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#13 大罪人は風を巻き起こす

 エアハルトは大きく息を吸い込み、目をカッと見開く。


「《下降気流ダウンバースト》《乱気流タービュレンス》」


 突如、空からエアハルトを中心とした風が吹き下ろし、また渦を巻いたような風も発生する。風は、倒れてくる木々を押し返す壁となり、また、木々の倒れる方向を指示させる役割を担った。しかし、


「本当に、鈍っているな」


 それでも、風に押し勝つような、重そうな木々がいくつか、切れていないきやヌラヨカチの木に倒れかかろうとしていた。


「《瞬間強化律リン・フォ・ルーツァンド》」


 その瞬間、風の勢いが幾倍にも増した。ほんのわずかな時間ではあったが、木々を思いの方向に促すには十分な強さだった。

 ズゴン、ドゴン、木は地面を揺らしながら、エアハルトを中心に幾重もの円形をとった。


「よし、ここまでやれば次は切り株を抜いて、それから軽しょ……」


 くぎゅるるるる……、腹の虫が盛大に鳴いた。


「相変わらず、燃費の悪さはとんでもねえな」


 便利ではあるのだが。エアハルトは小さくぼやいた。

 本当は、切り株を引っこ抜いてから軽食にするつもりだったエアハルトだが、《下降気流ダウンバースト》に《乱気流タービュレンス》、さらに《瞬間強化律リン・フォ・ルーツァンド》。これらを使ったことにより、想像以上にエネルギーを使ってしまったようだった。






「さて、これでいいか」


 エネルギーを補給した後、調整しきれずに立っている木にもたれかかってしまっている木を優先的に整理した。そして切り株も抜いた。

 積み上げられた木々からは、すでに枝葉が落とされていて、丸太になっていた。


「しかしまあ、《制限付き反重力(フロート)》を使いまくると疲れるな」


 ここまでの作業の大半は《制限付き反重力(フロート)》を用いたものだった。が、地属性のこの魔法は雷属性のエアハルトの得意とする魔法ではなかった。

 そのため、使えないわけではないが、より燃費が悪く、疲れやすい。


「ま、まだやらないといけないことは沢山あるから、ここでへこたれてるわけには行かないんだけども」


 ルカに、今日の夕方までに準備しておけと言ったのは俺だしな。エアハルトはそう言って、決意を新たにした。


「さて、やりますか。まず最初に、簡単な基礎を作らねえとな」


 《創造メイクハウス》、エアハルトは木々や地面、持ってきた材料たちに魔力を流し込み始めた。






 ガチャ、バタン、ドサァ。


「ただいま……うあ、疲れた……」


「お疲れさ……めちゃくちゃ疲れてるわね。ちょっと待ってなさい」


 ミリアはすぐに廊下の奥へと消えていった。エアハルトは倒れたまま、今日の作業を思い出した。


(こんなに魔法を使ったのは、いつぶりだろうか)


 軽食を食べまくり、胃がもたれているのにもかかわらず、襲いかかる空腹。疲れ。

 魔法の使いすぎと、魔力の急速回復を繰り返しすぎた代償だ。

 エアハルトにとって、経験のないことではなかったが、それでも最後に経験したのがいつなのか、思い出せないほどだった。


「はい、ホットミルクよ。とりあえず体起こして、座りなさい」


「ありがと」


 エアハルトは腕で地面を押して体を浮かし、そのまま捻って床に座る。

 そして、ミリアから差し出されたマグカップを受け取る。若干膜を貼っている牛乳から、白い湯気が立っている。


「んっんっ、ぷはあ」


 エアハルトはカップに口をつけ、ふた口ほど飲む。非常に甘い。


「これはまた、砂糖大量に入れたな」


「ええ。だいたいティースプーン山盛り7杯くらい」


 なるほど、それは甘いわけだ。エアハルトはそう思いながらホットミルクを再び飲む。


「あなたってば、相変わらず甘いものが好きなのね」


「…………甘いものは、栄養の補給が楽だからな」


「嘘ばっかり。いくらそうだとしてもホットミルクにドサドサ砂糖入れたやつを美味しく飲める人間なんてそうそういないわよ」


 エアハルトは黙り込んだ。ミリアの顔はご満悦と文字で書いたようになっている。


「ま、意外な一面っていうの? 面白くていいんじゃない?」


「面白いってお前……」


 苦笑いをしながら、エアハルトは残りを全て飲み干す。

 ちょうどそれくらい


「エアー! おかえりっ!」


「おう、ミリア。できだぞ、家」


「……え、もうできたの?」


「ああ、魔法を駆使すれば、ある程度の大きさの家なら半日程度で拵えられる」


「なにそのトンデモスキル」


 ずーるーいー! ミリアからまるで子供のように騒ぎ立てる。エアハルトはマグカップを持っていない方の手で耳を塞いだ。


「いや、まあなんでも作れるってわけじゃないし、作るのには尋常じゃないくらいのエネルギー使うし、めちゃくちゃ疲れるんだからな」


「でも、できるんでしょ?」


「ああ、まあな。そもそも昔の魔法使いが何かないというとき、その物を作れるようにしたいと願って、それを可能にするために《創造メイク》を発明してくれたからなんだがな」


 ずっと昔、魔法使いたちはやはり罪人として扱われ、武器も消耗し、手元にあった木で何か武器を作りたいと願い、それに魔法が応えた結果、生まれたのが《粗製創造プロトメイク》だった。

 その後、《粗製創造プロトメイク》は研究が重ねられ、材料があり、かつ、その物の構造を把握していれば、魔力を代償にその物を作り出すことをできるようにしたものが《創造メイク》だ。

 《標識針マーキングニードル》も、一種の《創造メイク》だ。


「《創造メイク》も、《信号シグナル》も。言ってしまえば魔法使いが生き延びるために作り、後世に伝えてくれた魔法というわけだ」


「ふーん、まあ、お疲れ様」


「そうだ、コイツ」


 エアハルトは何やらかわいらしいく、小さな紙製の包装用袋をミリアに投げつけた。


「これは?」


「中身を見てみろ」


 質問にそうとだけ返されたミリアは、少し乱雑なエアハルトの対応に不機嫌になりながら、しかしプレゼントらしきものを貰ったことに嬉しさを感じていた。

 袋の中に手を突っ込み弄ってみると、何やら冷たい感覚がミリアを刺激してみた。


「なにこれ、小さい、輪? 冷たいけど金属製なの? ……ってか、つまみにくいわね。あ、やっとつまめた」


「いや、普通に手の上に出せばいいのに」


 紙の擦れる音とともに、ミリアの指が出てくる。そして、袋の中身も共に。


「え、あ、は? う、いや、え、エアハルト、待って、なにこれ」


 そのキラリと光るものに、ミリアの頬はひどく紅潮し、様子はひどく困惑しながら。


「ん、何ってお前、見てわからないのか?」


 贈った本人は、さも平然と言い渡す。


「見てのとおり、指輪だが」

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