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#143 ユーグナシルへと続く入り口

 男に引き連れられるようにして、ルカとゼーレ、そしてアルがルカに手を引かれながらに着いていく。


「そういえば、その、ユーグナシルって、どうやって行くの?」


 ふと、ルカがそう尋ねる。

 先程の会話、きっちりと理解できたというわけではないが、最低限、それなりには把握している。

 その中で、普通に探していても見つかることはない、とそう言っていたはずである。


「さっきも軽く説明していたが、理屈としてはエアハルトがかけてる隠れ家(ヒドゥンエリア)と同じだ」


 ゼーレ曰く、ユーグナシルに限らず精霊の里と呼ばれるものたちは全般的に、その入り口にあたる場所が魔法により偽装されているのだとか。

 それも、魔法に精通している精霊たちによる珠玉の結界でもあるので、通常、見破ることは不可能。


「いちおう、厳密にいえばもう少し複雑にはなるんだけど、聞く?」


 ゼーレからのその問いかけに、ルカは首をふるふると横に振った。

 現状の説明で割とお腹いっぱいである。


「まあ、逆にいえば、案内さえあれば容易に入ることができる場所でもある。……まあ、私たち精霊たちは、たとえ契約を結んていたとしても、早々契約相手を連れて行くようなことはしないから、まず行くことはできないと思っていいわよ。特に、ユーグナシルなんかは、ね」


 精霊たちにとっての王都のようなもの。そんなところなのだから、たしかに容易には連れていけないだろう。

 それ以外の場所についても、わざわざ隠している、というのは侵入を防ぐためなので道理である。


「でも、契約結んでても行かないことが多いんだ」


「基本的には、精霊や妖精との契約は精霊側有利に結ばれるからね。そもそも魔法使い側が要求しても突っぱねられることがほとんどで、余程精霊側が契約相手を気に入って自分から誘うでもなければ行くことはないかな」


 これについては、平等な契約を結んでいる……もとい結べているエアハルトとルカが異常なだけである。エアハルトについては、圧倒的な実力をもってして。ルカについては出会いの経緯も加味しての契約なので、そもそもがイレギュラーだったりするのだが。


「でも、さっきおじさんが、私次第ではミリアさんも行けるかも、って言ってたってことは、別に人間が入っちゃだめなところってわけじゃないんだよね?」


「……微妙なところだな。今回については、そもそも精霊王からの直接の招聘という建前があるが、基本的には前例がほとんどない、という回答になる」


 明確に禁止規定が定められているわけではないが、慣習的に起こってこなかったことでもあるため、そもそもの精霊側としての処遇が一切決まっていない、というのが現状。


「ええっと、つまり……?」


「お前さんの働き次第で、これから先の人間と精霊との関わり合いの方針が決まりかねない」


「責任重大っ!」


 ひいっ! と。おっかなおったまげた表情を浮かべながらにルカがそう言った。


 まあ、男の言うこともあながち間違いではないが。と、無為に緊張させるな、という感情を込みで、ゼーレは半目で男を睨みつける。

 たしかに前例がほとんどない事例ではあるが、とはいえ、ないわけではない。そもそも、現在目の前にいるこの男そのものが、その前例の最たる例である。


 それで、今のところ大きな方針の変化が起こっていないのだから、そこまで大きく気にする必要もないのだろうけれど。


(と、いうか。それよりももっと重大な、気にするべき案件があるんだけど)


 サラッと名前が出ているし、それにしてはなぜか比較的話がすんなりと流れてしまっているが。

 そもそも、今回の出張の目的は精霊王に会う、ということである。

 そう。精霊王に。


 どう考えてもそちらのほうが案件としては大きいことではないだろうか、と。現在のルカの、少しズレた反応を見ながらに、ゼーレはほんの少しの息を漏らした。






 さすがに、ユーグナシルがそんなに近い場所にある、というわけもなく。

 ついでに、生まれてそんなに期間の開いていない、まだまだ小さなアルを伴っているということもあり。やや遅めの行脚での移動な都合もあり、数日ほど移動した頃。


「あ、もしかしてあそこ?」


 ルカは、そう尋ねながらに進行方向の先を指差した。


「ああ、そうだが。よくわかったな、嬢ちゃん」


隠れ家(ヒドゥンエリア)と同じで隠されてるって言ってたから、魔力の痕跡と、それから空間の揺らぎがあるあそこかなあって」


 ルカの視線の先には、それほど精巧に隠されているのだろう、なかなか判別はしにくいが魔力の流れと見目上の若干の差異が発生している箇所があった。


「ここをくぐればユーグナシルに到着するってわけよ。……まあ、私もユーグナシルに行くのは初めてなんだけど」


「そうなんだね」


「中心都市である、というのはそうだけど。逆にいうと出身だとかの事情がない場合は、用事でもなければわざわざ行かないからね」


 ルカだってこの間まで王都に行ったことなかったでしょ? と。そう言われて納得する。

 たしかにアレキサンダーを救出するという目的でもなければ、王都に行くことなどなかっただろう。


「……まあ、見えてやがるんなら問題ないだろうが。いちおう、具現化はしておくか」


 男はそう言うと、ルカの認識している空間の歪みに対してなんらかの魔法を使う。

 それと同時、歪みが大きく揺らいだかと思うと、ほぼ透明だったそれが色と形とを持った。

 門のように見えるそれは、向こう側の景色がただの森だったはずの周囲とは違って、おそらくは精霊たちの生活の証であろう、建物などがおぼろげながらに伺える。


「すごい……!」


「こう、嬢ちゃんに純粋な反応されると、どう答えるのが正解なのかがわからねえな」


「諦めなさい。ルカと関わるということはそういうことだから」


 やりにくそうにポリポリと頬を掻く男に向けて、ゼーレはそう答える。

 はへ? と。どうにも自分のことを話されたのであろうが、なにがなんだかわかっていないルカは首を傾げる。


「入る前にアドバイスとしてひとつ言っておいてやると。嬢ちゃんがこうして興味津々ってことは、逆もそうだってことだ。深みを覗き込むときは、覗き返される覚悟を持つ必要があるってぇアレだな。だからまあ、そのへんについては、ちょいとばかし気をつけろよ?」


「わかっ……た?」


「……明らかわかってなさそうだが、まあいいか。入りゃあ嫌でも理解するだろうしな」


 早々に説明を諦めた男。隣でゼーレが苦笑いをしながら「あなたの説明が迂遠なだけな気がするけど」と小さくつぶやく。


「ねえ、もう行っていいの?」


「ああ、覚悟ができたのならいいぞ。……まあ、そうは言っても、襲われるとかそういうわけじゃないから、その点は安心していいが」


「……? 了解、だよ?」


 ルカはなんとなしにコクリと頷くと、そのまま隣にいたアルに「大丈夫?」と尋ねる。

 彼女も首肯をもって答えてくれたので、そのまま手を握る。


 そうして、ユーグナシルへと続く門を通り過ぎたルカは――、






「な、なんで? なんで囲まれてるの!?」






 門からルカが入ってくるや否や、それを見つけた精霊や妖精たちがわらわらと集まってきて、その周囲が一瞬にして取り囲まれる。


「まあ、そうなるわな。ただでさえユーグナシルに人間が来るのが珍しいんだから、それだけですら興味深いことなのに」


 追ってユーグナシルに入ってきた男がため息混じりにそう言う。


「それに、最初に会ったときなも言ったろ? 嬢ちゃんは有名人なんだよ」


「……それに、精霊王から呼び出された、という立場。王様からの招聘なんて、話題にならないわけがない」


 続いて入ってきたゼーレも、そう補足する。


「まあ、つまるところが歓迎だ。ちょっとめんどくさいだろうが、我慢してくれな、嬢ちゃんよ」


「た、助けてええええええ!」

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