#131 デコボコな組み合わせ
「よお、久しぶりだなあ、ガキンチョ」
「……ふぇ?」
数日後。エアハルトに連れてこられた場所で、ルカナン思いもよらない相手と再開をする。
「ったく、もう二度と面を合わせることはないと思ってたが、こんなところで会うとは思わなかったな」
「エア!? なんで、なんでこのグウェルが!?」
かつてファフマールにて対峙し、ルカが魔力の暴発もあり、やっとの思いで倒した魔法使い、グウェル。
彼はその後、警備隊によって捕まえられたはず。それなのに、どうしてこんなところに。
「ちなみに私たちもいるよ、ルカちゃん」
「お久しぶりです、エアハルトさん、ルカちゃん!」
グウェルの存在にびっくりして唖然としていたルカに、笑顔で手を振りながらひとくみの男女がやってくる。
こちらにも見覚えがある。
コルチの街、遮りの魔窟で出会った冒険者、アルフレッドとクレアである。
「よく来てくれたな、ふたりとも。ミリアから話を聞いて逃げるかもとは思っていたが」
「いやあ、まあ。その、話を聞いたときにはヤバイことを知っちゃったとは思ったんですけどね」
あはは、と。苦笑いをしながらに、アルフレッドは頭を掻く。
「ね、ねえエア、どういうことなの!?」
「それについては今から説明するから、待ってろ」
そう言ってエアハルトはコホンひとつ息をついて、改めて全員の顔を見回す。
「早速だが、今回ここに集まってもらった理由だが。第三王子であるアレキサンダーの誘拐だ」
「うおう、マジで冗談じゃなかった……」
「いやまあ、疑ってたわけじゃないんですけど……」
目的をはっきりと告げたエアハルトに、アルフレッドとクレアが驚き半分な様子を見せる。
「ただ、少々事情があって、今俺が王都に向かうのは好ましくない。というか、この件に魔法使いが絡んでいるということを知られるのがマズい」
ついでに、王都の警備は他の街の比にはならないもので。生半可な魔法使いが入ろうとしたとしても、偽装魔法で自身の存在に認識誤認をさせたとしても突破される可能性のほうが高い。
「だが、この作戦にはふたつの要素が必要になる」
ひとつは、王都にいても不思議ではない人間の協力者。
「そこで俺とクレアってわけですね」
ポンと胸を叩きながら、アルフレッドが言う。
この二人が選定されたのは、推定で魔法使いに対しての偏見がなく。そして、王都にいることが不自然でない、ということだった。
冒険者は各所を回っている人も多い都合、王都にいること自体不自然ではない。
「でも、よくアルフレッドさんとクレアさんを見つけたんだね? どこにいるかもわかんなかったのに」
そう。冒険者は各所を回ることが不自然ではない、のならば、今どこにいるのか、ということも不明ということになる。
もちろん、どこかしらに停留している冒険者なんかもいるが、このふたりがそうかどうかということもわからない。
「まあ、そのあたりはミリアに手伝ってもらったよ」
「ミリアさんに?」
「ああ、なんせあいつは今、ギルド職員だからな」
もちろん、だからといってなんでも自由にアクセスできるわけではなく。通常の人間よりも無理やりねじ込める分だけ、冒険者関連のことに関わりやすい、という程度でしかない。
だが、それだけでよかった。
「そこで、アルフレッドとクレアのふたりでパーティ登録しているふたりを探してもらって、ルカの名前で名指しで依頼を出した」
「私の名前で。って、あっ……」
そう。かつてルカとエアハルトが二人と出会ったとき、ルカは名前を名乗っている。
そして、アルフレッドとクレアのふたりを指名でルカからの依頼が来た、ともなれば。
「もしかしたら、食いついてくれるかと思ったら」
「もちろん! 話が来た瞬間に受けさせてもらいましたよ!」
「命の恩人ですからね!」
アルフレッドとクレアはどちらかというとまだ冒険者としては新参者にあたる立場で、そんなふたりにわざわざ名指しで、それも聞き覚えのある名前から来るともなれば。きっとそうだろう、と。そう確信したのだという。
念の為に今回顔合わせをするよりも前のタイミングで、ミリアからの面通しがあり。改めてこのふたりがエアハルトやルカのことを通報するつもりではないかという確認はあったが。ミリアからはオーケーのサインが出たあたり、大丈夫だったらしい。
「そして、もうひとつの必要な要素は、魔法使いだと疑われずに王都に入り込める魔法使いだ」
「えっと、それってもしかして」
「ああ、ルカ。そのとおり」
ここにルカが連れてこられた理由。そして、目の前にグウェルがいる、その理由。
「エアハルト、お前もよく考えたもんだな。そこのガキンチョはそもそも指名手配されてないから疑われない。そして俺は――」
「もう捕まっているから、警戒度が大きく下がっている」
そう。グウェルは現在、勾留中の身。
マルクスやテトラに事情を話した上で、条件付きで一時的に外に出てきている。
「条件付き?」
「ああ、その条件は」
「そこのエアハルトの身柄と引き換えだ」
そう言ったのは、グウェルのその背後から出てきたマルクス。
その隣には怯えた素振りで周囲の一挙手一投足に「ひゃあっ!」と過剰気味に反応しているテトラ。
「本来ならばこういうことはしないんだが。不本意だが、エアハルトやルーナ女史にはいつくかの借りがあるしな」
「そ、それに。今回のそれは私が転送した手紙が原因だと聞いたので」
テトラが震えた声で言いながら、そう答える。
事実ではあるが、むしろファインプレーではある。おかげさまで、あの手紙が見られるとまずい人間たちに見られることがなかった。
「なので、グウェルが外にいる間、エアハルトが代わりに勾留することで手を打っている」
「つまり、俺は逃げきれば自由の身、ってか?」
「……否定はしないが、やめておいたほうがいいだろう」
グウェルが冗談半分に言った言葉に、マルクスがため息を付きながらそう答える。
そう反応したのも、ある種仕方のないことで。
グウェルの発言とほぼ同時、アルフレッドとクレア。そして、ルカと、いつの間にか姿を表していたゼーレから攻撃の意志を見せられていた。
「冗談だ、冗談。……それに、俺自身、ちゃんと協力の意思があってここにいるからな」
「グウェル、……さんが?」
「さん付けはいらねえよ、ガキンチョ。……まあ、簡単に言えば、ただの取引だな。互いに互いがやれることを交換したって感じだ」
「……バートレーの後遺症はまだ酷いみたいだからな」
魔薬、それもブースト薬を自身に注入して、そして魔人化したバートレー。
エアハルトが対峙していたそのときに可能な限りの魔力の抜き取りにより強引に人に戻したのだが。しかしながらやはり壊れた身体はそれだけでは治らないようで。
「俺が勾留されている間、バートレーの治療をするってことで話がついている」
「……アレでも、行く宛のなかった俺を拾って育ててくれた人なんだよ。考え方は、お前らとは合わねえかもしれねえがな」
「そうか。……俺のやれる範囲にはなるが、しっかりと治療しておく」
エアハルトのその言葉に、グウェルはどこかやりにくそうに、そうかよ、と。そうつぶやいていた。
「まあ、最悪の場合。私たちとしてもエアハルトが勾留できていれば、言い訳が効くからな」
つまるところが、エアハルトの捕縛に注力している際に、隙をつかれてグウェルに逃げられた、と。そういう言い訳がいちおうマルクスたちにとっては取れる形になっている。
無論、それが通用するかどうかは微妙として。
「ともかく、この形で行っていくことに意義があるやつはいるか?」
「……ってことは、エアはいないってこと?」
「まあ、そうなるな。……そのための保険のグウェルなわけだが」
元々、グウェルとの交換の条件がなくとも、エアハルトが王都に行くことはできないわけで。
だからこそ、これが最善の策、という形になる。
「やれるか? ルカ」
「……不安だけど、頑張る」
だって、エアハルトに頼まれたんだから、と。ルカは、小さく拳を握りしめた。




