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#165 少年の告発

 次から次へと車両を飛び移りながら、ルカは鎖の大元を破壊していく。

 数が多い上に、妨害もある。


 だが、ひとつひとつ、少しずつ。確実に。


 それに。ルカは、ひとりではない。


 マルクスに託された直剣、テトラたちのサポート。

 精霊たちも、その時々に手助けをしてくれている。


 そして、なによりも。






 アレキサンダーの前に立ち、矢止めをしたマルクス。

 マルクス自身、その実力もあって、前線に立つものの中ではかなり顔が知れている。


 そんな彼が、普段見せることのないような低い声と鋭い眼光で牽制をしていることに。思わず怯み、足を止めていた。


 その時間は、一瞬ではある。


 だが、その一瞬の、人々の冷静さが、重要だった。


「戦うのを、やめてください!」


 アレキサンダーの声が、戦場に広がっていく。

 先程までは届くことのなかった言葉が、今度は、届く。


 無論、それだけで止まるかというと、そうはならない。

 ほとんどの人にとっては彼の姿は目についていない。声音だけで、なにやら子供が叫んでいる、という程度でしかない。

 いや、アレキサンダーの姿が見えている人間からでも、あの子供は誰だろう、となっているもののほうが多いだろう。


 だが、全員ではない。気づくものも、いる。


 そうした人を起点として、どよめきが波及していく。人々の間に、困惑が生まれる。


 構えていた武器が、少しだけ、降りる。足が、止まる。

 攻撃の手が緩んだことは、アレキサンダーたちにも、そして、彼らの進軍を止めていた精霊たちにも、理解できた。

 アレキサンダーたちの目にも遠巻きに見えるルカの姿。彼女への妨害も、わずかながらにマシになっている。

 彼女も、跳び回りながら、次々に成すべきことをしているのが理解できる。


 ならば、こちらはアレキサンダーがやる。アレキサンダーが、やらねばならない。


 今なら、言葉が届く。


「僕のことを知らない人も、いるかもしれない。だから、改めて名乗る」


 前に立ってくれているマルクスに。しかし、後ろに隠れていては、伝わるものも伝わらないだろうと。

 アレキサンダーは、前に出る。


「アレキサンダー・グランバート。この名前には、聞き覚えのあるものも多いだろう」


 動揺が、加速する。

 それもそのはず。まさか、目の前にいるのが。そして、あまつさえ、その命令無視どころか、攻撃を仕掛けていたものまで相手が、この国の継承順位第三位の王子であるのだから。


「先程までの行為については、僕の存在を理解していなかったものもあるだろうし、誰がなにをしていたか、ということについての証明も不可能だ。だから、不問とする」


 その代わりに、今から話すことを、聞いてほしい、と。


「僕たちは、本当ならば、魔法使いと戦う理由なんてないんだ」


 たしかに、現行の法律では魔法使いは犯罪者として指名手配されている。

 それを鑑みるならば、いちおうは犯罪者を一斉捕縛するための行為という大義があるようには、見える。

 だが、見えるだけ、である。


「もし、今から言う言葉のどこかに意見できるものがいるのならば、聞きたい。むしろ、聞かせてほしい」


 アレキサンダーは、力強く。全ての人に伝わるように。宣言する。


「魔法使いを罪人としている根拠は、どこにあるのだ。魔法使いが魔法使いであるだけで犯罪者であるとされる理由は、なんだろうか」


 無論、これは法律に対するエクスキューズだ。だから、そう書かれているから、という回答は適切ではない。


「それは、魔法使いが被害をもたらすからでは……」


 ひとりの青年が、そう、言葉を投げかける。

 アレキサンダーはその言葉をしっかりと受け止めながら。しかし、小さく首を横に振る。


「それは、被害をもたらすことが罪の原因だろう。存在そのものが悪とされる理由にはならない。人間だって、他人を害するものもいるだろう?」


「でも、魔法使いは……」


 反論が飛んでこようとするが。しかし皆、言葉に詰まる。

 明確な、理由がないのだ。

 そう、教えられてきたから。周りが、そう認識しているから。

 だからこそ、そうだと認識している。だけ。


 だが、彼らにも罪はない。

 そもそもの環境自体がいびつだったのだ。


「聞けば、人から魔法使いに偶発的に覚醒したものもいる。なんならば、意図的に魔法使いになることだってできるらしい」


 ルカが、その例である。


「魔法使いも、被害者なんだ」


 もちろん、だからといって犯罪行為が認められるわけではない。それは、大前提。

 だが、彼らの中には。魔法使いというだけで排斥され、まともに生きることができなくなり。やむにやまれず、という者たちも少なからずいる。


「改めて聞こう。魔法使いが罪人とされる理由は、なんだろうか」


 答えは、返ってこない。誰も持ち合わせていないから。

 そして、皆がそれに対して、疑問をいだき始めているから。


「そうなんだ。魔法使いだからといって、犯罪者であることにはならない。人が人それぞれであるように。魔法使いも、魔法使いでそれぞれなんだ」


 いい人もいれば、悪い人もいる。

 いい魔法使いがいれば、悪い魔法使いもいる。


 だから、一概に魔法使いというだけで罪人とするには、根拠がない。


「不理解、不寛容、忌避。昔は、そういうものからそうしていた側面もあったのだろう」


 過去の文献を漁っていたからこそ、アレキサンダーは知っている。

 そのせいで、王子という立場でありながらに、国自体に目をつけられることになったが。


「だが、時代は変遷していった。魔法そのものへの理解も、少しだけではあるが、人間側の学者によって分析された過去も、存在していた」


 王城の書庫の、片隅。埃が重たく乗っていた書物には、魔法についての考察が成されていたりもした。

 だが、そういった本が世に出ることは、なかった。


「理解することは、できたはずだ。歩み寄ることも、できたはずだ。なのに、そうはならなかった。そうは、しなかった」


 その理由が、ある。


 なんならば、証拠が、この場にある。


「先程から、戦場に魔法が飛び交っていた。そらは、ここにいる人間たちなら理解しているだろう」


 戦っていた張本人なのだから、わかっていないわけがない。


「けれど、おかしいとは思わないだろうか。現在、直接に分断する壁こそないものの。エアハルトやルカたちにより、戦場は二分されている」


 中立派閥と、魔法使い。そして、中立派閥と、人間たち。

 そのふたつの戦場が、存在している。


 そして、ここは中立派閥と人間たちの戦場。


 魔法が飛んでくることは、あるだろう。


 だが――、


「本来ならば、魔法が()()()()はずがない」


 ゼーレがそうであるように。精霊たち中立派閥のものが魔法によって追い詰められた、というようなことが起こるはずが、ない。


 しかし、現実に起こっている。


 では、誰によるものなのか。


 魔法使い軍の者たちの一部が抜けてきて攻撃してきている。なるほど、その可能性は否定できない。


 だが、それならばなぜ、人間を狙わない。中立派閥も敵対はしているが、大前提の敵は、人間である。


 と、するならば。魔法を仕掛けてきている勢力は、ただのひとつしか存在しない。


 ここまで、アレキサンダーが問いかけてきた言葉が、それによって人々の間に生まれてきていた疑問が。

 形となって、答えになる。


「魔法使いが、罪人とされている理由は、単純。国にとって、そのほうが都合が良かったから」


 あるいは、この国の後ろ暗い部分となってしまっていたから。


「この国は、魔法使いのことを裏で奴隷として使役するためだけに、集める理由としての大義名分をつくるためだけに、魔法使いのことを罪人としている」


 誰もが、その言葉だけを聞かされたならば、ただの戯言だと唾棄しただろう。


 だが、ここまでの言葉が、それを許さなかった。


 そしてなにより。彼らの背後には。


「ありがとう、アレク! おかげで、みんな助けられた!」


 アレキサンダーが稼いだ時間によって、ルカが、自由に動けた。

 彼女が助けて回った、魔法使いという、なによりの証拠が、そこにはあった。

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