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#93 移動と野宿と

 ドタバタこそしたものの、ひとまずの顔合わせも終わったところで。ゼーレは一旦帰ることとなる。

 ルカや、あとなんだかんだでテトラは寂しがっていたが、現状はエアハルトの契約で呼び出している形なので、これを常時という形にしてしまうと彼自身への負担が大きく、なおかつ、家を守るという役割を遂行できなくなるため帰るのだと伝えると、渋々ではあるが納得してくれていた。


「クケケケケッ、いつの間に精霊なんぞまで引き込んでいたのさァね」


 おそらくは遠巻きで様子をうかがっていたのだろう。出発の直前に、ルーナがそんなことを言っていた。


「今度、私にも会わせてほしいもんだが」


「お前が言う会うは、研究させてくれも含んでるだろ」


「よぉくわかってるじゃあないか」


 伊達に付き合いも長くないからな、と。そうつぶやきながらにエアハルトは答えを返していた。


「ゼーレがいいって言うなら、まあ、考えてやるよ」


 普通そんなことを言われて首を縦にふるやつなんざいないとは思うが。アレはアレで結構な調子乗りだったりな性格なところはあるから、もしかしたら応えるかもしれない。


「クククッ、期待せずに待ってるさァね」


「おう。……というよりかは、今お前が待つべきはそっちじゃないだろ」


「……ああ、そうさね」


 そう言いながら、ルーナが流し目でテトラのことを見る。

 まるで天敵に睨まれたかのようにビクリと身体を伸ばした彼女だったが。大きく息を吸って、吐いて。

 それでもなお、かなり強張った声色で。しかし、精一杯に頑張って。


「う、海辺の魔物の素材! 必ず、持ってきます!」


「おう、新鮮なやつをすぐに加工したやつでお願いねェ。まあ、期待せずに待ってるからさァ」


「必ず、持ってきますから!」


 そう言い切って、テトラはへにゃへにゃとその場に座り込んでしまう。

 これでこの先大丈夫なのだろうか、なんて。少しだけ心配になる。


「まあ、そういうわけだから。帰りにまあ寄るよ」


「いつでも来な。お前さんなら、歓迎さね」


 そりゃあ嬉しいことを言ってくれる。なんだかんだで物品の補充という意味でもこの店は優秀だから。

 そんなことを思いながら、エアハルトは店の裏口から外に出る。

 ルカとミリアがそれに従い。少しの間呆けていたテトラが、気づいて慌てて追いかけた。


「大丈夫かねェ」


 頭をポリポリとかきながら、ルーナはそんなことをつぶやいていた。






「あ、あのぅ。馬車に乗るとかはしないんです?」


「逆に聞くが、馬車に乗れると思うのか?」


 森の中に入って、しばらく。ぽつりと漏らしたテトラのその声に、エアハルトが冷静に断ずる。


「で、でもっ! とりあえず隣町に向かうって言ってましたけど。隣町まででも結構距離ありますよね!?」


「だから野宿を一回挟むって言っただろう?」


「ヒエッ」


 テトラは顔を青褪めさせる。聞いていないとでも言いたげに。

 ミリアはそもそもの旅行計画の話のときに聞いていたために承知をしていたが、まあこれが普通の反応だよなとも。


「警備隊所属なら野宿くらいしたことあるだろう?」


「ありますけど、ありますけど! 基本的には街道沿いですし、それでも怖かったんですよ!? あんな怖い経験嫌なんですよぅ!」


 泣き叫ぶようなテトラの声に、ミリアは少しだけ共感できるところはあった。

 街と街とがこれほどにも離れている理由。そして、一般に野宿がかなりの危険行為――人によっては自殺行為とまで言われる理由。それは、街の外に跋扈している動物の影響だ。

 ある程度整備されている街道ならともかく、こんな森の中を突っ切るとなると、そこには野生動物が普通に暮らしている。こちらに危害を加えてこないものもいるが、当然こちらに危害を加えてくるものもいるわけで。

 なんなら、その中には魔力を有しており、強力になっているもの。更には魔力を扱えるようになった、魔物までいるわけで。

 現在エアハルトたちが行っている行軍、及び野宿は、それこそ本当に自殺行為と言われるような危険なものだった。


 いちおう、当初の案としては移動だけはエアハルトたちと別にして、ミリアひとりで馬車に乗るということも考えていた。

 だがしかし、馬車とはいえ女性ひとりでのるというのは結構なリスクになる。それこそ、いろいろなトラブルのもとになりかねない。

 それならばわざわざ金を払って馬車に乗らずとも、野宿してでも歩いて進むほうがマシだ、と。

 なにせ、ミリアはエアハルトとルカの実力を信じていたから。


「でも、危険度云々以前に、やっぱり遠いと思うんですけど」


「そうは言ってもなあ。俺たちが馬車に乗れない以上、ふたりだけで乗ってもらうことになるわけで」


「乗れない?」


「お前自身が俺の顔を見た瞬間に感じたことだろう」


 あっ、と。テトラは気づいた様子で。

 そう、エアハルトは超がつくほどの大罪人として指名手配をされている。ルカは、理由は不明だが、こちらも顔が知れてしまっている。

 もちろん乗る際には気づかれないように多少は細工するものの、長時間同席する人がいる以上、そこでバレる可能性が非常に高くなる。


「ちなみに私的に持っていたりとかは」


「するわけ無いだろう。街道を通らないといけなくなるリスクがある上に、持つメリットもない」


 正直、エアハルトとルカのふたりだけであれば、次の目的地まで馬車以上のスピードで走り抜けるなど容易い。身体強化があるゆえに、ルカですら一般的な成人男性より圧倒的な身体能力があるのだ。

 最近では、元の身体能力の方の底上げ訓練も行っているために、持久力や瞬間的な最大能力の底上げもできている。

 つまり、エアハルトとルカには馬車に乗るメリットが微塵もない。


 なので、馬車を利用するとなると乗り合いのものしか択としてなく。

 エアハルトとルカが乗れない以上、ミリアとテトラで馬車に乗るわけで。つまりは、女性ふたりで馬車に乗るわけで。


「テトラがミリアと自分の身を、完全に守りきれるなら任せるが」


「……やめておきましょう」


 テトラが、あっさりと折れた。


「そういえば、指名手配といえばなんだが」


 いちおうの関係者がここにいるじゃないか、と。そんなことを思い出して。


「なあ、テトラ。俺の手配書なんだがな?」


「ふぇ!? は、はい、なんでしょう!?」


「そんな緊張しなくてもいいんだが。……コホン、俺の手配書、少し前に変わっただろう?」


「えっ? ああ、そうですね」


 金額が上がって、そして、条件が変わった。


 生け捕りのみ、に。


「あれ、なんでなんだ?」


 エアハルトのその質問に、テトラは難しい顔をする。


「わかんないんですよぅ。私たちも」


 聞けば、彼女たちも困っているらしい。

 一般に、危険であると判断されれば手配の金額が上がる。

 逆に生け捕りのみ、になることなんてことはない。

 戦って、危険だから殺すしかないとなることはあっても、危険だから生け捕りにしようとなることはないからだ。


「なんでも上からの通達らしいんですけど、マルクス隊長がすごく困ってました」


「……だろうな」


 彼はなんだかんだでエアハルトをずっと追ってきていたやつである。その条件が難しくなったとなれば、頭を抱えるのも仕方がないだろう。


「じゃあ、なんで変更されたかのその理由はわからない、と」


「そうなります」


 ふむ、と。エアハルトは、指を顎に当てながら。


「ちなみに、ルカにもなにか手配書らしきものが出回ってるらしいが」


「そう! そうなんです!」


 今度は、思ったよりも早くテトラが反応してきた。


「マルクス隊長はなにか知ってるっぽかったんですけど、私全くわからなくって。でも、魔法使いだからってわけではなさそうだったんですけど」


 そして、テトラがジッとルカのことを見て。


「あなた、何者なんです?」

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