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#4 少女は大罪人を問い詰める

 きょとん。じーっ。ルカの瞳はわけもわからずミリアを捉える。


「もしかして……エアハルト、あんたの子供なの? いや、前にあったときは連れてなかったから……かっ、隠し子!?」


「はあ? 何を唐突に言い出してんだよ」


「ふっふーん、誤魔化したって無駄なんだからね。どのみちいままでは相手の女に預かってもらってたんでしょうけど、ついに愛想を尽かされたのね、ザマア見なさい」


「いやいや、マジで何言ってんだ? そもそも俺とコイツが親子とか、ありえねえだろ。年齢差考えろ」


 ツンっとトゲのある口調でミリアはエアハルトを責め立てる。その瞳には若干の露が溜まっていた。


「年齢差って……十分じゃない! その子が何歳なのかは知らないけど、エアハルト、あなたは26歳でしょ?」


 あー、そっか。と、エアハルトが額に手を当てる。


「悪かった。先に言っておくべきだった」


「何よ。苦し紛れの言い訳なら聞かないわよ」


「言い訳っつーか、その……だな。うん、ルカ、ついでだ。自己紹介」


「……わかった。エア」


 エアハルトに呼びかけられて、ルカがちょっとだけ前に出る。


「私の名前はルカです、これはエアにつけてもらいました」


「やっぱりじゃない!」


「ミリア、最後まで聞け。……ルカ、続けろ」


 話をぶった切ったせいで少し怖気づいていたが、エアハルトに言われたのでルカが言葉を再開する。


「えっと……自己紹介って、何すればいいの?」


「そう……ね。丁度さっきまで年齢の話をしてたし、あなた……ルカちゃんだっけ? は何歳なの?」


「年齢? 私は17歳だよ! たぶん!」


 ザアアッ。枝が揺らされる音がはっきり聞こえた。ミリアはあんぐりと口を開ける。


「あがっ、顎外れたわ」


「大丈夫か?」


「大っ丈夫な訳ないでしょっ!」


 咄嗟にエアハルトは謝ったが、よく考えてみれば、謝る必要がなかったようにも思えた。


「と、に、か、く! そんな嘘は通用しないから。全くもう、こんないたいけな幼子に嘘をつかせてまで隠し通したいの? そこまでしてとか、人として恥ずかしくないの?」


「随分な言われようだな……。しかしこれが真実なんだし、どうしようもないんだよな」


 コクコク、と。ルカがエアハルトの言葉に頷く。


「……え、マジのマジでマジなの?」


「マジのマジでマジなんです」


 真剣な顔で返す。すると、手足をプルプルさせつつうずくまり、頭を抱える。


「いやいやありえないじゃん、こんなにちっさいんだよ、こんなに、こんなに! 私の後輩のほうがよっぽど大きいわよ? 少女どころか幼女って言っても違和感ないレベルなのよ? それなのに、それななのに、どうして私と1個違いなのよっ! なんで私の1個下なのよ! そんなのありえないじゃない!」


「……ありえないとか言われても、それが事実なんだから」


「あーもう、わかりましたよわかりましたっ! ルカちゃんは17歳で私より1歳下! だから年齢的にもエアハルトとは親子じゃない! そういうこと?」


「そういうことだ」


 やっと理解してくれたのか、と。安堵するエアハルト。やっぱりちょっと納得いかない、と。ひたすら頭を悩ませるミリア。


 そしてルカはというと、依然としてきょとんとしていた。






「そういえば、持ってきてくれたのか?」


「あ、うん。とりあえずは両方持ってきたけど、どっちがいるの?」


「どっちも、だ」


 大きくため息をついたのはミリア。持ってきたリュックサックを右手に持ち、前へと付き出す。

 受け取ったエアハルトは、礼を言い「いつもどおり、増やして返す」と。


 中を開いてみると、焦げ茶色した外套コートが1着、それから小さな皮袋に小銭がいくらか入っていた。


「いつも悪いな」


「いいのよ、商売だと思えば辛くない」


「……そうか」


 商売だと思えば。なるほど、たしかに合理的である。利益はどう考えてもミリア側に発生している訳で。しかし、エアハルトにとってみれば、商売だから相手してくれる。それだけでも、ありがたった。


 エアハルトが魔法使いだと、たったそれだけのことで物を売ってくれない商人がほとんどである。それは他の魔法使いにも言えたことであって、よっぽどの変人でもない限り好意的には接してくれない。

 大抵の場合は、よくて門前払い。悪くて警邏隊やら軍やらが動き出す。


「ところでなんだが、入ったらまずこれを売ってきてくれないか?」


「割合」


「相変わらず手厳しいな……。じゃあ、1」


「ぬかりないって言って。1.5」


「……1.2だ」


「わかった。こっちに渡して」


 手を出されるので、エアハルトは丁度昨晩に狩った野獣の毛皮を渡す。


「結構あるのね」


「集団で襲ってきたからな。それなりには」


「まあ、私の利益が増えるだけだから構わないのだけど」


 少しばかり上機嫌でミリアが毛皮を受け取り、そのまま軽い足取りで歩き出した。


「ねえ、何の話をしてたの?」


「ああ、さっき言ったろ? 俺じゃ売り買いないから、代わりにやってもらって、ミリアにはその手間賃として、たとえば今から物を売ってもらうから、その利益のうち、どれくらいの割合を手間賃として払うのかってこと」


 だから「割合」って言われた。と、エアハルトは説明する。


「じゃあその後の数字がその割合? ってやつなのね」


「その通り。今の会話だと俺が最初に1……つまりは1割、全体の10分の1でどうか? と持ちかけた」


「けど、私はそれじゃ少ない、1.5割寄こせ、と言う」


 ミリアは振り向かずにそう口を挟んだ。


「そして俺が、それなら1.2割で。と聞く」


「そしてそれを私が了承したってわけ。わかった? ルカちゃん」


 ここまできてやっと振り向いた。するとルカはというと、眉間にシワを寄せて、人差し指でこめかみあたりをぐりぐりといじりながら歩いていた。


「わかったような……わからなかったような……うーん」


「あはははっ、まあわからなくても仕方ないよ、普段からこういうことをしてないとちょっとわかりにくもんね。まだちっちゃいんだし」


「17歳だけどな」


「はっ! そうだった……って、それマジなの? マジの方でマジなの?」


「残念ながらマジでございます」


 ニヤニヤと笑いながらエアハルトがそう言った。嘲笑というよりかは、どちらかというと苦笑いに近い笑い。


「ほんっとうに信じらんない。こんなにちっさいのに……ちっさいのに私より1個下とか」


「まあ、今はそんなこと考えてもしかないぜ、ミリア。そういえば、もう1個頼んでもいいか? もちろん手間賃は払う」


 思い出したかのように、エアハルトは言った。


「何かしら。金額次第で考える」


「ルカの服あるだろ? このままじゃダメだろうから、何か買ってやりたいんだが」


「やるわっ!」


 ビクッ、と。エアハルトとそれから隣りにいたルカが体をこわばらせた。


「むしろきっと私の古着があるから、お下がりで良ければいっぱいあるわよ! あげるわ!」


「そ、そうなのか。それは……助かる……」


「そうと決まれば、さっさと行くわよっ!」


 急に、とんでもなくテンションの上がったミリアに、少し戸惑いながら、2人はついて行く。


「ってか、ちょっと待ちやがれ!」


 走り出したミリア。あんまり早いのでエアハルトが駆け出そうとするが、横にいるルカによってそれを留める。


「ルカ、ちょっとこっち来い」


「どうしたの?」


 トテテテと、ルカが近づくと、その小さな体はふわりと持ち上げられる。


「わあっ、高い!」


「あんまり暴れるなよ?」


 抱きかかえられ、かと思うと今度は肩車まで持ち上げられる。

 ……さすがに街道とて素足で走るのは、と。エアハルトなりの配慮だろう。


「行くぞ!」


「うん!」


 随分と前に行ってしまったミリアに追いつくため、エアハルトは足を前に出し始めた。

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