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#136 少年と魔法使い

「わあ、本当にアレキサンダー様だぁ」


「写し絵なんかで見たことはあったけど。現実に見るのは俺もクレアも初めてだな。いや、そもそも王族なんて立場の人たちと会うのが初めてなんだが」


 アルフレッドとクレアは、その視線に好奇の感情を混ぜながらにアレキサンダーの顔を見る。

 そんなふたりに少しばかり気圧されながらも、しかし、しっかりとアレキサンダーは応対をする。


「えっと、アレキサンダーだ。よろしく頼む」


「あっ、そうだった。私はクレア、主にはルカちゃんのお手伝いとしてきてて。ある程度アレキサンダー様の事情とかも把握しています!」


「それから、俺はアルフレッドだ。よろしく! ……って、よく考えたら王子様相手にこの物言いってまずいんじゃ……? いや、でも正しい礼儀とか俺わからねえぞ……?」


「いや、ルカにも伝えたことではあるが、楽なやり方で接してもらって構わない。王子という立場については王城を抜け出すときに置いてきているからな。権威などないただの子供に敬意を払え、という方が難しいだろうし」


 アレキサンダーが言ったその言葉に、アルフレッドは「そっか!」と、とても安心した素振りで答えていた。

 その隣ではクレアがそんな相棒の姿に大きくため息をついて。


「それで、今回わざわざ助けてもらったことについてなんだか、こちらからも――」


「そういう話については、たぶん全員揃ってからのほうが早いと思う。そろそろ、ふたりとも帰ってくると思うし」


 アレキサンダーが話そうとしていたことをやや中断しつつ、ルカがそう言う。

 ルカの探知魔法については、やはりまだ経験不足なこともありエアハルトやゼーレたちのものに比べれば精度は低いものの。とはいえ、それでもゼーレやグウェルが近づいてきている、というくらいなら判断ができる。


 そして、その探知のとおり、しばらくもしないうちに。


「戻ったぞ。……どうやら、お前もしっかり目標を達成できたらしいな」


 ルカたちが隠れていた場所に、王城から離脱してきたグウェルとゼーレが戻ってくる。

 グウェルはそうつぶやくと、やるじゃねえか、と。ルカの方を見ながらにニヤリと笑ってみせた。


「へぇ、そっちのが件の王子サマってわけか。初めて見たよ」


「あなたは……たしか、手配書で見たことが……いや、今はそれはどうでもいいか。協力をしてくれた、ということはたしかなのだから」


 グウェルとアレキサンダーが互いに顔を見合わせながらに、そう言葉を交わす。

 アレキサンダーのその言葉聞いて、グウェルは少し感心したように「へぇ」とつぶやく。

 グウェルのことを魔法使い……罪人だと気づいたということはひとまず置いておいて。それを理解してもなお、それほど嫌悪をであるとか。ただ、魔法使いであるというだけで判断しなかった、ということが。

 そして、その存在が王族という。おそらくはこの国で一番、反魔法使い教育が行き届いているであろう、王子であった、ということが。


「無事、全員が誰にも見つからずに脱出できた。王城の方は、もういないはずの侵入者探しで躍起になってる。関所での警戒が強まる前に、早くに王都から出るぞ」


 ゼーレは落ち着きながらに状況を判断し、早々の退却を優先させる。


「ここからは、私たちの出番だね」


「そういえば、ふたりについては手配書なんかで見かけたことがないが」


「……ああ、そういえば説明してなかったな。俺とクレアはただの冒険者。そこのふたりの魔法使いや、残りふたりの妖精精霊とは違って、ただの人間さ」


「私たちは冒険者という立場上、関所をくぐるための理由付けが容易。だからこそ、みんなを王都の中に入れたり、そして、これからみんなを外に出すためのお手伝いをするのが、今回の主な仕事」


 無論、それ以外のバックアップで手伝ってもらっていることもあるが、最大のところはそこである。


「あははっ、救出隊がみんな魔法使える存在だったから、私たちもそうかなって思っちゃってたのかな」


「……すまない、偏見はしないように、と努めているんだが」


「いや、仕方ないよ。そもそも俺たち冒険者(にんげん)とルカちゃんたち魔法使いが混成パーティ組んでるって方が異常なことだからね」


 さらにはフィーリルとアルラウネまでいるという始末。


「……雑談は、出てからにしようか。アルフレッドもクレアも、手続きがややこしくなるのは本意ではないだろう」


「ああ、そうだった! うん、帰り道はかなり距離があるし、話ならいくらでもできるしね」


 ゼーレに指摘されて、アルフレッドは苦笑いをしながらにそう答える。


 夜間の関所の通過は昼間よりかはやや手続きが面倒ではあるが。しかし、騒ぎが大きくなってしまうとそれ以上に時間がかかるのは明白。

 チェック項目が多くなる可能性も高いために、早々に関所へと向かう。






「改めて、感謝を伝えさせてほしい。無茶な要望であった、というのは重々理解の上で、それを引き受けてくれて。そして、こうして助け出してくれて。本当に、ありがとう」


 王都から脱出して、そのままにしばらく遠ざかり、人目が切れる森の中までやってきて。

 そして、一息落ち着けるタイミングになってから、アレキサンダーは深々と頭を下げながらにそう言った。


「礼なら俺じゃなくてそこのガキンチョに、だな。俺は別のやつとの契約の元で協力しただけだから」


「そうか。そうであったとしても、やはり感謝は伝えさせてほしい。ありがとう」


「……そうかよ」


 どこか少しやりにくそうにしながら、グウェルはそう答えた。


「まあ、私たちについても大体は同じかな。エアさんに手伝ってやってくれって言われてやってるだけだし」


「ああ、俺らも以前に助けてもらったそのお礼でやってるだけだからね」


 アルフレッドとクレアはニカッと笑いながらにそう答える。


「エアさん、というと。もしかして」


「ああ、少年。お前さんが思っている人物――エアハルトで間違いないさ」


「……そうか。なるほど、おかげさまで、いくつかの疑問が氷解した」


 なぜ、助けに来たのがルカであったのか、ということなど。そういう側面のことについても。


 つまりは、ルーナを経由して、信頼できる人物――エアハルトに伝わり、今回の作戦を決行してくれた、ということであろう。

 ルーナに送った手紙のもう一通がエアハルトに関することであっただけに、偶然の一致ではあるものの、二度も彼に助けられるとは、と。


「そういえば、そのエアハルトはどこに?」


「ああ、アイツなら今は牢屋の中だ」


「……えっ? それは本当なのか? エアハルトが捕まったというような話は聞いていないが」


 グウェルの言葉に、アレキサンダーは大きく驚きながらにそう答える。


「というか、そういえばあなたは、たしかグウェル、だったか?」


「よく知ってるな。……って、そういえば手配書で見たことがあるって言ってたか」


「ああ。それで、現在は捕まっているはずでは……?」


「お前、詳しいな? ……いや、王族ならそんなもんなのか?」


 驚きと、そして猜疑と。複数の感情の籠もった視線でグウェルはアレキサンダーを見つめ返す。

 そんな視線にも一切アレキサンダーは物怖じせずに、答えを返す。


「いいや、僕が個人的に調べてただけだから、他の家族たちはそこまで詳しくないと思うよ」


「そうか。そこまで熱心に調べるとは、魔法使いになにか恨みでもあるのか?」


「いや、どちらかというと感謝があるかな。あとは、疑問」


「……疑問?」


 アレキサンダーの答えに、グウェルは首を傾げる。

 言葉の芯を捉えられていないグウェルの様子を見たアレキサンダーが、ああ、これは正確な表現ではなかった、と。そう言葉を前おいてから。


「厳密には、魔法使いの現在の扱われ方についての、疑問を抱いている」


「……へぇ。まあ、口だけならいくらでも言えるか」


「はは、手厳しいな。……まあ、行動に移せていないあたり、なにも証明のしようがないんだけどね」


 苦笑いをするアレキサンダーに。グウェルは小さく息をつきながら「いや、子供っぽい真似は良くねえな。バートレのおっさんにもよく指摘されてた俺の悪い癖だ」と。そうつぶやきながらに。


「……動けてない、ということはないんじゃないとおまうぞ。少なくとも、俺は」


 現に、アレキサンダーは動こうとした。だからこそ、ここにいる。

 相手が魔法使いであるとわかりながらにルカからの手を取り。今についても、平多少の偏見こそありつつも平等に接しようと努力をしている。

 子供なりに現実を知らないからこそ、今の自分の常識で立ち向かおうとしているのが、グウェルには感じ取れた。……無論、未熟さゆえの無知無謀ではあるのだが。


「そうか。そう、だといいな。……魔法使いから、そう言ってもらえると嬉しいよ」


「……そうかい」


 やりにくそうな顔をしながら、グウェルはそう答えた。


「ああ、ちなみに。お前の記憶に間違いはないぞ。俺が牢の外にいるのは、お前を助け出すために、一時的に出してもらっているだけだ。そして、その担保として、現在エアハルトが牢の中に入っている」 


「……つまり、君がそのまま逃げれば、エアハルトは外に出ない、と。そういうわけかい?」


「ああ、そうなるな」


「逃げようとは、思わないのか?」


「……思わないでもないが。ただ、このメンツを相手にそう簡単に逃げられるとも思ってないし。それに――いや、これはいいや」


 あちらが約束をしたのだから、こちらもそれを反故にするのは、と。

 なんだかんだでグウェルなりの筋はたしかにそこにある。

 それを口に出すのは、なんだかこっ恥ずかしくてやめたが。


「そうか。……僕に、もっと力があれば、よかったのだが」


「ははは、なんだ? 俺を恩赦で解き放とうってか? それこそ無理だろ、魔法使いであるだけで罪なんだから、出たところで速攻お縄だ」


「それは、そうだな。……だからこそ、僕は体制を変えたいんだ」


 アレキサンダーは、そう、小さくつぶやいた。


「……そうか。まあ、どのみち俺は魔法使いってだけの罪で牢屋にいるわけじゃねえからな。出るにしても、バートレーのおっさんと、しっかり罪を償ってからだ」


 だから、と。グウェルは小さく言って。


「期待しない程度に檻の中で待ってるから。……頑張れよ」

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