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#92 顔合わせ

 とりあえず、話を手っ取り早くまとめるとするならば。エアハルトたちの旅程に、テトラが参加することになった。


「一応聞いておくんだが、大丈夫なのか? その、体裁とか」


「大丈夫なわけがないだろう。危ういとか、そういうレベルじゃない」


 エアハルトの質問に、マルクスが頭を抱えながらにそう答える。

 厳密な話をするなれば、以前彼がエアハルトに頼んだ治療に関しても良くない。しかし、あのときはそれ以外に方法がない、ということからもリスクとリターンを考慮して依頼することにした。


 しかし、今回はそれとはまた事情が違う。

 必要性に駆られているわけでも、なんらかの命令があったわけでもなく。

 ただ、隊員ひとりの私情の都合で、エアハルトたちに協力してもらうことになっている。


「そういう都合もあって、やはり俺は同行できない」


「まあ、それは仕方ないとして」


 アレで大丈夫なのか? と、エアハルトはテトラの方へと視線をやりつつ尋ねる。

 一緒に行動するのだから、ある程度の自己紹介も兼ねての交流、という名目で。ルカ、ミリア、テトラの三人が喋っている、のだが。


「あっああっあにょっ!?」


 完全に、テトラがテンパってしまっている。

 なんとなくここまでのやり取りでも、上がり症なのかな、とか、対人の交流は苦手そうだな、とか。そういう雰囲気は感じていたのだが。

 加えて、ルカが魔法使いであるということを知ってしまった現在、それがさらに加速して、めちゃくちゃに緊張してガチガチになっているテトラがそこにはいた。


「それにしても、そちらこそ大丈夫なのか?」


「うん? なんの話だ?」


「あの少女――ルカのことだ。以前に出会ったときは、あくまで言及は避けていただろう」


 なにが、とまでは言わなかったが。そこまで言われると、さすがにエアハルトとて察する。


「あのときは、有事のときにルカ自身がどうにもできなかったからな。今のアイツなら、最低限のことはできる」


「それは、魔法使いとして、ということか?」


 エアハルトは、答えない。だがしかし、それがほとんど回答のようなものだった。


「ルカが自分で公表すると判断したからな。あくまで俺はそれに従っただけだ」


「なら、いいんだが」


 口元に手を当てながら、マルクスがそう言う。

 エアハルトが、ただ、できればこのことについては伏せておいてほしい、と。そう彼に伝えると。

 むしろどういう経緯で知ったのかと私のほうが詰められそうだから、言えるわけがないから安心しろ、と。


「……まあ、そういうことだから。テトラをよろしく頼む。あんなではあるが、いちおうは妹分のようなものなのだ」


「ああ、安心しろ。万一のときは俺がなんとかするし、おそらく、余程のことにならない限りそんなことにもならない」


 チラと、彼女たちの方を見る。


「それくらい、ルカは守りにおいては強い。おそらく、この場の全員が思っているそれ以上に」






 マルクスは、これ以上関わると、厄介なことになりそうだから、と。そう言って、帰ってしまった。

 ひとり残されたテトラは更にオロオロとしていたが。……なるほど、おそらくはテトラの意識の中に、どこか、最悪の場合にはマルクスに頼ればいいだろうという、そんな思考があったのだろう。

 だからこそ、その希望を無情にも絶った。


「ええっと、それじゃあ改めて自己紹介をしようか。俺はエアハルト、魔法使いだ」


「私はルカだよ! エアと同じで魔法使い!」


「私はミリア。ふたりとは違って普通の人間だから、安心して」


 俺たちのその言葉に、テトラが同じく自己紹介してくれると思って待っていたのだが。


「あ、ああ。エアハルト……魔法使い、犯罪者ががが」


 かなり、キャパオーバーしている様子だった。

 ううむ、この調子で大丈夫なのだろうか。まだ、もうひとりいるというのに。


「はーい、ちょっと通るねェ」


 クケケッと、そう笑いながらにルーナがやってきたかと思うと、テトラの前へとやってきて「はい、口を開けて」「慌てて飲んで気管に入らないようにねェ」と。そんなことを言いながら、ルーナは病人になにかを飲ませるようにしてテトラの口になにかを突っ込み。


 そして、直後。


「がはっ、あがっ、苦ッ!?」


「よォし、これで大丈夫さァね」


 クケケッと、そう笑いながらに去っていこうとするルーナ。そんな彼女に、エアハルトは「お前、なにを飲ませたんだよ」と。


「変なものじゃあないさね。エアハルトたちも飲んだもんさ」


「……ああ、あのお茶か」


「そうそう。まあ、気付け代わりに使う都合、いつもより一等不味いやつを選んだけどねェ」


 いたずらが成功して、満足とでも言いたげに。ルーナさ悪い笑みを携えながらに去っていく。

 とはいえ、手段の正当性はともかくとして、ルーナがテトラのことを起こしてくれたのは助かる話ではある。


「それじゃあ、改めてテトラのことを教えてもらってもいいか?」


「ふぇ? はっ、はい! その、私はテトラっていって。警備隊の所属です!」


 ぴしっと背筋を伸ばしながらにそういう彼女。こういうところを見る限りでは、彼女が真面目な人物であることが伺える。


「な、なにかやらかしたら殺される……」


 空回りや思い込みも多いようだが。

 まあ、これに関してはこれの知名度なども関係してるため、強く言うこともできないのだけれども。


「それで、テトラに説明しておかないといけないことがひとつあるんだがな」


「はい、なんでしょう?」


「実は、同行者。もうひとりいるんだよ」


 厳密には、ひとりと数えていいのかはわからないんだけども。

 キョトンとしている彼女に。ひとまず、一旦顔合わせはしておくべきだろうと。

 そう思ったから、既に彼女を召喚する準備はできている。向こうも、そのつもりでいてくれている。


 そのまま、召喚魔法を紡いで。


「……ふむ、これが召喚されるときの感覚ってものなのね。なんというか、直後は若干の感覚のズレがあるのね」


「そのあたりは俺もよく知らねえからな。俺が持ってる契約、他には非生物しかないから」


「……へっ? えっと、わんちゃん?」


 ぽかん、と。口をまんまるに開けて、テトラは召喚された彼女、ゼーレのことを見つめていた。

 現在の彼女は他人と交流する必要性などもなかったため、本来の姿――銀色の毛を携えた狼の姿になっているのだが。


「ただの犬っころと同一視しないでくれる? せめて狼って言ってほしいわね」


「ごっ、ごめんなさい!? って、喋った!?」


 召喚されて即座のときも喋っていただろう。と。そんなツッコミは控えておく。


「喋ったというか、正確にはあなたたちの言葉に合わせてあげているというか」


 ゼーレの本来の言語は俺たちとは別だが。さすがに共同生活を送る上で、俺たちに合わせてもらっている。

 変化をせずに、でもそれ自体は可能らしく。スムーズな会話のためには少し魔力を消費するらしいが、それくらいの負担ならなんてことはないらしい。


「えっ? えっ? 狼って喋れるの?」


「あのねぇ……」


 完全に混乱して話が入ってきていないテトラ。そんな彼女のことはよそに、ルカはゼーレさん! もふもふ! と、抱きつきに行っていた。

 言葉では鬱陶しがっているゼーレだが。なんだかんだで尻尾を振っているあたり懐いてくれているのが嬉しくもあるのだろう。


 結局、ゼーレが落ち着くまではしばらくかかって。彼女からごめんなさいという言葉が聞こえた頃合いで、ゼーレが人の姿に変化する。


「とりあえず、挨拶ね。私はゼーレ。あなたたちのつけた名前で言うところの、フィーリルよ」


「フィーリルって、えっ!? 精霊!?」


 まさしく、仰天といった様子で彼女はそのまま天を仰いだ。

 やっと、やっと期待していたような反応が貰えた。エアハルトやルカのような反応がイレギュラーなのだ、と。

 ちょこっとだけ満足そうなゼーレであった。

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