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#99 当初の目的

 昼も過ぎ、海で散々遊んだこともあってか、ミリアは大きく息をつきながらにテトラの横に腰を下ろした。

 ルカはというと未だ体力が満タンとでも言わんばかりに全力で海で遊んでいる。現在はゼーレがその相手及び保護者として付き添っている。


「これでほぼ年齢に差がないってのが、信じられないんだけど……」


 ルカとミリアには、年齢差が1しかない。無論、どちらも農村の出身であり、別な故郷から、理由は違えど出てきているために正確な年齢まで追及すると多少は誤差が出るかもしれないが、それでもそこまで離れていないはず。

 それだというのにここまでの体力差が生まれるものか、と。そんなことを考えていた。


「たしかに最近は勉強ばっかりで満足に身体は動かしてなかったけどさ」


 しかし、ルカの今までの境遇を考えると、実際にはあまり体力がない、というのが普通で。その結果が、彼女のあの体格なわけで。

 ――年齢に不相応な彼女のその体格は、極度の栄養失調から来たものなわけで。


 今ではその点が改善されているとはいえ、ベースのスタミナでここまで負けているとは、流石に思わなかった。


「あはは。……まあ、おふたりとも私よりかは充分に体力があるので大丈夫ですよ」


 傍らにいたテトラが苦笑いをしながらにそう言う。曲がりなりにも所属が警備隊なのにそれでいいのか、と。ミリアがツッコみかけたところで、サクッサクッという音を立ててエアハルトが近づいてくる。


「ルカは魔法使いになった影響で、いろいろ底上げされてるからな。ついでに、最近は体力トレーニングもしてるし」


 どうやら話の内容が聞こえていたようで、持ってきた袋を地面に下ろしながらそう言う。


「魔法使いになった影響で?」


「まあ、厳密には少し違うが」


 魔法使いになったからといって身体能力が強化されるわけではない。

 だが、その一方で各種行動を魔法で補助しながら動くことができる。

 もちろん、ルカも意識して身体強化を発動しているわけではないが、一度使い方を覚えた身体が、それに適応するようにある程度を勝手に力として回しているのだ。


 その結果、少しの力で高いパフォーマンスを発揮することができて、現在までもずっと元気に遊び回っているルカという現状が出来上がっている。


 併せて、ルカは持久力底上げのためにトレーニングを行っているので、その結果も少しずつ出てきている。


「まあ、そういった事情もあるから、魔法使いとそうじゃない人間の身体能力をそのまま比べるのはあんまり良くないぞ。考えるだけ無駄だから」


「わかったわ、ありがとね、フォローしてくれて。……って、そういえばその袋、どうしたの?」


 首をコテンと傾げながら、砂地に置かれた袋に指をさす。


「そもそものここに来た目的だ、といえばわかるか?」


「目的って、リフレッシュ?」


「それも目的だが。……って、それでいいのかよ? まあ、お前がそれでいいならそれでもいいが」


 他にもあっただろう、と。呆れ混じりにエアハルトがそう言いながら、隣に視線をずらす。


「というわけで、あとは任せても大丈夫か?」


「……ふぇ?」


 唐突に声をかけられたテトラは、まさか自分に振られるだなんて思ってもいなかったために素っ頓狂な声を出す。


「説明に使ったあとは自由にしていい。別にギルドに持ち込んで売り払ってくれてもいいから、好きにしてくれ。……ああ、手袋は必要だよな。ほら」


 エアハルトがふたり分の革手袋を手渡すと、それじゃあ俺はルカのところに行くから、と。


「大物については明日以降に。とは言っても、基本的には安全性の観点などから、こういった素材のほうが持ち込まれる可能性が高いけどな。魔物も持ち込まれはするが、倒せるやつが限られる以上、レアケースといえばレアケースだ」


「魔物? ……ってことは、これ、もしかして」


「あああっ! 待ってください待ってください! 先に手袋を!」


 袋の中身を勘付いたミリアが、少し興奮しつつ中身に手をつけようとして、それを慌ててテトラが制止する。


「魔物素材は鋭利だったり有毒なことがあります、素材自体が元々尖っていなかったり毒を持っていなくとも、取得する際の要因で危険なこともあります。状態を自分で確認する前は、必ず手袋を!」


「あ、そうだった。……ごめんなさい、つい」


 ミリア自身、知識としては知っていたものの、実体験としての経験の有無、そしてなによりも興奮による気持ちの先行などもあって、思わず手を出そうとしてしまっていた。

 自分の行動を謝りつつ、ミリアはテトラから手袋を受け取り、装着する。


「エアさん、どこに行ったのかと思ってたんですけど、素材集めに行ってたんですねぇ」


 袋の中から中身をひとつひとつ取り出しながらテトラはそんなことをつぶやく。


「役目ってなんのことだと思いましたけど、そういえば私、今回ここに来た目的の半分はミリアさんにこのことを教えるために、でしたもんね」


 そして残りの半分は、ルーナのところに弟子入りするための素材集め。……なるほど、素材を自由にしていいというのはそういうことだろう。


「……ご丁寧に、袋にまとめて見分けを間違いやすいものまで用意してくれてますね」


「世話焼きなのか、なんというか……」


 テトラから袋の中から袋を取り出す。中身は、先程まで取り出していた素材と同じ見た目……に見える、別物。テトラは知識がある程度あるので、注意深く見れば違いがわかるが、パッと見では同じに見えてしまう。


 ミリアの言うとおり、本当に気の回る男である。


「まあ、関係ないことを言っていても仕方ないですね。早速ですが、始めていきましょう。まあ、これはご一緒するときにも言いましたが、私の知識は薬関係に偏ってるので、そこは悪しからず」


「大丈夫。お願い」


 テトラはそう言いながら、まずは、と。手近なヒトデを手に持って。


「これはスタリア。有毒なので絶対に手袋必須です。……まあ、人が死ぬほど強い毒ではないですが、麻痺毒なのでしばらくの身体の不自由は覚悟してください」


 意外なことに用途は多く、純粋に鏃などに使う毒としての他、きちんと処理した上で効果を調整すれば麻酔薬にもなったりする。

 陸上ではさほど驚異ではないが、海中での行動不能は死に直結しかねないので、そういう意味でも入手難易度がそこそこ高く、大きさや生息数の割にはかなりの高級品。


「成長に伴い、体表の色がより濃い青色になっていきます。なので、価値の査定ではこの色の濃さで判断することが多いです」


「ちなみに、他の種類との見分けは?」


「模様、ですね。スタリアには中央から放射状に5つの黄色い線が伸びてます。ただ、この色味が微妙だったり、海中での採取では色の判別が難しかったりという理由で、間違った個体が持ち込まれることも多いとか」


 それが、こっち、と。これまた青色のヒトデが差し出される。

 しかしこちらは、どちらかというと黄緑っぽい線の入ったヒトデで。


「こうやって陸上でしっかりと見ればわかりやすいんですけど、それが海中で、となると難しいわけです」


「……たしかに、言われてみて、そしてこうして並んでるから見分けがつくけど。1個だけなら比較対象もないし、よく似てるわね」


 なお、スタリアは鮮度のいいうちに最低限の加工処理を行うのが好ましい。

 冒険者がその技術を有している場合が最良ではあるが、実際問題としてそんなことはレアケースなので、現実にはギルドに持ち込まれてから近場の薬師などに加工を依頼することになったりするが、


「ちなみに、その加工って難しい?」


「麻酔薬などにするのは難しいですね。ただ、品質を落とさないための最低限であればそこまで」


 ギルド員の中にその技術を有しているものがいるならば、それに越したことはない。その上、加えて加工状態の良し悪しの判断もできるようになるので――、


「できれば、教えてもらってもいい?」


「はい。どうせこのあとに処理するので、そのときにやりましょう」

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