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#145 少女と精霊王

 ヌレヨカチの根本は住居として利用されているだけあり、動線部分は石や木材などで整備されていた。

 わくわくする気持ちを持ちながらにルカが奥へと歩いていくと、次第に大きな広間が見えてくる。


 そして、その中に入ったルカは。しかし、大きく首を傾げる。


「あれ、誰も……いない?」


 そこにあったのは、ルカよりもずっと大きな座席。自然物を利用して作られているものの、その見目は豪奢であり、玉座であろうことは推測できる。

 だがしかし、その玉座は空であった。


 精霊王から呼ばれている、と言われていたものだから、てっきりここにいるものだと思っていたのだけれど、と。そんなことを考えながらにルカが戸惑っていると、ちょうど追いつきてきた男が「悪い悪い」と。


「説明が不足していたな。ゼーレが言ってたから、てっきり把握してると思ってたが」


「この子は妖精や精霊と仲がいいだけで、精霊たちの実情なんかは知りはしないわよ。精霊の里に来るのも初めてだしね」


 隣では、ゼーレが大きくため息を付きながらそんなことを言っていた。

 ここ最近、この男が来てからというもの、ゼーレはかなりため息をついている。このままだと幸せが逃げていきそうだなあ、なんてそんなことをルカが考えていると

、男が先導しながらに「こっちだ」と。


「精霊王は現在高齢で床に臥せてる状態だ。だから、寝室にいる」


 そういえば、たしかにゼーレがそんな話をルーナとしていた気がする、なんて。過去の自分の記憶を振り返りながら、同時に、自身が適当に周りの話を流しているのかということを自覚する。

 ……まあ、これについてはルカ自身の精神性の幼さなどに起因するものでもあるので、意識したところですぐさま改善するようなものでもないが。


 そのまま男の後ろについていくと、玉座よりもさらに後方に、大きな扉が現れる。


「この先だ」


「……入っていいの?」


「まあ、いいはずだが。一応ノックをしておけ」


 おそらく、そのあたりの礼節についてはまだ学習していないルカに対して、男はそうアドバイスだけしておく。……まあ、しなかったところで怒られはしないだろうが。とはいえ、いちおうの礼儀ではある。


 扉の前まで歩くと、緊張した様子でどこかぎこちない動きのままに、コンコンコン、とノックをする。


 ……返事は、ない。


「あの、入っていいの?」


「あー、たぶん寝てやがるな。……まあ、さっきも言ったが、歳なんだ。許してやってくれ」


 ルカの問いかけに、頭をポリポリと掻きながらに男はそう言う。

 そしてルカの隣に立つと「おーいヴァンス、入るぞー」と、少しばかり声を張り上げながらに言う。


 そんな男の様子に反応したのは、ゼーレ。


「ちょっ、あなたなにを」


「大丈夫大丈夫。いつものことだから」


「いつものことだからって――」


 ゼーレの言葉を適当にあしらいながら、男は扉に手をかける。

 そうして寝室のドアを押し開くと、入りな、と。ルカにジェスチャーをする。


 おそるおそるといった様子でルカが中に入ってみると、そこには草花や藁などで作られた寝台の上に、獣のような姿の大きな精霊が横たわっていた。

 先程の男の声に気づいたのか、あるいは入室してきたルカの気配を感じ取ったのか。先程まで眠っていたその精霊は、ゆったりとした動きでその身体を起こす。


 感じ取れる、魔力の量。それがとてつもない。

 ルカの知りうる限り、最も魔力が多い存在はエアハルトである。……無論、それ以外にほとんど会ったことがない、というサンプルが圧倒的に不足している状態ではあるものの。しかし、そんなエアハルトに匹敵しようかというレベルの魔力を有している。


 少なくとも、ルカが具体的に推し図れる魔力の量を大きく上回っている。


「――――」


「ええっと……?」


 精霊がなにかを発言している、声音から、男性なのだろう、ということは理解できるが。しかし、その内容がわからない。ルカが困ったような様子で首を傾げていると、小さく息をつきながらに男が言葉を漏らす。


「ルカは精霊との交流経験が浅い人間の娘だ。人間の言葉で話してやらないと理解できないだろうさ」


「……ああ、それは道理だな。すまなかった、ルカ殿よ」


「だ、そうだ嬢ちゃん。まあ、許してやってくれ」


「え、あの、だ、大丈夫です……よ?」


 あんまりよくわかってはいないままではあったが、とりあえずルカはそう答えておいた。


「そしてルカ殿と、それからそちらのフィーリルとアルラウネはなんと呼べばいいかな?」


「私はゼーレ、こっちのアルラウネはアルと申します」


「なるほど、ゼーレ殿とアル殿だな。覚えておこう。……ああ、そういえば挨拶が遅れたな。寝起きで申し訳ないが、私が精霊王のヴァンスだ」


 アルはルカと同様にあまり状況が飲み込めておらず、比較的普段通りの様相を見せているが、対象的にゼーレはとてつもなく緊張感を持った対応をしていた。


 そんな彼女を見て、やはり、目の前のこの精霊はとてつもない存在なのだな、と。そう再認識する。


「わざわざ来てもらえてありがたい。……特にルカ殿。貴殿については、私が直接に見て判断せねばわからないことが多くてな」


「私?」


「ああ。貴殿のところに様子を見に行った精霊から素質がある可能性が高いが、との報告を受けたのだが。詳細については、実際に私が見る必要があったのでな」


 どうやら、件のルカに対する契約勝負から精霊たちにルカの噂が広まった結果、なにやらルカのことを調べに来ていた精霊がいたらしい。

 それで、なんらかの素質がルカにある可能性があり、その正確な判断をするためにここに呼び出されたのだという。


「ルカの素質っていうと、魔力の看破のこと?」


「大きくは外れない。副次的なものとも言えるが」


 ここに来るまでの道中で、ルカがユーグナシルへの入り口を見破ったように。

 あるいは、ゼーレの経験から言うのであれば。彼女が盗みに入った際に、その足取りを追われたように。

 ルカには、魔力自身を強く捉え、かつ、魔力によって認識阻害されているものを看破することができる目を持っている。


「報告をした精霊曰く、契約魔法の際にも、魔力を通常以上に当人が感じ取っている、というように聞かされている」


「……そう、なの?」


「いや、ルカがわからなかったら私たちにもわからないわよ」


 ヴァンスの言葉に首を傾げるルカ。

 助けを求められたゼーレだが、お手上げもお手上げである。


 とはいえ、ルカにしてみれば契約魔法は練習……もとい挑戦されて行っていたものばかりで。おそらく、ヴァンスが言っている報告での契約もその一環であり。

 同じようにやっている、という都合で、勝手がわからない。


「わかるとしたら、契約をやったアルになるんだろうけど」


「…………?」


 当然、彼女も生まれたばかりで他の契約などについてはやったことがないので、勝手がわからない。


「まあ、どちらにせよ、私が見る予定だったからな。そういうわけなので、ルカ殿。こちらに来てもらえるだろうか」


 ヴァンスに呼ばれて、ルカはそのすぐそばによる。

 そうして身体の周りをぐるりと観察されて。いくらか触診のようなこともされて。

 ついてきていた男が「小さい子供にやる行為じゃねえな!」なんてからかっているので、ちょっとばかり恥ずかしくなったりしながら。


「……ああ、思ったとおりだ」


「ええっと、なにが?」


 こればっかりは、ルカが要領を得ていないわけではなく、ヴァンスが自己完結しているだけなので、ゼーレにも事情はわからない。


 この場でわかっているのは、ヴァンス自身と。それから、


「へぇ、それじゃあ引き継ぎでいいってことだな?」


 ここにルカたちのことを連れてきた、男だけである。

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