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#61 大罪人と少女は計画を練る

「……さて。魔法使いたちを捕まえると決めたはいいんだが。問題はいくつかある」


「問題?」


 借りていた部屋に戻ってきたふたりは、作戦会議と称して話を始めた。


「魔法使いは公的には大罪人だ。それは、ルカもわかってるな?」


「うん。エアが指名手配されてるのも知ってるし、もし私がバレちゃったら、同じように指名手配されちゃうのもわかってるよ」


「そうだ。……しかし、今から話すことはあくまで推測でしかないが。この街において警備隊たちが敵として認識しているのは、おそらく俺だけだ」


「……えっ?」


 まさか、と。驚いた表情でルカがそう返す。


「この間話したときに、不可解なことがある、といったのは覚えているか?」


「うん。警備隊があんまり動いてないのが変だって話だよね?」


「最悪を想定する、というレベルではあるのだが。嫌な話が、現実味が出てきてしまったことがひとつ。……警備隊、いや、おそらくこのファフマールの上層の一部が、奴ら魔法使いと繋がってる可能性がある」


「……どう、いうこと?」


 意味がわからない、いや、わかりたくない、という様子のルカに、エアハルトがゆっくりと口を開く。


「まず、以前も言ったとおり。この街において、少なくともルカが遭遇した魔法使いが定住できるのは、かなり違和感がある」


 魔法使いがひっそりと隠居暮らしをするのは、珍しいくない。だが、あれほどに暴れまわる存在が隠れ住むには、ファフマールはあまりにも規模が大きすぎる。

 規模が大きいということはそれだけ警備隊たちもいるわけで。


「そして、魔薬の流通。……ルカも実際に見たとおり、推定でしかないとはいえ、魔薬による影響で困窮する人たちが現実に存在している。それはすなわち、労働力、ひいては街としての生産力を落とすことになる」


 だからこそ、国としても、各都市としても魔薬を禁止指定しており、流通、販売、所持、使用、そのすべてを違法としているわけで。

 しかし、それがこの街では平然と、とまでは言わないが、実際に流通し、使用されている。


「ルーナは、情報の筋を言わなかったが。ファフマールから、変な噂があると言った。……これは邪推ではあるが、その噂というのが、魔薬の関連についてと考えていいだろう」


 ルーナの言うとおりに裏路地に入ってみれば、そこにいたのは魔薬中毒者。市場にいたのは、魔薬の引き起こした二次災害に遭った子供たち。

 ……噂の正体はこれであると見ていいはずだ。


「そして、その噂に関する情報の元は。タイミング的に考えれば、アイツだろう」


 エアハルトは、因縁のある男の顔を思い浮かべた。名前こそ知りはしないが、下手に付き合いがある人間よりも、縁がある、人間。

 そいつの所属が警備隊なのだから、嫌な縁なのだが。


「つまり、ひとつの説としてではあるのだが。あの警備隊に起こった魔薬の騒動。その流通元がここなんじゃないだろうか」


 仮にそうであれば、相当なことである。

 ファフマールの中だけで影響が出まくっている、というところに収まらない。対外的にも流通している。それほどに規模の大きい魔薬市場が展開されているというのに、警備隊が一切動いていない、というのはあまりにも違和感が過ぎる。


「……そして、これらの違和感を補強する。あの子供たちの現状だ」


 どう考えても許可無しで開設されている店。あれが黙認されているのは、まだいい。

 しかし、そういった現状がありながらも子供たちの主張が突っぱねられ、保護されることなくああして日々を凌いでいる、ということは。あまりにも異常だった。


「つまり、警備隊のひとたちは、知っていて、わざと無視してるってこと?」


「……おそらくはな。魔法使いが魔薬事業に関わっていることは、俺が接触した魔法使いの発言からして、ほぼ確定。しかし、魔法使いの魔薬事業とかいう、二重でアウトな存在があるにもかかわらず、警備隊が動いていない」


 これは、ここが裏で繋がっていると見るほうが自然だろう。

 下手をすれば、もっと上層部まで、魔法使いの影響力は侵食しているわけで。


「やつらは警備隊から狙われることはないが、俺は狙われることになる。……これは、なかなかに厄介なことだ」


 もちろん、表向きには狙っているふうを装うことだろうが、うまいこと逃げ仰せられた、であるとか、捕まえこそしても、後ほど釈放されるなどになる可能性が高い。


「つまり、どういうこと?」


「相手が本気を出してきた場合、俺たちが戦わないといけない相手は魔法使いの他に、警備隊もいるということだ」


 ……いや、既に上層部が腐っていると考えるならば、そこごと叩かなければ、根本的な解決には向かわないだろう。

 つまり、どちらにせよ、両方を相手取ることになる。


 エアハルトのその分析に、ルカはサッと青ざめる。


「……困ったことに、俺の実力はある程度割れてしまってる。良くも悪くも、目立ってしまった過去がある人間だったからな」


 どこか遠いところを眺めながらに、エアハルトはそうつぶやいた。

 フルフルと首を横に振り、考えを今に戻すと。とはいえ、と。エアハルトは言葉を続ける。


「相手側にも、計算外が間違いなくある。俺の実力のブレというのももちろんだが、それ以上の計算外が」


 エアハルトは、そう言いながらルカをじっと見つめた。

 あまりに突然のことにルカが少し戸惑いながらちょっぴり恥ずかしがっていると。エアハルトが「お前だ」と。


 ルカは、首を傾げた。なぜ唐突に私のことを言ったのだろうか。前後の文脈が繋がらない、と。

 他の人を指しているのではないだろうか。いや、この場にはルカとエアハルトしかいない。じゃあ、一体……?


 そんなことを思っていると、今度はキチンと「ルカだ」と。名指して呼ばれた。


「えっ……と?」


「ルカ。お前こそが、相手側の計算外を生み出す、唯一にして、最大の要素なんだ」


 それは、まるで秘密兵器の使い方を説明するかのように。あるいは、切り札がいかなるものかを紹介するように。


 ルカ自身が、この戦いにおける、最重要ポイントであるかのように。


「……えっ、と?」


 ルカは、考えが追いついていなかった。追いつきたくなかった。追いついてしまった。


 エアハルトは、ルカ自身のことを。冗談でもなんでもなく、重要なキーマンとして言っていることを。


「ええええええええええっ!」


 少女の叫びが。驚きと、恐れの声が。部屋中に響いた。

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