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#16 大罪人は少女に教える

 魔法使い……ってなんなんだろう。と、ミリアは考えていた。

 普段こんな茂みや木々の間なんかを歩くことがないから、かなり歩きにくそうにしながら。


「……魔法使い。なんで、どうして、罪人なの?」


 そうつぶやいた頃、ちょうど最後の茂みを越えた。

 町から伸びている街道のうち、ミリアの自宅に一番近いところだった。


 ミリアが小さい頃、当然のごとく魔法使いは悪いものだと思っていた。そう教えられたから。

 時折流れてくる魔法使いによる事件のニュース。それらはミリアの中の「魔法使いは悪い」というイメージを強めた。


 ミリアは、昔は農村暮らしだった。父親のダグラスは事情があって町で単身仕事をしていた。ミリアは村で母親と兄、妹。合計四人で暮らしていた。


 ミリアにとって、それは遠い過去の話だった。

 母親も、兄も、妹も。もうこの世にはいない。

 三人とも、魔法使いによって屠られた。目の前で。


「ルカちゃんが……ねえ」


『もし、もしだがな。ルカが魔法使いになったとしたら、どう思う?』


 別れ際に、ミリアはエアハルトにそう聞かれたのだった。


 ミリアは嘆息をつくしかなかった。


(忘れてるのかな。それとも気づいてないのかな)


 確かに、ミリアは魔法使いを憎んでいる。ただ、それと同時に全ての魔法使いが悪い人だとも思っていない。

 そうでもなければ、リスクを犯してまで魔法使いであるエアハルトの手伝いをしたり、ルカに対して魔狩りの悪口を言ったりはしないだろう。


(ルカちゃんが魔法使いだろうが、魔法使いでなかろうが。ルカちゃんはルカちゃん。そこに違いはない)


 大丈夫。嫌ったりもしないし、きっと今と同じように接するよ。ミリアはそう返答をした。


 ルカが魔法使いに。無いことではないらしい。年齢的には17とそれなりにいっているのだが、精神的、身体的にはそれにまだ追いついていない。それを加味すると、ここから覚醒するということがありえなくもないらしい。

 それ以外にも、エアハルトが教えることで魔法を得ることもできる。ルカが望めば、エアハルトは教えるかもしれない。


(もしかして、この質問って)


 あまりに脈絡がつかめなくて、どういうことだろうと思っていたのだが。ルカが魔法使いに――。この質問。


(もしかして、ルカちゃんが魔法使いに……?)






「よし、ルカ」


「どうしたの? エア」


 朝の日差しが窓から家の中に差し込んでいた。テーブルを挟んで食事を摂り終えたところでエアハルトが声をかけたのだった。


「……魔法、使いたいのか?」


「うん! うん! 使いたい!」


 即答であった。若干エアハルトがのけぞるくらいに。


「あのな、ルカ。魔法を使えるようになる――魔法使いになるってことはだな……」


「本当は、ダメなんでしょ?」


「……あ、ああ。まあ、この国では、な」


 まさか答えが返ってくるとは想定しておらず、また、ちょっと大きな捉え方の返答に少し同様を示したエアハルトだったが、すぐに調子を戻す。


「魔法使いは、罪人だ。バレちまったら周りの人と普通に接することができなくなる。それでも、か?」


「うん。それでも、だよ」


 エアハルトはポリポリと人差し指で額あたりを掻いた。

 このとき、エアハルトの中には二つの感情があった。一つは、魔法を教えてルカを魔法使いにすることへの抵抗感。

 この少女がそのことをどれだけ重大なことだと思っているのか、罪人になるということを。それが、全く掴みきれないのだ。

 そして、自身を助けてくれた少女を、望まれているとはいえ自らの手で罪人に。追われる存在にしてしまうということへの罪悪感。それらが抵抗としてエアハルトの中にあった。

 しかし、それと同時に、安心感も覚えていた。

 正しく魔法を使えるようになれば、防衛手段になる。もしこの先、エアハルトが何らかの理由でルカのもとを去ることがあったとしても、そこから先、魔法はルカが生き延びるための力となる。


「それじゃあ、いくつか約束な」


「約束?」


「ああ」


 エアハルトは、言った。


 一つ。魔法は便利な力でもあり、危険な力でもある。俺がいいと言うまで、絶対に一人で勝手に使わないこと。

 二つ。人前では使わないこと。領域制圧ドミネート内が基本的に使っていい場所。

 三つ。人を傷つけるための力ではなく、自分や他人を守るための力だと言うことを忘れないこと。


「とりあえず、この三つだ。守れるか?」


「う、うん。守れるよ」


「本当か? 返答を少し躊躇っていたが」


「そ、そんなことないもん! できるもん!」


 机をバンッと、ルカが抗議する。エアハルトはクスリと笑いながら「そうか」と言った。


「それじゃあ、教えてやろう。使えるようにしてやろう」


「やった! やったー!」






 まず、手始めに。家の外に出たエアハルトはルカに向かい合った。


「手を出しな」


 両手を開いて手を突き出しながら、そう言う。ルカは少し不思議がりながら手を出す。

 開かれたルカの小さな手をパッととる。「うひゃあ!」と。ルカがびっくりした声を出す。


「な、何するの!? 急に!」


「ああ、悪い。先にひとこと言えばよかったな」


 エアハルトはルカの手に掛ける力を少しだけ強くする。するとルカもそれを握り返す。


「それじゃあ、ちょっとだけ、なんていうか、奇妙な感覚がするが、我慢しろよ?」


「え、あ、うん」


 エアハルトは目をつむり、大きく息を吸った。ルカはその様子をじっと見る。


「《経路開通パス》」


 エアハルトと接しているところから、電気が流れたような、それでありながら、振動のようなものもあり、なんとも言い難い感覚がルカを襲う。

 痛くて、こそばゆくて、気持ちよく、それでいてちょっと気持ち悪い。そんな感覚。

 思わず、「んっ、あ」というような声を上げてしまう。


「大丈夫か?」


「ん、う、うん。これで使えるようになったの?」


「一応、な」


 今使った《経路開通パス》は、魔法を使うための、いわば準備段階だったりする。本来魔法を使うための素質は誰もが持っているのだが、何もなければ、それを引き出すことができない。

 というのも、魔力を制御するための器官と体がリンクしていない。そこで《経路開通パス》を使い、対象者の体に強い魔力を流し込むことで体と器官とを繋ぎ合わせる。


「ていうかさ、エア。いつまで手をつなぐの?」


「え、ああ。すまん。もうちょっとだけ。さっきのにちょっと近いのが、長い間続くが、我慢しろよ?」


 そう断ってから、エアハルトは再び魔力を流す。


「《魔力共有リンク》」


 エアハルトはルカに魔力を流し込む。エアハルトの右手から、ルカの左へと。こちらを集中的に。

 《魔力共有リンク》の本来の使用目的。対象者に魔力を分けるということとは、少しズレた使用法ではあるのだが、圧倒的に魔力量が多いエアハルトがルカに魔力を流し込むと、溢れた魔力が多少エアハルトの方に返ってくる。

 このとき、エアハルトが流し込んだものとは違った魔力が流れてくる。それが、ルカの魔力だ。


「ね、ねえ。エア。まだ?」


 さっきよりも弱いとはいえ、それなりの時間が続いているから、ルカが弱々しい声でそう聞いた。


「もう少し、もう少しだけ我慢してくれ」


「ん、わ、かった」


 エアハルトは、神経を集中させた。流れ込んでくる、ルカの魔力に。

 そして。


「大丈夫だ。お疲れ様」


「は、ひゃあああ……」


 手が離された。ペタリ、ルカは思わずその場に座り込む。

 その肌は、汗で少し湿っぽくなっている。


「はあ、はあ。……ねえ、何してたの?」


 ルカは、そう尋ねた。

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