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#134 陽動と侵入

「よし。周りの人の目も無い。今なら行ける」


 グウェルがそう音頭をとると、三人が一斉に音を忍ばせながらに移動を開始する。

 目的地は、無論王城。

 途中、侵入者防止用の掘りなどもありはしたが。正直、そのくらいなら魔法使いや精霊にとっては然程障害にはならない。事実、ゼーレは昼間にここを単独で突破しているわけで。

 むしろ、障害になるのは衆人の監視。掘りを飛び越えようとしている人間などがいれば、いくら認識誤認の魔法をかけていようが、さすがに目立ってしまう。ゼーレが単独でそこを通過できたのは、ひとえに彼女が精霊であるがゆえのそのあたりの練度の差でしかない。


「それじゃあガキンチョ。そっちは任せたぜ」


 王城のすぐそばまで接近して。そうグウェルはそう言いながらにルカとゼーレから離れていく。

 グウェルはこのあと、ルカがアレキサンダーを救出するまでの時間を稼ぎ出すための陽動を行う。

 ゼーレがどちらを手伝うか、ということで少し議論にはなったが。魔法使いとしての実力はひとまず置いておくとして、実戦などの経験値の差については圧倒的にグウェルに軍配が上がることと、アレキサンダーの部屋を正確に把握できているのがゼーレだということもあり、ルカのバックアップに携わることとなった。


「気をつけてね」


「ああ、任せろ。こちとら、ファフマールの街の中でずっと隠密しながら暗躍してたんだぞ? ……とはいっても、その実情にはバートレーのおっさんが上役どもと癒着してたってのもあるが」


 自身の罪に対して半ば自嘲気味にそう言うグウェル。

 しかし、たしかに癒着により目溢しを受けていたという側面もありはするだろうが。ただ、それでも防ぐことができるのは警備隊などの公的な組織の範囲だけで。

 特になんら関係のない一般の人間たちについては、彼らによってコントロールできる範疇ではない。そういった人たちにもバレていなかった、というのは。つまりそれだけグウェルも実力がある、ということであろう。


「ルカこそ、しくじるなよ?」


「う、うん」


 ニヤニヤと笑いながらにそう言い返してくるグウェル。ルカは緊張でピシャリと固まりながらに、なんとか返事をする。


 グウェルが離れていったのを見つつ、ルカとゼーレはしばらく茂みの中で息を潜める。

 すぐそばには警邏の人間はいないものの、しばらくすると巡回で通りかかることも多く、今すぐ動くのは危険度が高い。


「そういえば、グウェルさんは任せろって言ってたけど」


 どのタイミングでルカが動き出せばいいのだろうか。

 そういう打ち合わせなどは全くできていなかったので、少し悩む。無論、事前に策を弄しようにも、そもそもグウェルの陽動自体がアドリブの要素が強い行為ではあるので、なんらかの対策が打てるかというとそれも難しい話ではあるのだが。


 しかし、しばらくルカが息を潜めていると、巡回していた警邏の人間の様子が変わる。

 なにやら急いだ様子で、タッタッタッタッと駆けていっていた。


 もしかして、と。ルカがそう思いつつ、少しだけ警戒のために潜んでいたが。やはりというべくか、警邏の人間がしばらく通りかからなくなっていた。


「たぶん、今がチャンス、ということだろう」


 ゼーレがルカにそう伝えると、ルカはコクリと頷いて行動を開始する。


 グウェルの行ったことについて、ルカたちの預かり知るところではないものの。彼は王城の中に侵入しつつ、どこかの鍵をいくつか拝借。

 たしかに、アレキサンダーの部屋の鍵をピンポイントで盗む、ということは非常に困難を極める。どれが該当する鍵かはわからない上に、軟禁状態の彼の鍵はより警戒度が高まっているからだ。

 しかしながら、どこの鍵か、ということを問わないのであれば、そこまで難易度の高い話ではない。

 そうして拝借した鍵がどこのものなのか、ということは重要ではない。

 今回は、鍵が無くなった、ということが大切になってくる。


「おお、慌ててる慌ててる」


 グウェルはひっそりと影に姿を潜めながらに、慌ただしく廊下を駆けている警邏の人間たちを見る。


 おそらくは、紛失した鍵の部屋の周りの警戒を高めるために向かっているであろう彼ら。あるいは、鍵の行方を探しているであろう彼ら。

 部屋の警戒を高める、については好都合。そうすれば、外のルカに警戒が向くことはなくなる。

 そして、鍵の行方についても。基本的には鍵を盗む理由は窃盗であるとかその類。陽動であるグウェルの方が稀有である。

 だからこそ、盗んだ相手はその鍵を使うためにまだ城内にいる、と考えるのが自然だ。なれば、こちらもしばらくの間は少なくとも外への警戒度が下がる。


「あとは外に探しに出ようとした奴らだけ俺が対処すればいいかな」


 もっとも、その前にルカが仕事を片付けてくれれば、それでいい話ではある。


 鍵が無くなっただけであれば、魔法使いの関与を疑われることもない。

 グウェルは、そのまま姿が見つからないように、ジッと息を潜めていた。


 その一方で、ルカは王城の壁面までやってきて。そして、その手に魔力を集中させる。


「……魔法は、イメージが大切」


 飛ぶ、という感覚についてはルカは心当たりはない。だから、やはり飛翔を以てしてアレキサンダーの元にたどり着くというのは現実的ではないだろう。


 だから、ルカにやれる方法で。


「《植物召喚プラント――」


 今までルカが召喚してきた植物たちは、ある意味、既に在る魔法ではあった。

 つまりは、既に先人が研究して、命令式を組み上げていた魔法であるとも言えて。だからこそ扱いやすい。

 だが、魔法は本来自由なものではある。それこそ、ルカがグウェルと対峙したときに、暴発的ではあったものの森人トレントを召喚したように。


 魔力の形を自由に操ることができれば、思うままに使うことができる。


 そして、そこに必要なのはイメージの力。

 ルカは今必要な魔法を。植物を思い浮かべる。


 そして、名前のない魔法を発現させる。


 ルカの腕からはにょきにょきと茶色の細い幹、あるいは蔦のようなものが伸び始めて。そして外壁のほんの少しの取っ掛かりに引っかかる。


 その引っ掛かりを利用しながら、ルカは壁を登る。

 ただ、ルカの身体能力が高いとはいえ、腕の補助だけでは厳しい。だから、足で接地した壁にも魔力を流し込んで、ちょっとした枝をそこに生やして足場にする。


「なるほど。たしかに植物召喚プラントで生み出した植物なら、痕跡がほぼ残らない」


 急速な成長の反面、極めて短命という特徴を持つ植物召喚プラント。その本来の短所を、逆に利用する。

 植物召喚プラントで呼び出した植物は枯れるとそのまま魔力に戻って大地に還る。だから、こうして王城のすぐそばで召喚したところで、しばらくすればまるでなにもなかったかのように消えてしまう。

 呼び出した植物で作った足場が消えるまでの間、警邏の人間たちがここに来ないだけの時間を作り出せればそれでいい。


 ルカが最初に蔦で掴んだ場所まで登ると、ゼーレに向かう方向の修正をもらいながら、次の取っ掛かりまで登っていく。


「あとどれくらい?」


「もう少しだ。頑張れ」


 ゼーレからのエールをもらいながら、ルカはどんどん壁面を登っていく。

 グウェルがうまくやってくれているのだろう。警邏の人間はやってきていない。


「そこの真上の部屋だよ」


「わかっ、た!」


 ルカは腕に巻き付いている蔦を頼りに登っていき、そして、該当する窓にまでやってくる。

 中を見ると、真っ暗な室内に。しかしながら、人影がひとつみえる。おそらく、彼がアレキサンダーであろう。


 周りに他の人間がいないことを確認してから、ルカは窓をコンコンコンと叩く。

 一回目では彼は気づかなかったが、もう一度ノックをすると、彼はこちらに気づいて近づいてくる。


 この体勢も少しきついし、とりあえず中に入れてもらおう、と。そう思っていたとき。


「………えっ?」


 ルカは近づいてきた彼の顔に、思わず声を上げる。

 しかし、それはどうやら向こうも同じといった様子で。


「き、君は。たしかいつかの……」


「た、たしか。ええっと。アレク、くん?」


 そこにあったのは、ルカがかつてゼノンにて出会ったことのあったアレクの姿であった。

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