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#88 久しぶりの邂逅

「久しぶり、というほどでもないか?」


「クケケッ。まあ、そこそこ時間は立ってるわけだし、間違っちゃァいねえんじゃねェかな。まあ、そんなことよりも」


「どうかしたか?」


「いんや、まァいいか。お前さんのことだし、言ってもあんまり聞かねェだろうしなァ」


 特徴的な、乾いた笑い声を上げる店主に、ルカはちょっとした懐かしさを覚えつつも。

 その後ろに控えていたミリアは身体をガチガチに強張らせていた。


 中継の街として、以前訪れたコルチにやってきていたエアハルトたち。当然、この街に来たということは、


「ったく、うちはただの違法薬屋なんだが。そこの指名手配犯は宿屋かなにかと間違えてんじゃねェだろうかね」


「問題があるなら別に宿を取り直すが」


「いんや、構わんよ。言いたいだけさ。それに、ウチが一番安全だろうからねェ、ケヒヒッ」


 ルーナは、ヨレヨレの白衣を引きずりながら、そう引き笑いをする。

 ルカは慣れたというか、慣れてしまったというか。経験があるし、彼女がそういう人だということを認識しているため平気だが。しかし、初めて出会うミリアからしてみれば、ルーナのそれは不気味そのものだった。


「ってか、えっ、違法薬屋……?」


「ああ、そうだ。……ただまあ、薬剤師としての腕だけは間違いないとは言っておく」


「まァ、店先で立ち話もなんだし、お前さんら、とりあえず裏にきな」


 こんなところに来る人間でワケアリじゃないほうが珍しいだろうが、しかしここには大罪人(魔法使い)がふたり、犯罪者(違法薬剤師)がひとり。あまり、目立つようなリスクは避けるべきだろう。


「まあ、なんというか。変人ではあるが、あいつはあいつでいろいろと込み入った事情があるんだよ。……悪いやつではないことは間違いない、悪ふざけはするけど」


 エアハルトのその説明に、ううむといささか納得できない様子で、ひとまずはミリアも彼女についていくことにしておいた。


 薬の、独特の匂いが鼻にツンと突き刺さる。

 せっかくだしと、ルーナがお茶を淹れてくれるとのことだが、ルカは以前のことを思い出して、少し顔をしかめる。

 ルーナが淹れてくれるのは薬草茶。飲めないほどではないが、かなりまずい。

 ただ、疲れが回復するというのも事実ではあり、ありがたいような、そうでもないような。


「それで? 今日は更に客人を連れてきてどういう要件さァね」


「いやまあ、旅行の中継地点のつもりだったんだが。ちょうどここならいろいろ都合がいいだろうっていうことで、少し迂回にはなるが、寄り道することにした」


 いろいろ話したいこともあったしな、と。エアハルトはそう言う。

 ふぅん、と。ルーナは少し興味ありげにエアはるとの顔を覗き込みつつも、それはさておき。と話を引き戻す。


「それで、そこの新しい子はどういう関係さァね? コイツかい?」


 クケケッとそう笑いながら、ルーナは小指を立てる。意味を理解できていないルカの隣で、ミリアは顔を真っ赤にしながら慌てて立ち上がり、エアハルトは呆れたように小さくため息をついた。


「そういうのじゃねえよ。ただの友人だ。ただ、ちょっと事情があってな」


「なんだ、面白くない。年齢的にも問題ないだろうに」


「言っても10かそこらは離れてるぞ」


「まあ、それはさておきとして。都合がいいってのはどういうことさね? お前さんのことだし、ただの宿代わりってだけで迂回してまで来るとは思えないし」


 たしかに、大回りというほどではないものの距離的には小さくない差が出てくる。移動の日数も増えるし、それならばわざわざ中継せずに、別の道すがらの街を設定するほうが効率的だ。

 宿代に関しても、結局ここで浮く分と追加でかかる移動費などを換算すれば相殺で利くか怪しい。


 つまり、それを抜きにしてもエアハルトがここを中継するだけの理由があったということだ。


「さっきも言ったとおり、話したいことがあったということもあるが。しかし、それ以外にも。このにならいろいろあるだろう? 素材」


「素材? ウチにゃあ薬の材料くらいしかねェが」


「いや、それでいい。……あるだろ? 下処理はしてるとはいえ、魔物の素材」


 エアハルトがそう言うと、ルーナはふぅんと言うと、目をスッと細めて。


「なるほどねェ、つまりはその子、ギルド員志望かい」


「そういうことだ」


「……ひとつ聞くが、なんでそれを聞かされて、私がじゃあそれなら見せてやろうかと首を縦に振ると思ってたのさね」


 呆れたように、そう言い放つルーナに、エアハルトは首を傾げて疑問を呈する。


「ギルド員は曲がりなりにもお役所様さあね。立場上、直接取り締まりに来ることはないにしても、いちおう私ら犯罪者を黙認するのは良くない立場だろう?」


「まあ、それはそうだが」


 ミリアがエアハルトたちに親身に接してくれているから忘れがちだが、この場にいるミリア以外の全員が全員、普通にお縄にかかりかねない犯罪者である。

 それに対してミリアは公務員。つまりは国の味方をする立場になることを志望しているわけで。たしかに、ルーナには彼女に協力してあげる義理はない。


「金を積んでくれるってなら話は別だけども。こうして来ている時点で、そういうわけでもないだろうねェ。……それとも、なにか他に説得する材料はあるさね?」


「えっと、それは……」


 突然に詰められたミリアは、しどろもどろにしながら回答に困り。そんな彼女の様子を見ながらルーナはケラケラと笑っていた。


「……全く、お前も性格が悪いな、ルーナ」


「なんだよ。もう少し楽しませてくれたっていいさね」


「ミリアが困ってるだろう。そのへんにしてやれ」


「ちぇ。ルカちゃんのときといい、随分と過保護さあね」


 ルーナはそう言うと、先程までの彼女が嘘かのように元の飄々とした様子に戻って。


「心配しないでも、見せてやるさね」


「……えっ? でも」


「ルーナはな、他人をからかうのが好きなんだよ。だから、最初から見せてやる気マンマンだったくせに、わざとあんなことを言ってただけだ。そもそも、金を積んだところで、お前、普段なら見せないだろ」


「ひどい言われようさね。金はあって困るもんじゃあねェから、そうさねぇ。ゴーレムの核の破片くらいなら見せてやってもいいさね」


 それはほぼ見せてないのと同義では? と、そんなことを思いながら、ミリアは小さく首を傾げた。


 しかし、どうやら見せてくれるらしい。保存のため、加工などが施されている都合、少し状態などに差異はあるとのことだが、それでも見ることが出来るだけかなりありがたい。特に、薬の材料になる魔物素材などについては希少なため、そもそもお目にかかれるということのほうがない。

 わざわざエアハルトが遠回りをしてでも寄るべきだといって。まさか違法な薬屋だとは思っても見なかったけれども。それでも、たしかに来てよかったと、そう思える。


 すこし、ほっと一息ついて。そういえばと先程出されていたお茶をひとくち口に含む。


 匂いは独特だけれども、薬草茶らしいのでこんなものなのだろう、と。

 そう思いながらに彼女はそれを――、


「マッズ……」


 なんとか、吐き出すことはしなかったものの。襲い来る不味さに、ちょっと吐き気がする。

 ……しかし、ここまでの移動での疲れが少しとれたような気がするから、なんとも言い難い。


「クケケケケッ、いい反応さぁね」


 ミリアのその様子に、ルーナが面白そうに笑い飛ばしていた。


 エアハルトの言うとおり、本当に性格の悪い人だ。……悪い人では、ないんだろうけど。

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