「いえ!お嬢様は青で!青がいいわ!!」
あ〜揉めている。揉めているわ。
目の前で繰り返されているこの、小さな戦争を見ながら、早2時間くらい立っている。
私が止めに入ると、お嬢様はどちらがいいのですか?と言ってきて。2人の熱い闘いを見ていたからか、なかなか決められなくて…こんな感じである。
決められない私も悪いな〜。
「もう!決まらないじゃない!」
「本当です!!全然決まりません!いつも通りで行きましょうよ!」
「あの、」
「「はい!」」
「ご、ごめんなさい。その、私、今回のお茶会では、目立ちたくないの」
「あ…でしたね。そうでした。だから、アルナ先輩、いつも選ばないやつなんですね。お嬢様、本当に赤が似合うから熱くなりすぎちゃいました。すみません、お嬢様、うるさかったですね。」
「本当です。申し訳ありません。」
「いや、本当に。2人に、なんというか。」
「「?」」
「あ、愛されているというか…凄い気にしてもらえて嬉しいというか」
「もう〜!お嬢様ったら〜!!!当たり前ですよ〜!」
「そうです。当たり前ですよ。」
「ふふっそれが嬉しいわ」
「じゃ、今回はアルナ先輩の薄い青色の綺麗なドレスで良いです。今回はお嬢様のご意向もありますし」
「はい。それでいきましょう。では、お嬢様もこの後はソロン様との予定がありますし、失礼致します。」
「失礼致します〜」
「あ!当日の髪型とかお願いしますわね」
「「もちろんです」よっ!」
ヤメノと二人でお嬢様の部屋を出て、少ししたとき、ヤメノが話しかけて来た。
「お嬢様なんか、変わりましたね」
「そうね。変わったわね」
「はい!前は、なんかもっと、言い方悪いですけど、近寄り難い感じでしたし、少し?わがままと言うか、なんというか」
「そうですね。表情も柔らかくなって、わがままは言わなくなりましたね」
「まぁ、すごくいい事なんですけどね〜先輩は少し寂しいんじゃないですか?」
「寂しいことなんてないわよ。主の成長は喜ばしいことよ」
「そうですね〜」
アルナ先輩は、隠せてませんね〜。
妹のようにお世話をしていたお嬢様が、急に成長してしまって、きっと、寂しいのだろう。
お嬢様の変化を嬉しそうに、いつも話してくれるけど、この頃どこかに寂しさが見られる。アルナ先輩は、強がりなところがあるから、寂しいって思ってても口には出さないんだろうな。
まぁ、良いのですけど。
⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱
アルナとヤメノが出ていってから扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
「やぁ、待たせたね」
「いえいえ、待ってなどおりません」
「そうか。それは良かった。じゃあ、行こうか」
「はい」
屋敷のお庭はとても広い。
庭師さん達の工夫がされていて、見ていて飽きることもない。
「久しぶりに2人で庭を回るね」
「そうですわね」
「ふふっあの時のダリアはやんちゃだったな〜」
「や、やんちゃなんてしていませんわ」
「いや、してるだろ?それに、2人だけなんだし、兄弟なんだから、普通に喋ってもいいよ」
「あ、はい。えーっと…してるように見えるだけだよ」
「そうそう」
そんな、笑顔でこられたら、そうするしかないじゃない。
兄は、綺麗な顔である。
瞳の色は私と同じ青だけど、髪は私と全然違う、白い髪、まつ毛も、とても長く白い。言うなれば、スノーホワイトの男版である。
本当に綺麗である…
「あ!あの木」
「?」
「ダリアが登って降りれなくなった木だよ」
「それは〜忘れて!!!」
それからは、夕方頃まで兄さんと一緒に遊び。
夕食を取り、自室に戻り湯浴みをしたりし。
いつの間にか、もう寝る時間になっていた。
「ふふっ今日も楽しかったわ〜」
ベットにボンと大の字に広がり。
兄弟であんなに過ごしたのは久しぶりだった。兄さん、とてもはしゃいでたわ。
いずれ、ここの当主となるのだけれど、まだ若いのに、次期当主として周りから見られるのも大変よね。少しでもお力添えできるように頑張りましょ。