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#39 大罪人は自身の力を顧みる

 アルフレッドとクレアの存在が、探知魔法に引っかからなくなるまで歩き、エアハルトは少し歩調を緩めた。

 もちろんこの手の魔法がダンジョン内では充足に力を発揮できないが、それでも探知魔法に引っかからなくなるまで離れれば、ある程度離れたと見ていいだろう。


 エアハルトが後ろを気にしてみると、ルカが少しだけ肩で息をしながら歩いていた。……どちらにせよ、いい頃合いだったということだろう。


「……ルカは、あのふたりのことどう思った?」


 エアハルトが、突然そんなことをこぼした。ルカはまさかそんなことを聞かれてるとは思ってもいなかったので、しばらく驚いた表情をしていたが、すぐに答える。


「私は苦手だったけど、悪い人じゃないんだろうなってのはよくわかった」


「……だなあ」


 ルカの答えに、エアハルトは遠くを見つめながら返した。


「…………エアにしては珍しく、随分と他の人を気にかけているように見えた」


 今度はポツリとルカがつぶやいた。エアハルトは表情ひとつかえず、ただ「ああ」と答えた。


「もちろん、たまたま一緒になったやつの死体を見たくはない、というのもあったんだが」


 そう言いながら、エアハルトは腕を胸の前辺りに持ってきて、手首を見つめる。


「非干渉の原則を盾に、魔法使いだということ(不都合なこと)を隠そうとしていたことに負い目を感じてもいたんだろうな」


 自分の手は汚れている。自分の足には、あまりにも多くのものがつけられ、引きずられている。


「もちろん、彼らを断る上でいった言葉は本心だ。ああでないとそのうちダンジョンで死ぬことになる」


 自身の両腕を見つめ、とても悔しそうにしながらエアハルトは言う。


「ただ、それは必ずしも今でなくとも良かったはずなんだ。一旦今回は共に行動して、帰還して、再度ちゃんと情報収集させてから彼らを送りだせばいいだけだったんだ」


 けれど、それはできないんだ、と。エアハルトは自嘲気味につぶやく。


「俺は魔法使いだから、正規の出入り口から出るわけには行かない。……いや、それ以前に共に行動する中で正体に気づかれるかもしれない」


 どちらにせよ、彼らと行動することはできなかった。エアハルト自身の個人的な理由で。


「魔法が、彼らを拒絶してしまう」


 エアハルトの口から、どっと重たい、とても嫌なものが溢れ出して落ちた。


 いつぶりだろうか。エアハルトは久しい感覚に包まれる。自分自身のこの魔法(チカラ)が酷く呪わしく思える。


 最近ではあまり思うことがなかったが、一昔前まではこんなチカラなければよかったと幾度となく考えては自棄になりかけていた。

 そういえば、どうして最近は思うことがなかったんだっけか。


「でも、魔法は……」


 ああ、そうだ。コイツが、ルカが……。

 エアハルトは口を開いた彼女を見つめ、そう思った。


「魔法はとってもキレイで、とってもすごくて。ちょっと危険で。……それで」


 ルカは、必死で言葉を探して、紡ぐ。


「それで、私を助けてくれたチカラだよ」


 情けない。エアハルトの心に残ったのはそんな感情だった。


(ずっと、そして、今も。俺はこうしてルカに助けられている)


 最初は本当に些細なことだった。死にかけてた俺に食料と水を与えてくれて、そして嫌いだった自分のチカラを肯定してくれて。

 ルカは決してそうは思っていないことだろうし、きっと彼女からすれば助けられてばっかりだとかそんなこと言うだろう。けれど、


 俺はずっと、ルカに助けられている。

 俺がこの魔法(チカラ)を嫌に思わず使えているのは、お前のおかげなんだ。


 口に出しはしないが、エアハルトは心の中で、改めてそう確信した。


「そうだな。正しく在る限り、魔法はきっと俺たちを助けてくれる」


 右手をルカの頭の上に当て、撫でる。いつもより少し強めに撫でる。

 されるがままのルカは戸惑いながらも、どこか嬉しそうにしながら「にゃふぅ」と声を漏らす。


「さて、変なことを言って悪かったな。先に進みたいんだが、体力の方は大丈夫か?」


「大丈夫。変なことも言ってないし、体力の方も」


 ちょこっとだけ疲れはあるけど、まだ大丈夫。


「また彼らとかちあわうわけにはいかないからな。ざっくり2、3ほど安全地帯(セーフハウス)を見逃すつもりだ」


 それはちょっと、大丈夫じゃないかも。ルカはちょっとだけ顔をしかめた。






 地響きと共に、安全地帯(セーフハウス)が密室になり変わる。

 今度こそ、この安全地帯(セーフハウス)内にいるのはエアハルトとルカのふたりだけだった。


「それじゃあ魔法の訓練を、と言いたいところなんだが」


 立ち上がったエアハルトはそう言い、ルカを見る。そこそこにへばっている彼女を見て「まあ、そうなるよな」と聞こえないように小さくつぶやいてから。


「息が整ったら、始めようか」


「……うん」


 申し訳なさそうに、彼女はそう言った。


「とりあえず先にある程度の説明をしておこう。今回ここでやることは、まずはルカの許容量(キャパ)の上限の引き上げ……というか、全力の出し方の練習だ」


 エアハルトがそう言うと、ルカは倒れながらに首を傾げた。


「今までは基本的には魔法を制御する方向で練習してきた」


 それはもちろん、彼女の身体を守るためでもあった。魔法というちからはちょっと制御がブレて許容量を超えるだけで身体が消し飛んでもおかしくない。それくらいのチカラなのだ。

 だが、制御ばかりやっていても魔法は伸び悩む。だからこその、力を出す訓練というわけだった。


「とにかく大きな植物を想像して出してみる……というのが一番わかりやすいだろうか。そういう今までだとやってこなかった、やれなかったことをする」


 やれなかった、というのは万が一に備えてだ。荒ぶった魔法で何かしらの痕跡を見つけられて見つかるなんてことは避けたい。

 しかし、ダンジョンならばその心配はない。安全地帯(セーフハウス)の中なら密室だし、ダンジョン自体が魔法を受け付けない性質を持つので、痕跡も残りにくい……というか。


(おそらくは、ダンジョン自体にもなんらかの魔法が混じってるのだろう。痕跡が隠れるってことはダンジョン自身が魔法に満ちてるってことだ)


 そういう関係上、魔法を練習する上でこれ以上ない場所でもあるのだった。


「……ちなみに、まずはって言ってたけど、他にもなにかしたりするの?」


 ここに入ってからの会話に、ところどころ不安感を感じていたルカはそう尋ねた。エアハルトが自身に、なにかとんでもないことをさせようとしている気がしていた。


 そしてその予感は、当たっていた。


「ああ、やってもらうぞ。さっきはあのふたりがいたのが少し想定外だったが、おかげで先んじて説明は終えられたからな」


 いやまさかそんなはずはと思い込もうとするが、ルカの中の嫌な確信がどんどんと鮮明になっていく。


「さっき戦っていたゴーレム。アレをルカひとりで倒してもらう」


 そしてハッキリと、姿を表した嫌な予感に。


「エアの鬼いいいいいいいい!!!」


 ルカは声を荒らげて、叫んだ。

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