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#94 ミーナガルへ

 途中、中継の街に立ち寄りつつ、基本は野宿で夜を明かしながら移動すること数日。

 いちおうは警備隊として野営の経験があるはずのテトラがめちゃくちゃに怖がりつつ、今回の経験がほぼ初めてであるはずのミリアのほうが最初の頃はともかくとしてかなり慣れてきて落ち着いているという奇妙な状況になりつつ。

 ……ちなみにそれぞれの言い分は。


「怖いものは怖いんですよぅ! いくら安全が保証されてたとしても! ……それにその安全の保証だって魔法使いに依るものですし」


「エアハルトのことを信用してるってほどではないにせよ、ルカちゃんも平然としてるし多分大丈夫なんだろうなって。それに、私たちが送り出す冒険者も外でこういう野営をすることもあるってことだから、経験はしておくに越したことはないかな、って」


 いちおう、ミリアには冒険者の野営はもう少し街道沿いで行われることが多い(もちろん状況次第ではあるが)ことや、ルカは危険性を正確に把握しきれていないところがあることをエアハルトが補足しておいたが。

 帰ってきた言葉は、経験する上で危険な方が甘く見積もる必要がなくなる、というものと、そして。


「エアハルトが守ってくれるんでしょ?」


「……ああ。それは、間違いなく」


 突然に向けられた、大きな信頼に。エアハルトは少しだけたじろぐ。


 エアハルトは、ミリアに嫌われているとまでは思っていないにせよ、好意的に思われているとまでは思っていなかった。

 なにせ、エアハルトは魔法使いなのだから。


 ミリアが今の暮らしを始めるよりも前、別の、もっと小さな村落に住んでいた。

 そこでミリアとダグラスを助けたのがエアハルトという魔法使いであり、その村を壊滅させたのは、エアハルトではない魔法使いだった。

 それ以来というもの、当然の結果ではあるもののミリアは魔法使いという存在を嫌うようになった。……まあ、元より犯罪者扱いされている魔法使いに好意的な感情を抱いている人物のほうが稀有ではあるのだが。


 だが、エアハルトについては出会った経緯や、その先で今の街に移り住むまでの行動を共にしたということもあってか、それなりに応対はしてくれるようになっていた。

 だがしかし、その応対のほとんどは、どちらかというと事務的。エアハルトが伝えた言葉に、ミリアが淡々とこたえる、というもの。

 おそらくは、彼女なりの線引きなのだろう、と。そう考えていた。だからこそ、エアハルトはミリアとビジネスライクな関係性を築いていこうと、そう立ち回っていたのだが。


(なんというか、思っていたよりも、距離が近い)


 いつもも違うその感覚を不思議に思いつつ、思わずジッとミリアのことを見つめてしまったエアハルトに、彼女は「なによ」とそっけなく言った。


 なんでもない、とだけ返したエアハルトは。その彼女の応対に、やはりこういうほうがミリアらしくて慣れているな、と。そんなことを感じるのだった。






 ふわりと、風に運ばれて独特の匂いがやってくる。


「なんていうか、変わった匂いがしてきたわね?」


 ふと、ミリアがそんなことをつぶやいた。

 鬱蒼とした森を抜け、最近では木がポツポツ立っている程度の草原に来ていた。

 森の中なら木々が視界を遮ってくれるため、そちらのほうが都合が良くはあったのだが、こうも開けた場所になってしまうと、むしろ道から離れている方が怪しまれかねないということで、現在は街道沿いを歩いている。


「そろそろミーナガルが。――海が近づいてきた、ということだ」


 ここにいるメンバーの中で、海に来たことがあるのはエアハルトのみ。彼は、この独特の匂いを、海の匂いだとそう言った。


「そういえば、ミーナガルってどういうところなの?」


 ルカがエアハルトに尋ねる。並ぶようにしてミリアとテトラもエアハルトの答えを待つ。

 コクリと頷いたエアハルトが、ゆっくりと口を開く。


「ミーナガルは、成り立ちから話すなら漁村だ」


「漁村?」


「海に出て、魚を捕まえる、ということを主産業にする地域だ」


「魚!」


 ルカはいつかの村で食べた魚のことを思い出す。たしかあのときは川の魚ではあったが、美味しかった記憶が未だに残ってる。


「ってことは、魚食べれれるの!?」


「ああ、というかここにいる間は魚が中心の食事になるぞ」


 ルカがお魚お魚、と。上機嫌になりながら鼻歌に興じている傍ら。エアハルトが話を続ける。


「元々漁港だったということもあって、水深なども十分あったという都合もあり、現在では交易における要の都市にまで発展している」


 海路は気象条件などの厄介な相手との対話が必要にはなるものの、その代わりに大量の貨物を一気に送り届けることができる。そういう意味でも、この街の交易での発展具合はとてつもなく大きい。

 それに、噂レベルではあるが、なんでも風や潮を無視して強引に、かつ素早く運送ができる船というものが開発されたというような話も聞いている。それが本当ならば、まさしく革命的な話だろう。


「ちなみに、ミーナガルは入り江のような構造の街ではあるが、そう遠くないところには遠浅の海岸がある」


「遠浅の海岸?」


「まあ、行ってみればわかるさ。ちょうど、息抜きにはいいんじゃないかな」


 必要なものなら、ミーナガルで購入できるだろうし、と。エアハルトはひとり納得しながらそう言っていた。


 エアハルトが最初に言ったように、そうしばらくもしないうちに街の関所が見えてきて。

 先程からしていた匂いも、一等強くなる。


 遠巻きに、キラキラと輝く一面の青が見え始めてきた頃。大きく声を上げたのはルカだった。


「すごーい! ねぇエア! あれが海なの!?」


「そうだ。あの一面の水が海だ」


「めちゃくちゃ広いね! どこまで広がってるんだろう」


「さあな。少なくともここから見える範囲には向こう側は無い」


 正確には、湖などとは違い、海が陸地を囲っているため、向こう側という概念が難しいのだが。興奮しているルカに、水を指すのも野暮な話だろう。


 さらに関所に近づいてきた頃、エアハルトは自身とルカに認識阻害の魔法を掛ける。

 これで、ジッと看破しようとするレベルで凝視でもされない限り自分たちがエアハルトとルカであるということに気づけなくなる。


 そのおかげもあって、エアハルトたちは関所を通り抜けて街の中へと入っていく。


 ミーナガルの街は、ルカがこれまで訪れてきたどの街とも大きく違っていた。

 建物だけでいえば、コルチのような石造りの大きな建物が並んでいたりするのだが。その並び方も真っ直ぐに、シンプルに。往来がとてもしやすいように並んでいた。

 そしてなにより違うのは、活気。


 あちらこちらから大きな声で元気に言葉が投げかわれていた。

 テトラなんかは思わずその言葉に萎縮してしまいそうになるほどに。


「……まあ、ひとまずは宿を取ろうか」


「うん!」


 これをしなければどうにもなにもはじまらない、と。

 関所で受け取った簡易の地図を広げながら、エアハルトを先導に、4人で宿に向かっていく。


 途中、店の客引きの声にルカが惹かれそうになっていたが、後で見て回ることになるから、と。惜しむ彼女はミリアにてを引っ張られていった。

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