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#58 大罪人たちは振り返り考察する

 翌日。


「ひとまず、今の状況を整理しようか」


 宿屋の中で。エアハルトは落ち着いた様子で、ルカと向かい合っていた。

 まだ少し眠たそうな様子の彼女。当然、深夜のおいかけっこの影響が大なり小なり出ているらしかった。


 エアハルトとしても、本当は寝ていていいと言いたいところだったが。状況が状況なだけに、ルカから聞き取りをしたいことと、そして、ルカにもしっかりと情報を共有しつつ、注意を払ってもらう必要がありそうだったため、無理をおして参加してもらった。


 ひとつひとつ、どうしても憶測なども混じるが、可能な限り、確実性の高いものから。


「まず。現状、この街に魔法使いがいる。それも、俺たち以外に少なくともふたりはいる」


「ふたり?」


「昨日ルカが遭遇した魔法使いの他に、その前に俺が遭遇した魔法使いがいるはずなんだ」


 昨晩のおいかけっこにて、エアハルトと対面した魔法使いはエアハルトがその場にいることに対して「なんでお前が」というような態度を示した。

 その態度はまさかこんなところにいるとは、というようなものに見えて。つまりは、エアハルトがこの街にいるとは思っていなかったとも取れる。


「だから、アイツは俺がここにいることを知らなかった。すなわち、俺が接触した魔法使いとは別の魔法使いということになる」


 ふたりともに共通してみれたのは、このあたりを縄張りにしているのだろうということ。エアハルトが接触した方は、自身の事業を荒らされるのを嫌った。ルカが接触した方は、襲われた経緯を聞けば、隠れ家か、あるいはそれに準ずるものが特定されかけて口封じのために。というところだろう。

 どちらも、このあたりを根城にしていることがわかる。


「こうなってくると、このふたりに接点があるのかということが気になってくるが……」


 互いに認知していない、ということはおそらくないだろう。いくらなんでもずっと暮らしていて、ご近所さんに魔法使いがいることに気づきませんでしたー! なんてことになる魔法使いは、まずいない。

 これが仮に、片方が魔法の使用の一切を封印して。その上でひっそりと暮らしていれば話は別だろうが。ある程度近くで魔法が行使されれば、規模によりけりだが、それなりの確度でいるのではなかろうかということには気づくはずだ。


「ちなみに、ルカはどうやってその場所を見つけたんだ?」


「えっと……エアを探そうとして。それで、魔力を辿っていったらあそこに……」


 この探し方については、さすがにイレギュラーが過ぎるが。

 とはいえ、ルカが検知できたということは魔力が漏れているわけで。つまり、行使はあるはず。

 ならば、やはり最低限、お互いの認知はあると見たほうがいいだろう。その上で、互いにいがみ合うことなどもしていないとすると。


「……手を組まれているのが、最も考えたくない筋だな」


 しかし、普通に有り得そうな筋でもあった。


 もちろん、魔法使いが多くいれば、それだけ警備隊なんかに見つかりやすくなるため、魔法使い同士で手を組むというのはリスクを伴う行為ではあるのだが。

 しかし同時に、様々、規模が大きくなればなるほど人手が必要になるのも事実。


「……あの人、やっぱり強いの?」


「実力としては、おそらく俺のほうが上だ。……ただ、正面から衝突するとなると、あまりにも不利すぎる」


 ルカが接触した方については、この解釈で間違いない。エアハルトが遭遇した方については……正直不明瞭なことが多すぎて判断ができない。


「いざとなれば周囲を巻き込んででも殺しにかかってくるやつと、可能な限り周囲を守りつつ、相手の無力化を狙う戦いとでは、相当な実力差を要求される」


 エアハルトがウェルズと戦ったときも。彼とエアハルトとでは実力差は明確に存在しているにも関わらず、戦闘におけるテンポを奪っていたのはウェルズだった。


 魔法使いひとりだけでも、現状では後手に回る戦いが想定される。そんな中で、少なくともまだもうひとりいて、更に手を組んでいるかもしれないとなると、……あまり考えたくはないことだろう。


「とりあえず、厄介な存在は最低でもふたり。……というところで、他の問題点。厄介な人物ではなく、厄介な事柄、だな」


 と。エアハルトがそういうのは、魔薬のこと。


「ルカは魔薬についてどれくらい知ってる?」


「あんまり。なんか、コルチでエアたちが話してたのを聞いたくらい」


「まあ、簡単に言っておけば禁止薬物だ。効果は様々あるが、共通して言えることは、強い依存性と、身体へと甚大な損傷がある」


 そしてそれらが、この街に蔓延しかけている、と。

 少なくとも、一部路地裏ではその傾向が見えている。


「もしかしたら、なんだが。ルカのいた近くの路地裏もそんな感じだったのかもしれない」


「それで、そこに入りかけた私に、あの人が疑って……」


 これに関してはあくまで仮説でしかないからなんとも言い難いが、しかし真であるならば、件の魔法使いたちが手を組んでいると見ていいことになる。


「だがしかし、不可解な点がある。主に2点」


 エアハルトが顎に手を当てながら、眉間にシワを寄せた。


「昨日のあれが深夜の出来事だったとはいえ。この街の警備隊がほとんどなんの反応もしていない。そもそも、普段からなにかあったときにああいう応対をしてしまうような人間が、定住という択を取れるというのは少し違和感がある」


 基本的に魔法使いが街の中で定住するためには、その街でひっそりと隠れていく必要があるため、あんなボンボンと魔法を行使するタイプの人物は定住には向かない。

 なぜなら、警備隊なんかに見つかりやすいから。

 しかし、昨晩の一件があったにもかかわらず、街の方では警備隊が大きく動いている様子もない。


「それに、街の中に魔薬が蔓延っているというのに、警備隊を始め、都市側が動いていないというのも、なんとも気になるところではある」


 魔薬はその性質上、人を廃人にしかねない特性を持つ。そのため、魔薬の蔓延は、すなわち働き手の減少に繋がりかねず、同時に、労働力の低下を引き起こす。

 そのため、魔薬の存在自体が本来都市側、領主側としても非常に好ましくないもののはずなのだが。


 しかし、魔薬中毒者たちがああやって道に横たわったまま放置されている様子を見るに、なにかしらの施策を行っているとも思えない。


 ファフマールが農業都市であり、その一部といえるこの中心街だけで起こっていること、としてみると、もしかしたら別段急を要して対策するほどのことでもない、ということなのかもしれないが。

 しかし、それを起点にして広がっていくリスクや、あるいは他の都市との関係性の悪化を引き起こしかねないという面としても、本来これらは引き止められるべき事柄のはず。

 なんなら今回の件についてはバックに魔法使いがついている。都市としても、領主としても。なんなら、国としても放置はしたくない案件だろう。

 農業都市の抱えている戦力的に魔法使いに対抗するに不安だから、ということについても。今回の件であれば十分国に援助を求められる範囲だろう。しかし、そういった話を聞いたこともなければ、そんな様子もない。


 まるで、都市側が。魔薬の流通に関して、知らぬ存ぜぬで無理やり通して、暗黙の上でそれらが認められているかのように。


 そんなことがあるのか? という疑問を抱えながら。

 しかし、そう考えれば様々合点がいってしまう現状に。


「……もしかして、想像以上に厄介な案件なのでは?」


 自分たちが片足突っ込みかけているこの事件に、嫌な予感を感じていた。

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