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#46 少女は戦果物を拾い集める

 アルフレッドの治療はしばらくして終わり、クレアの治療がまだ終わらないエアハルトから、ルカは床に落ちているゴーレムの核の回収を頼まれていた。

 ゴーレムの核自体は指2つでつまみあげられるほどでそんなに大きなものではないのだが、それが集めるうちに袋いっぱいになっていくのだから、どれだけの量がいたのか、想像がつく。


 瓦礫の山はルカの素の力ではどかすのもひと苦労だった。

 しかし、もはやここにいるのはアルフレッドとクレアだけ、魔法を隠す必要もないので魔力操作で筋力に補助をしてあげる。

 とはいえ、傍から見れば小さな子供が己の体躯ほどはある岩の塊を平然とどかしているようにしか見えないので、アルフレッドはこれは魔法の力だと、認識してはいたものの、驚きを隠すことができなかった。

 思わず目を見張り、ジッと見つめてしまう。最初に触れたときこそ畏怖の念があったアルフレッドだったが、目の前で守られ、傷を治してもらった彼の今の視線の原動力は興味だった。


 しかし、どうにもふたりともに言葉をかわそうとしない。お互いに嫌われてしまっているのではないかと思っているから、話そうとしない。

 そんな状況下なのでやはりというべきか、ルカは自身に向けられるその視線を、奇異のものだと感じてしまっていた。


(エアも、ずっとこんなふうに思ってきたのかな)


 ルカのその考えは、ある意味正解ではあった。エアハルト、もとい魔法使いが他者を助ける際にどうしようもなく魔法を行使することがある。それが原因で、あるいは、行使しなくとも指名手配で顔が割れているために、助けた相手から魔法使いとバレることは少なくないである。

 そうしたとき、助けた者から感謝を述べられることが無いとは言わないが、それと同じか、それ以上に助けたはずの人から石を投げられる。場合によっては近くの警備隊にかけこまれ、あわや捕縛されかけるなんてこともなくはない。

 ミリアのように助けてもらったことに恩義を感じている人もいないわけではないのだが、どうしても少数派になってしまう。それくらいに、この国では魔法使いが忌避されている。


 とはいえ、アルフレッドがその少数派になりつつあるのだが、当然ながらルカがそれを知る由もなく。

 複雑な表情をしながら、ルカは作業を続けた。


 ちょこっと涙が出てしまったが、すぐに拭う。

 ルカはわかっていたつもりだった。エアハルトがしていた警告の意味、その真意を。

 ルカが魔法使いになる前、そしてなったあとにも、定期的に今ならまだ戻れる、といいながら伝えてくれていたことの意味。

 魔法使いの、この国での扱われ方。不当な扱われ方をしているというのは聞いていた。その一端は、ここに来るまでに少しずつ見てきた。

 しかし、いざ自分がそれを受ける立場になり、その本当の重みを知った。

 重かった。今のルカにとってはそれを受け、足を動かすのは厳しいほどに重たいものだった。

 見立てが甘かった、なんて言うのは簡単な話だろう。しかし、そんなものは理由にはならない。


 ルカはもう、引き下がれないところまで来てしまった。それを自覚しているからこそ。


(頑張らなくっちゃ)


 前へと進む決断をした。元より自分からなりたいと願ったのだ。

 なにかを成せる、そんな存在に憧れて。


 そうなれるようにも、この苦しみは、しっかりと胸に刻みこんで。






 しばらくして、エアハルトがクレアの治療を終えた。

 意識の戻ったクレアを見てアルフレッドは駆け寄り、抱擁をかわしながら互いの無事を喜び合っていた。


「ルカ、食いたくないのはわかるが、とりあえず無理やりにでも食っておいてくれ」


「……? わかった」


 ルカは首を傾げるものの、エアハルトがそこまで言うのであれば理由はあるのだろう、と。気持ち悪さを我慢しながら干し肉を口の中に押し込む。

 消化器官が悲鳴をあげているように感ぜられるが、なんとかルカは気分をごまかして飲み込む。お腹のあたりがとてつもなく重たい。


「もともと、例の入り口を探しつつ戻るつもりだったが、状況が変わった。今すぐにでもここから出る」


「わ、わかった。……けど、なんで?」


 ルカがそう尋ねると、エアハルトはちらりとアルフレッドたちに視線を向ける。ふたりとも治療は済んでいるため、ここから脱出するだけなら問題なくできるだろう。しかし、


「俺たちが魔法使いということがバレてしまったからな。この町には長居ができない」


「あっ……」


「やや強引にではあるが、正面入口から強行突破する。その後はすぐにルーナのところに行き、最低限の準備だけ済ませたらそのままこの町から出る」


 エアハルトがこれからの手順を手短に説明していると、横からアルフレッドが声をかけてくる。


「えっと、その、俺たちは別に警備隊には……」


「その言葉を信じたいというのが本音なのだが、俺たちは立場上、それを信じることができないんだ」


 すまない、と。エアハルトがそう言った。魔法使いは大罪人。少なくない懸賞金もかかってる。警備隊に報告するだけでも大なり小なり報奨が出ことがある。だから、警備隊には言わないという言葉を信じて、万が一に囲まれるなんてことになってしまうわけにはいかない。


「だからこそ、別に俺は警備隊に報告されようが恨まないし、お前たちがその報告で多少なりとも活動資金を稼げるのであれば報告したっていいと思ってる」


「そんなっ! 助けてもらった上に売るような真似は――」


「魔法使いとは、そういう存在なんだ」


 エアハルトが、そうハッキリと言った。アルフレッドに向けて、そして、ルカに向けて。


「だから、別に気にしないでくれていい。……ルカ、行くぞ」


「うん」


 エアハルトがルカに手を差し伸べ、ルカがそれをとる。そのまま、部屋の外、出口へと向けてふたりで歩き始める。


「あっ、ありがとうございますっ! 本当に、本当にッ!」


 アルフレッドの声が聞こえる。少し遅れて、クレアの声も聞こえる。ふたりがずっと、必死で感謝を述べていることがわかる。

 エアハルトは振り返らなかった。ルカは、気にはなっていたものの、エアハルトが振り返らないのだから、自分もそうするべきなのだろうと思い、振り返ることはしなかった。

 けれど、エアハルトが握る手がキュッと強めたことを、ルカはしっかりと感じ取っていた。


 しばらく歩き続けていると、次第にふたりの声も聞こえなくなっていた。


「……悪かったな」


「えっ?」


「辛かったろう。存在そのものへの拒絶は」


 言われてルカは納得する。それは先刻、自身が感じていたソレを追わせてしまったと、エアハルトがそう思い、謝罪してるのだと。

 ルカは首を振りながら、彼の方を向き、言う。


「大丈夫だよ、エアのせいじゃない。私が使うって判断したんだから」


「……そうか」


 しかしエアハルトの顔は晴れない。やはり、少なからずは自身の責だと思っているのだろう。


「そういえば、ゴーレムの核たくさん集めてたけど、あれどうするの?」


 話題をそらそうとしたのがひとつ、純粋に気になったのがもうひとつ。ルカはふたつの理由から、そんな質問を投げかけた。

 最初にアルフレッドたちと出会ったとき。そのあとにルカが訓練を行っているとき。そしてついさっきの魔物部屋(モンスターハウス)。その全てにおいて、エアハルトはゴーレムの核を集めていた。

 アルフレッドたちはそれを集めている様子はなかったし、時折床で放置されているそれを見かけていたので、そんな貴重なものでもないのではないかとルカは不思議に思っていた。


「ああ、ルーナがあれを欲しがってるんだよ。なんでも薬の材料にするんだとか」


「薬の……?」


「そう、薬。俺は専門外だからよくは知らないが、身体の中の魔力が乱れている人の、魔力の調整をする薬になるらしい」


「へえ……」


 ルカはなるほどな、と納得しそうになって「ん?」と、疑問を抱く。


「それ、必要なくない?」


「だよなあ」


 基本的に、普通に生きていれば魔法を使わない一般人に魔力の乱れが起こることはない。魔法使いには起こることがあるが、よっぽどの成りたてで、指導してくれる人がいない状況だったというくらいでもない限りは、乱れても自分で調整できる。現に、ルカは魔法使いになってまだ浅いほうだが、自身の身体の中の魔力をある程度操作できるくらいにはなってる。


「でも、それでも欲しいらしいから集めてたんだ」


「そうなんだ」


 やっぱり不思議な人だなあ。ルーナへのルカからのイメージは、やはり変わりそうになかった。

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