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#130 ラブレターの宛先

「ルーナさん、大丈夫かな……」


「まあ、ただの手紙であることには間違いないから、大丈夫には大丈夫だろう」


 さすがにモノがモノだということもあり、その場で手紙を開いて読もうとしたルーナを隣の部屋に押し込んだ後、エアハルトとミリアはそう話していた。


 ここまでの話についていけていないルカは、諦めて傍らでアルにいろいろなことを教えている。


「そういう意味じゃないわよ。……国からの手紙ってだけでも私だったら心臓が飛び出してきそうなものなのに、王族からの直接の手紙なんて」


「アレがそんなこと気にするようなタマじゃあねえだろ」


 事実、ミリアが今挙げた国からの文書。正式な刻印の入った招聘の通知を不要なラブレターと一笑に附しながら破棄していたような人物である。

 おかげさまで、というか。無視した結果表舞台にいられなくなってルーナがここにいるわけだから、それが行為としていいものなのかといえば、考えるまでもないが。


 そんなことを話していると、ガチャリと音を立てて、ドアが開く。ルーナが戻ってきた。

 どうやら、読み終わったらしい。


「どうだった?」


「ん? ああ、まあ。ただのラブレターさね」


「……前と同じか」


 エアハルトが彼女の受け答えに対してそう話す。しかし、それに対してルーナはニヤリと笑うと、それはどうかねえ、と。


 パサリと手紙を机の上に投げ出して、不敵に笑う。


「どういうことだ? またラブレター……つまるところが呼び出しを食らったと、そういう話だろう?」


 国からの招集に応じないルーナに対して、王族の誰かが直々に呼び出しに来た、と。そういう内容だと、エアハルトはここまでの説明かそう解釈したが。


「んー、そうじゃないさねぇ」


 エアハルトのその説明に、ルーナはふるふると首を横に振る。


「そもそも、このラブレターの宛先は、私じゃあないさね」


「……は?」


 思わず、素っ頓狂な声を出してしまったエアハルト。

 ルーナ宛に届いた手紙なのに、ルーナ宛のラブレターではない、と。


 そんな意味不明な状況に、エアハルトが困惑していると。

 クイクイと顎でエアハルトのことを指し示しながらに、ルーナは面白そうに、言う。


「そのラブレターの宛先は、紛うことなく、エアハルト。お前さァね」


「はあっ!?」


「なんですって!?」


 エアハルトと、ミリア。ふたりの驚愕の声が揃う。


 今回ばかりはどちらかというと話の流れを掴んでいなかったために理解できていないルカとアルは、突然に驚いたふたりの様子に首を傾げていた。


「いや、一体誰からなのよ!? いや、王族なのは確定してるんだけど。エアハルト!? あんた、一体誰にそんなこと――」


「知るか! 俺が一番驚いてるんだよ!」


 ミリアがエアハルトにグイグイと詰め寄りながらにそう問を投げかけている傍らで、面白がるようにしてルーナが笑っていた。


「まァ、ひとまず読んでるのさァね。……まあ、しっかしなんというか。お前さんという人はどこに行っても人を助けてるのさねェ」


「……一体どういうことなんだよ」


 ひとまず、言われたとおりにエアハルトは封筒の中身を取り出す。

 見てこようとするミリアについては、ルーナが大丈夫、というので特に隠すことはせず。

 同じく、興味を示したルカとアルも寄ってきて。ひとつの手紙に対して四人で囲う形になり、中々に読みにくくなる。


「差出人は……アレキサンダー・エイベル。……たしかに、王族の名前だな」


「たしか、今の第四王子……だっけ? まだ子供なはずだけど」


「アレキ、サンダー?」


 ルカが首を傾げる。はて、どこかで名前を聞いたような気がするけれども。


「あの人、は。アルフレッドさんだから、違うでしょ? ……うーん、どこで聞いたんだっけ」


 うむむむ、と。そう唸りながらに考え込んでいるルカの隣で、エアハルトとミリアのふたりが手紙を読み進めていく。


「ざっくり要約すると、エアハルトのことを探してて、ルーナさんにエアハルトについての心当たりがないか? って、そういう内容よね?」


「……だなあ」


「エアハルト、あなた本当になにをやったの?」


「なにをって言われても……」


 アレキサンダー・エイベルという名前を見て、エアハルトにはたしかに心当たりがあった。

 しかし、あそこから本当にエアハルトの名前を探し出して、そこからルーナという最大の情報源にたどり着いているとは。少々驚いた。


「これって、内容を見る限りエアハルトを捕まえたいとか、そういうわけじゃない、ってことよね?」


「ああ、アレキサンダーが腹芸のたぐいをしてきているのなら話は別だが。……たぶん違うと見ていい、だろう」


 内容をしっかりと確かめながらに、エアハルトがそう判断をする。


 考え込んでいるエアハルトの傍らで、ルーナがケラケラと笑いながらに、言葉を挟んでくる。


「まあ、それが一通目の内容さね。……そして、手紙自体はもう一通。こっちは私宛ではあったが、……実際に動くとするなら、エアハルトに頼むほうが良さそうさァね」


 つまるところが、読んで、お前が対応しろ、と。そういう様子でルーナがもう一枚の便箋を渡してくる。


 その内容へとエアハルトが目を通して。そして、驚く。


「……よく、この手紙が検閲に引っかからなかったことだな」


「クケケケケッ、本当に、そうさねェ」


 もしも引っかかっていたら、それこそ、アレキサンダーの身が危なかった可能性まである。


 なんせ、その手紙の内容は――、


「ねえ、エアハルト。これ、ホントなの?」


「今の国の中枢(まんなか)の様子を知らないからなんとも言えないが、わざわざを嘘をつく理由もないだろう」


 書かれていた内容は、アレキサンダーがこのままだと半軟禁状態になりそうである、ということ。

 だから、王城もとい王都から脱出するために、信頼のできる実力者を斡旋してくれないか、というもの。


 つまるところが、アレキサンダーを誘拐してくれ、というものだった。


 見つかってしまえば、手紙が外に出ることはなかっただろうし。即時監禁されることになっただろう。

 ……が、しかし。どうやらその賭けに彼は勝ったらしい。


「……さて、エアハルト。お前宛のラブレターが届いたわけだが。答えてやるのかい?」


「…………」


 ルーナからのその質問に、エアハルトはしばらく考える。


「正直なところでいうと、いろいろと時期が悪い、というのが実情だ」


 ルカの前なので、いろいろとした直接的な表現は避ける。

 だがしかし、人間と魔法使いとの戦争が目前に迫っている中で、というのがあまりよろしくない。


「お前さんのやりたいこと、をなし遂げる上では、人間にも、魔法使いにも。大義名分を与えるわけにはいかないってわけさね」


 ルーナが、エアハルトの意図を汲み取ってそう理解してくれる。


 エアハルトは、立場上では魔法使いである。

 それゆえ、彼の行動であるということが判明してしまえば、それが()()使()()()()()()()であるという認識が世間一般に広まってしまう。


 エアハルトが。魔法使いが人間に対して大きな害を与えた、宣戦布告とも取れるような行動をした、ともなれば。戦争を始める大義名分を人間側に与えてしまうことになる。


 そうなれば、せっかくメルラが起きないようにと必死に立ち回ってくれた戦争の開始を早める原因となりかねない。


 始まるのが必至な事実ではある、としても。少しでも時間が欲しい、というのがエアハルトの現状であった。


(メルラが言っていた、足りていないナニかというものが、いったいなんなのかもわかってないしな……)


 あまりにも難しすぎるエアハルトの、やりたいことをやり通すために。メルラが予知で教えてくれた、それ。


 メルラが戦争を引き止めるのをやめた、ということは、条件は揃ってはいるのだろうが。しかし、それだけでうまく行くほど、ことの規模が大きく、エアハルトの存在は小さい。


「特に、今回俺はルーナの件があった都合、普段以上に警戒されているはずだ」


「まあ、裏の事情が公開できない以上、公にはなってないが。警備隊なんかでの周知としては十分に回ってるだろうね」


 対エアハルト特化の厳戒態勢を敷かれてしまうと、いくらエアハルトとはいえ、バレずに隠密、というのは困難になる。


「なら、コレに関しては心苦しいが、自分でなんとかして貰うしかないかねェ」


「…………」


「エアハルト?」


 まあ、こればっかりはダメ元だったし仕方がない、と。諦めかけたルーナの前で、エアハルトがジッと考え込む。


「なあ、ルーナ。1枚目の方は、たしかに俺へのラブレターだったが、2枚目の方は、必ずしも俺である必要性はないんだよな……?」


「ああ、たしかにこっちは私への依頼だから、それはそうだが。ただ、コトがコトだ。信頼と実力が無いと任せられんぞ? そもそも、場所が場所、王都はおろか、王城だ。半端な実力じゃ、魔法使いは侵入すらできない。だからこそ、実力と信頼のある、唯一の心当たりのお前さんに声をかけたんだが――」


「わかってる。……が、方法が、ないわけじゃない。まあまあな賭けだがな。特に、協力を取り付けられるかが、な」


「……へぇ、そいつァ興味深いね」


 エアハルトの言葉に、面白がるようにして、ルーナが口角を上げる。


 そんな傍らで。


「アレキサンダー……ううん、誰だっけ……」


 ルカは、マイペースに。変わらず、記憶の端の誰かを探しているようだった。

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