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#59 大罪人たちはこれからの行動を決める

 身近に厄介な存在がいるとわかった以上、不用意に動くわけにはいかない。

 しかし、そもそもここに来た目的が観光、そして農業に関する知識収集であり、はたしてどうするべきか、と。


 こればっかりはひとりで判断すべきことでないと思い、エアハルトはルカに問いかける。


「このあと、どうするのかって……具体的に、なにを?」


 エアハルトのその言葉に、ルカは首を傾げた。


「昨日の一件で、ここはかなり危ないところだということがわかった。……正直、まさかこんなことになってるとは、思いもしなかったが」


 エアハルト自身、ファフマールに来たこと自体がかなり久しぶりということもあったのだが、しかし、エアハルトの記憶にある以前のファフマールはこんなふうではなかったはずなのだが。

 そもそも、農業都市自体が小さな規模ではない街なのだから、このようなことが起こっている方が圧倒的にイレギュラーではあるが。


「まず、取れる対処としては大まかにみっつある。ひとつは、観光などはすっぱりと諦めてしまい、早々にこの街から退散することだ」


 これに関しては、わざわざファフマールまで来たのに、という感想が出ないでもなかった。

 しかし、不幸なことにエアハルトもルカも、その両方ともが魔法使いに補足されてしまった以上、あまり長く居着くのはリスクがある。

 それも、確証はないものの、万が一を想定するならば、バックに農業都市がついていることになる。……最悪の場合を考えると、あまりにも分が悪い。


「ふたつめは、かなりコソコソと、という形にはなるが、観光だけをなんとかこなしてしまう、というものだ」


 ルカに接触してきた側の魔法使いは、もしかすると正直顔を合わせれば襲ってくる可能性があるが、しかし、仮に襲ってくるとしても真っ昼間から、なんてことはおそらくないだろう。彼にも、この街での生活があるわけだから。

 少なくとも、エアハルトが側についていれば、お互いのリスクを考慮して襲ってこないだろう。

 エアハルトの側に接触してきた魔法使いは、なおのこと襲ってこないだろう。その真意はわからないが、しかし、あのとき彼は「事業の邪魔をするな」と言ったのだ。ということは、おそらく邪魔さえしなければ、あちら側から大きく事を起こしてくることはないだろう。


 もちろん、いずれにしても警戒は敷くが。しかし、観光だけを視野に入れるのであれば、大きく問題は発生しない可能性が大きい。


「……みっつめは?」


 エアハルトの提案を聞いたルカは、恐る恐るにそう尋ねた。

 ルカも、今エアハルトが提案した行動については、同じように想定がついていた。しかし、ルカにはこのふたつしか思いつかなかった。

 つまり、ルカが想像もしていないような案を、エアハルトは考えついているということになるはずなのだが。


 しかし、なんとなく。とてつもなく嫌な予感がしていた。


「あの魔法使いたちを、倒す。俺たちがこの街で問題なく動けるように」


「ダメダメダメダメ! 危ないよ!」


 腕をブンブンと振りながら、即座にその提案を却下した。そんな様子のルカを見てエアハルトはフッと笑いながら。


「大丈夫だ。……俺としても、あまりこの手は取りたくない」


 ルカを落ち着かせるように、頭を優しく撫でながら、エアハルトはそう語りかけた。

 それならば、と。ルカは少し落ち着きを取り戻していたが。しかし、同時に不安も感じていた。


 どうしてだろうか。あまりこの手は取りたくないと言っていたはずなのに、その表情はどこか諦めが見えるような。


「まあ、ルカとしては今のみっつ……いや、最後のはないから、ふたつか。どっちがいい?」


 エアハルトがそう聞くと、ルカはううむと考え込んだ。


 ルカの心情的には、観光はしたかった。しかし、昨晩に襲われたこともあり、恐怖ももちろんある。

 本気……とは限らないものの、初めて1対1で魔法使いと、敵意を持って対峙したのだ。まともに戦闘をこなしたこともないルカからしてみれば、その経験はとんでもないものだった。


 だからこそ、慎重になってしまう。


「……観光しても、危険はないの?」


「言い切れはしない。だが、俺がずっとついて回れば、おそらくは大丈夫だと思う」


 ルカには窮屈な思いをさせることになるが、と、エアハルトが謝るが。しかし、ルカは首を横に振る。


「エアが、そのほうがいいって判断したんでしょ? なら、そうする」


 こうなってくると、観光をしたいというのはどちらかといえばルカのわがままだ。だからこそ、エアハルトから提示された条件は、飲み込む覚悟があった。

 そもそも、魔法使いとの対応の経験がないルカと、何度もあるエアハルトとでは、どちらのほうがよりよい判断を下せるかは明白だろう。


「わかった。なら、そういう方針で行動していこう」


 不安こそあるものの、おそらくは大丈夫だろう。

 そう信じながら、エアハルトは準備を始めた。






 路地裏には近づかないようにしながら、ファフマールの中心街をめぐる。


「わあ! 見てみて! これ!」


 その間、ルカの調子は、それはそれは上機嫌だった。

 先程まで抱いていた不安はどこへやら。これが動物ならば、耳をぴょこぴょこと動かしながらしっぽをフリフリとしていそうなほどにテンションの高いルカにエアハルトは振り回され気味になっていた。


「……たしかにこれは、なかなか立派なマールコーンだな」


 丸々と膨らんだ包葉。店主に許可を取って少しだけ捲らせてもらうと、キレイに揃った黄色の粒。


「これとこれ、ふたつ、頂いていいだろうか」


「あいよっ! 300ギルね!」


 気持ちの良い声を出しながら、店主の男性が答えてくれる。

 エアハルトが彼に小銭を渡すと、それを数え「ちょうどだね、毎度あり!」と。


「しっかし兄ちゃん、いい目をしてるねぇ」


「……まあ、農村の出なので。多少は」


 遠慮気味にエアハルトがそう言うと、ガッハッハッハッと笑いながら「そんな兄ちゃんに、オマケだ!」と、隣にあったアッシュポテトを、ふたつ紙袋に入れて、渡してくる。


「いいんですか?」


「気にするな気にするな! これくらいどーってことないさ!」


 そう豪快に笑う彼を見ていると、その後ろから気配を感じる。

 そして、次の瞬間。


 パシーンッ! と、別の意味合いで気持ちのいい音が鳴り響いた。


「なーにが、どーってことないさ、なのよ! 全くこのボンクラは……」


「うっせえ! 俺の店だから構いやしねえんだよ!」


 気の強そうな女性が、紙を筒状にしたものを持ちながら、ポンポンと店主の頭を叩いていた。


「……まあ、構わないけど。その代わりに、今夜の晩酌は抜きにするだけだからね」


「おいおい、そりゃねえってもんだよ!」


 どうやら、店主の奥さんのようで。言い合っているその様子を見るだけでも、どうやらどちらが家庭内で強いのかが少しずつ見えてくる。


「えっと……やっぱりお支払しましょうか?」


 アッシュポテトの分の小銭を取り出しながら、エアハルトが店主にそう尋ねる。しかし、意外なことにそれに答えたのは奥さんの方だった。


「ああ、構いやしないよ。このアホンダラがあげたんだから、その金額はコイツの小遣いからさっぴくだけだからね。それよりも是非とも食べて、そのおいしさを感じてくれると嬉しいね!」


 あっはっはっはっ、と。こちらもよく似た性格なようで、そう笑いながら店の奥へと戻っていった。


 すこし、不安そうな様子で店主の様子をうかがったエアハルトだったが「そういうことだから、気にしなくっていいぞ!」と。


「……店のモンをと、ああは言っていたが。俺が出さなかったら、たぶんあいつがおんなじようにやってただろうからね。気にしなくっていいさ」


 どうやら本当に似たもの夫婦なのだろうな、と。そんなことを感じながら、仲の良いふたりに一礼をして、ルカと一緒に店から出た。

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