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#24 少女はそっぽを向く

「うむむ……《鋳造》!」


「ルカ、練習熱心なのはいいが、危ないから歩きながら魔法を使わない」


「エアだってちょっと前、歩きながら魔法使ってたじゃん」


「そういう屁理屈は見ずに魔法を扱えるようになってから言えっての」


 むう。ルカが頬を膨らませながらちょっとだけそっぽを向く。金属塊はほんのちょっとだけうねうね動く。


「こら、ちゃんと前を向く」


「むう」


「ルカ!」


 ふくれっ面のまま、そっぽを向いていたルカは、

 足元の樹の根に足を引っ掛ける。


「うひゃ、うきゃあああ!」


「《制限付き反重力(フロート)》ッ!」


 ふわりっと、ルカが感じたのは柔らかなクッションのようなものに包まれるような感覚。そしてゆっくりと体勢がもとに戻る。


「ったく、ちゃんと前見て歩きなさい。曲がりなりにもここは森なんだから、何があるかわからないんだから」


「ごめんなさい……」


「とはいえ、森はもうすぐ抜けるんだがな」


 バサリ。エアハルトは着ていた外套のフードを被る。深く被って顔が見えにくいほどに。

 すぐにルカもそれを真似する。


「別にお前はいいんじゃないか? 別に顔が知れてるわけじゃないんだし」


「ううん、やるの」


「…………そうか」


 バサッとフードをかぶると、後ろ髪がぐしゃぐしゃと前にかかる。ルカは少しの間固まり、髪を乱雑にフードの中に詰め込み始めた。


「ああ、ああ、ルカ。ちゃんと丁寧にしてあげなさい」


 エアハルトがその手を止めて、一度フードを脱がす。


「手ぐしで悪いな」


 丁寧に髪をときすかし、後ろの方で簡単にまとめる。そして丁寧にフードをかぶせてやる。


「よし、これでいいだろう」


「……うん」


「ん? どうしたんだ? なにかまずかったか?」


「ううん、そうじゃないの」


 ルカはそっぽを向いた。エアハルトはまた何かやらかしたのかた心配する。ルカがそっぽを向くのは、たいていちょっとだけ不機嫌なとき。

 ついさっき、エアハルトに屁理屈と言われて膨れたときのように。


 ただ、今回は違う。


(顔、熱い、熱い。エアが、近かった。なんか、とても、熱い。恥ずかしい)


 真っ赤に染まった赤い顔。無意識にそれを見せまいとしていた。


「ほら、ルカ。もうすぐだぞ」


 だんだん視線の先が明るくなってきた。二人はそこを目指して歩く。

 歩いて、歩いて、歩くと。ついに最後の木にたどり着いた。


「よし、合ってるな」


 出た場所は、街道だった。そしてすぐ先、見えるくらいの距離に、家々が見える。


「……? ここがファフマール?」


「違う違う。ファフマールはもっと遠い。ここは第一目標の町で名前をゼノンという、旅人たちが中継地点としてよく用いる町の一つだ」


 エアハルトはそう言う。


「さて、ルカ。森から完全に出る前に、ちゃんと覚えてるよな?」


「うん!」


「ひとつ」


「魔法は便利な力でもあり、危険な力でもある。エアがいいと言うまで、絶対に一人で勝手に使わないこと!」


「よし、ふたつ」


「人前では使わないこと!」


「それじゃあ、みっつ」


「人を傷つけるための力ではなく、自分や他人を守るための力だと言うことを忘れないこと!」


「よし、それじゃあ分かってると思うがここから先では魔法は禁止だからな」


「うん!」






 ゼノンの町は、クラテスとは違い、壁に囲まれてはいない。もちろんこの町にも魔物の襲撃は来る。

 しかし、そもそもゼノンの町は旅人の中継地点として利用されている。旅人は全体的には冒険者が多い。

 もちろん商人もいるが、その護衛として冒険者がついていることも多い。

 つまり、魔物の襲撃があっても、対抗手段がある。故に壁で守る必要がない。

 また、壁でいちいち確認する作業なんかは、疲れた旅人たちを更に疲れさせる。そんな酷なことはするべきではないだろうと。


 もちろん、魔物が襲ってきた場合には旅人たちも防衛に参加する、という暗黙の了解があるが。まあそこは双方が合意しているに近いので問題はない。


「エア! 見て! すごいよ、すっごい水! アレが海なの?」


「違う違う。アレは湖って言うんだ。海はもっとでかい」


「あれより、もっと?」


「ああ、もっと、もっとだ」


「すごい!」


 ルカの目がキラキラと輝く。エアハルトは内心「そんなに期待するようなことなのか」と思いつつ、ちょっと焦る。ここまでの期待をさせておいて、実際の海でルカがそこまで感動しなかったら、などと焦る。


「ねえ、エア。湖にもお魚はいるの?」


「いるぞ。このゼノンで有名な料理は湖の魚介類を使った料理だ」


「お魚……お魚!」


「なんだ、お前そんなに魚好きなのか?」


 エアハルトは不思議そうにそう尋ねる。


「えっとね、一回だけ食べたことがあるの。その時とっても美味しかったの」


「そう、か」


(そういえば、今まで魚料理は出したことがなかったな。どうしても肉のほうが調達しやすかったから)


「それじゃ、今日は魚料理を食べるか。それでまた気にいるようなら、今度から家でも出してやろう」


「ほんと!? やったあ!」


 エアハルトは少し拍子抜けする。まさか魚ひとつでここまで喜んでくれるとは、嬉しい方での想定外だった。


 ただ、あまりに興奮して走っていきそうになるルカ、エアハルトが慌てて追いかける。


「ほら、気持ちは分かるけど、迷子になっちゃだめだから、な?」


 パシッとルカの手を取り、エアハルトはそう言う。


「あ、え、うん。……うん」


 ルカはぷいっとそっぽを向く。その行為にエアハルトは思わず手を離した。


「あ…………」


「どうした? ルカ」


「えっと、手……」


 小さな声で、ルカはそう言った。


「ああ、急に握ってすまなかったな」


「そ、そうじゃなくて……その……」


 だんだん小さくなりながら、それでもルカは言った。


「握って。迷子になっちゃ、ヤだし」


「……おう」


 ここに来てエアハルトは初めて知った。ルカがそっぽを向くのは怒っているときだけではない。

 照れくさいときもなんだ、と。


 …………ちょっと違ってるけど。


「それじゃ、行くか」


「……うん」

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