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#116 精霊の噂

 ルカとミリアが精霊や妖精たちに混じって遊んでいる。

 下手なちょっかいをかけてくるようなヤンチャなやつがいないか、と。警戒はしつつも。エアハルトとゼーレは庭の傍らで話していた。


「……エアハルト、気をつけなよ。最近、しばしば近場で警備隊の輩を見るようになった」


「マルクスの隊か?」


「いんや。全く見たことがないやつらだね」


 マルクスの隊であれば、安心できるわけではないが。しかし、ここに来た理由がまだ理解できなくもない。

 捕縛か、あるいは頼りにか。そのどちらかはわからないが、いずれにせよエアハルトのことを探しに来たのだろうと理解出来る。

 そして彼にならば、エアハルトたちがどこを拠点にしているのか、ということを知るツテがある。なにせ、ルーナが共通の知り合いとなってしまっている。


 だが、マルクスの隊でないとすると、警備隊が張り込んでいる理由がわからなくなる。

 いや、いる理由があるとすれば罪人の捕縛のためなのだろうが。しかし、そうなるとこの付近に罪人がいるということがばれている、ということになる。


 罪人ならば、たしかにいる。ちょうどここに、エアハルトが。

 だがしかし、もしもエアハルトを狙ってのものだとするならば、ここにエアハルトがいるということがバレていることになる。


「バレてるとしたら厄介だな。あんまりここから拠点を移したくないんだが」


 ヌラヨカチの木の庇護下であり、ミリアにも近い。

 そして、ルカが開墾した畑もある。前者ふたつは最悪どうにかなるにしても、後者はどうやっても代替できない。


「いちおう偽装用の魔法はかけているんだが」


「それが破られたという可能性は?」


「……無くはない。が、正直ほぼ無い筋の話でもある」


 エアハルトは、かなり慎重にこの魔法をかけていた。

 畑の開墾という予定があったために、この拠点はほぼ捨てるつもりがなかった。

 だから、標識針(マーキングニードル)を使っての領域制圧(ドミネート)で隠密用の魔法を。それも、かなり高等なものを仕掛けている。

 それこそ、下手な魔法使いでは感知すらできないほどのものを仕掛けているつもりなのだが。


「だから、あり得る可能性としてはふたつ。ひとつは、エアハルトの言うとおり、ここの隠密魔法が看破されてる」


 だが、これに関しては方法が不明。魔法使いでも難しいものを。それこそ、ルカのような特異体質でもあれば話は別だが、それ無しで看破するのはほぼ不可能と言っていい。


「もうひとつは、魔法使いがいるとはバレていない、という可能性」


「……えっ?」


 どういうことだ? と。エアハルトが尋ねる。


「単純に考えてみてほしい。たしかにこの領域制圧(ドミネート)の影響範囲内であれば感知系統は防げるし、そもそもの視認を含めた知覚はほぼ不可能と言っていい。だが、その外については全くの無対策だ」


「まあ、無対策というか。対策が不可能というか」


 範囲を広げるだけなら不可能ではないが。それをしたところで、結局はその外があるわけで。

 逆に広げすぎてしまっては、内側からは認識阻害の影響を受けにくくなってしまうために、なんなら危険まである。


「だが、基本的には俺やルカは外に出てないし。出るにしても、個別に隠密魔法を行使してるぞ?」


「ああ。そもそもさっき行っただろうさね。バレてるのは魔法使いがいるってことじゃないって」


 その言葉に。エアハルトは少し考えてから。ハッと気づく。


「……精霊と、妖精か」


「そのとおり。精霊と妖精がなぜか集まってきている場所がある、と。そういう理由で調査しに来たのだろうね」


「それは、なるほど。たしかに合点が行く」


 精霊や妖精は自身に対して隠密魔法をかけることもあるが。それは、あくまでイタズラを行おうとするときが多い。普段から使うものもいなくはないが、少数派ではあろう。

 無論、そもそも精霊や妖精を視認できることのほうが少ないのだが。しかしながら、運良く目にすることができることもある。高速で移動しているときに、一瞬だけチラリと。

 以前のミリアのように、精霊や妖精をおとぎ話の存在だと思っている人も多いので、大抵の場合は見間違いなどの冗談として笑い話にされることが多いが。しかし、現在エアハルトたちの近くには、異常とも言えるほどの精霊や妖精が訪れている。

 見かけたという人がひとりふたりならともかく、もっと増えてきたとしたら、どうだろうか。


「……精霊が来ることに、そんな弊害があるとは」


「まあ、私もそんなことになるとは全く思ってなかったから、仕方ないさ」


 しかし、それはそれとして隠密魔法が破られていないのであれば、少なくともこの範囲内にいれば大丈夫、というわけでもある。


「まあ、もちろん。誰かがエアハルトのことを密告した、という可能性はなくはないけど」


 いちおう、と。ゼーレがそう言う。

 それをできる可能性がある人物とすれば、ミリアとダグラス。マルクスとテトラ。そしてルーナだろう。

 一番可能性があるとすればマルクスとテトラだが、この二人ならば報告するというまどろっこしい方法をするならば、自分から捕まえに来る。特にマルクスは長くに渡ってエアハルトを追い続けてきたのだから。


「どうする? 直接の危険があるわけじゃないと思うけど」


 ゼーレがそう言う。

 実際、彼女の言うとおりではあるだろう。極端な話、そのあたりのほとぼりが冷めるまで領域制圧(ドミネート)範囲内からエアハルトとルカがでさえしなければまずバレることはない。

 領域制圧(ドミネート)に仕掛けられている魔法の都合で、侵入しようとしてくる人間は迷ってそのまま外に出されてしまう。精霊や妖精がこれを突破できるのは、エアハルトが単純にそれらに対して魔法を組んでいないというだけであり。一方のミリアが迷わずに来れるのは、彼女の持っている装飾品が、この魔法を弾いてくれるからである。


 返して言えば、そうでない存在は、迷ってふらりと訪れてということも、狙ってエアハルトたちを探してということでも侵入することはできない。

 例外があるとするならば、エアハルトの仕掛けている魔法を看破できるほどの魔法に依ってでのみである。


 あるいは。エアハルトの知りうる唯一のイレギュラーとして、ルカがいたりはするが。


「まあ、たしかに今はゼーレがいるから、無理に俺が外に出なくても大丈夫ではあるが」


「私がお使いに行かさせられてるからね」


「合意の上だろ?」


 エアハルトが淡々とそう言うと、彼女は少し不満げにフンと鼻を鳴らした。


「とはいえ、自由に行動できないってのは癪ではあるよな」


「どうする? 追っ払えって言うなら私が追っ払ってくるけど」


「いや、基本人間に対立しない精霊が警備隊に対して攻撃を仕掛けてきたとなると、それこそ魔法使いとの繋がりを疑われかねない。契約を疑われてしまったら、本格的に魔法使いがいる可能性が出てくる」


 というか、そもそも今回の精霊騒動に対して警備隊が動いているのは、それほどの精霊や妖精がいるのなら、その裏に魔法使いがいるのではないか、というそういう理由からであろう。

 実際のところはまさしくそのとおりで、そこにエアハルトの存在がありはするのだが。


 だが、理由がそこにあるのであれば、現実には対処は案外簡単ではある。


「それこそ、そいつらが十分に調査したと思えばそのうちに引いていくだろうし。それに、こちらから仕掛けることもできる。……まあ、それにはミリアの協力が必要だが」






 帰り道。森の中から街へと戻るミリアは、その道中で警備隊と遭遇する。

 近くによくいる、とは聞いていたが。まさかこんなすぐに出会うとは。


「こんにちは」


「ええ、こんにちは。わざわざ警備隊の方々が、どうされたのですか?」


「まあ、少々噂を聞いたもので。それについての調査を」


「噂というと、精霊ですか?」


 ミリアがそう言うと、彼らはあからさまに反応をする。

 ……わかりやすいなあ。まあ、こちらが明確に一般人だから警戒していないのだろうけど。


「実はですね――」


 エアハルトは言った。

 精霊の発見報告があって、その理由が魔法使いの疑いがあるから、調査している。

 なら、敢えてこちらから噂を流してしまえばいい。


 この近くに、精霊の集落があるらしい、という。


 断定する必要はない。ただ、そんな風の噂が立っている、という。


 都合よく、状況なら整っている。


「それで、私も試しに来てみたんですけど。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 それっぽい要素を描写してやればいい。


 無論、それだけで信じるようなバカではないだろうが。しかし、実際にここの森は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 実際に訪れてみて。そのときにゼーレがサービスで姿を見せてやれば、それで納得するだろう。


 別種の人間が訪れるようになるかもしれないが。そもそもそんな研究などに熱心な人間は噂を聞いた時点でやってきているだろうし、さほど変わりはしない。

 それよりも、警備隊が警戒を解くほうが優先であろう、と。


 警備隊の人間は互いに顔を見合わせながらに、様々話してから、ミリアに向かって「協力、ありがとうございます!」と。


(まあ、あんまり警備隊に張り詰められると。私もここに来にくいしね)


 ミリアはそんなことを考えながらに、街に向かって、再び歩き始めた。

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