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#115 収穫と合格

「よし、いいんじゃないか?」


「うん! それじゃあ、取るね!」


 彼女がグッと力を込めて蔓を引き抜くと、それに引っ張られるようにして、紅色の芋がたくさん連なって出てくる。


「わあ! エアハルト! 見て! 採れたよ!」


「おお、よくやったな!」


 夏の旅行から、しばらくが経って。秋口に入ってきた頃合い。

 この日は、ルカにとって、とても大切な日。

 ルカたちの畑ができてから、初めての収穫の日だった。


「紅芋だね。まあ、それにしては小さい気がするが」


「水を差すようなことを言うんじゃねえ、ゼーレ。そもそもこの畑ができて1回目の収穫なんだから、そのあたりはどうしようもないからな」


「わかってるわかってる。ただ、言いたかっただけさ」


 土壌の状態なども、十分とは言えないであろうところから始めたのである。だからこそ、最初は生育がしやすいという理由で紅芋を採用していた。

 正直、エアハルトとしてはもっ

と小さいものができるかと思っていたくらいだった。


「元々の土壌が想定よりも良かったのか?」


「まあ、その可能性もあるけど。どっちかというとあっちだろうね」


 ゼーレがそう言いながら、周囲に目をやる。

 家や畑の周り、空中なんかに、そこかしこで遊んでいる精霊や妖精。

 ゼーレが旅行から帰ってきたときに言っていたように、本当に精霊の溜まり場になっており。まあ、それに関しては(ゼーレはともかくとして)エアハルトやルカは支障ないので特に咎めたりはしていなかったのだが。


「アイツらの中には自然をより強く継承した魔力を有するやつもいる。そういうのが定期的にとはいえここに滞在すれば」


「なるほど。それに誘発されてよく育つのか」


 思わぬところに副次的な影響があったものである。


 と、そんなことを話している傍らで、ルカは次の収穫へと移っていた。


「今日はミリアさんも来るんでしょ!」


「うん? ああ、そうだな」


 丁度、ギルド員採用の結果発表の時期が最近であったということもあって、その打ち上げも兼ねて収穫祭的なものをやろう、と。

 なお、ミリアはしっかりと合格をしていた。


 ぽてぽてとルカが次の紅芋を掘り起こしに行って。そしてそこで彼女はゆっくりと首を傾げた。


「これ、違わない?」


「お、どうした?」


 ルカのそのつぶやきに、先程まで話していたエアハルトとゼーレは近づいていく。

 彼女が指差す先には、たしかに紅芋とは違う葉っぱ。


 それを見て、最初に気づいたのはゼーレだった。

 ほう、と。興味深そうな声を出して。


「まさか。……いや、たしかにここならあり得るのかもしれんな」


「どうした、ゼーレ。なにか、心当たりがあるのか?」


「まあ、そういうことだね。……まあ、わかりやすい言い方をするのなら、こいつはまだ、種の状態だから。抜かないで置いておいてあげるといい。それで、毎日水をやって、魔力をあげれば、そのうち()()()さ」


「起きる……? 花が咲くとかじゃなくって?」


 ゼーレの変わった物言いに、ルカは首を傾げる。


「花も、咲くだろうね。ただ、それよりも先に起きる。そのときにきっとルカが驚くことだろうね」


「……ああ、なるほど。この草はあれなのか」


「そういうことだね。随分とここの土壌が気に入ったみたいだ」


 よほど居心地がいいと感じたか。あるいは、大地にも空気にも、ふたりの魔法使いと大量の精霊妖精の魔力が満ちているここが、成長に都合がいいと思ったのか。


「まあ、ここまで来てたら目覚めるまであともう少しだ。楽しみに待ってるといい」


「う、うん?」


 ひとりだけ理解できていないことにちょっとだけ不満を感じたルカだったが。悪いことではない、むしろいいことだ、と。そういうエアハルトに、彼女はひとまず納得しておくことにした。






「ルカちゃん、初収穫おめでとう!」


「ミリアさんも、合格おめでとう!」


 食卓を囲みながら、ルカとミリアのふたりがお互いを祝い合う。

 そのテーブルの上には、エアハルトが次々に料理を並べていく。主には、今回の収穫物を使った料理たち。


「すごいじゃない、ルカちゃん! こんなにできたの?」


「ううん、もっとあるよ! ただ、芋は小さかったけど」


「初めてなんだから十分よ! それで、食べていいの?」


「うん!」


 いただきます、と。そう言ってからみんなで料理を食べる。

 小さいながらにしっかりと甘みのある紅芋だったようで。ルカはその味に、諸手を挙げて喜んでいた。

 自分で育てて、収穫して。という代物だから、なおさら嬉しいのだろう。


「そういえば、話には聞いていたけど。ほんとにたくさん精霊がいるのね」


「ああ、どうやらここが気に入ったらしい」


 家の外にいる彼ら彼女らに目をやりながら、ミリアはそう言う。

 なんなら、興味があるのか、窓からこちらの様子をうかがっている者もいたりする。


 ミリアは、旅行以来は試験に向けて本格的に向き合っていたので、精霊の溜まり場になっていることは話としては知っていても、こうして実際に見るのは今日が初めてであった。

 ついでに、彼女にしてはゼーレ以外で初めて見る精霊であったために。元々おとぎ話の存在だと思っていたものが、こんなにもたくさんいるのか、と。


「紅芋に関しても、ルカがお裾分けだって言って、外にいくらか置いてるしな」


「ああ、来るときに積み上げてあったのはそういう……」


 まあ、実際問題として。彼らがやってきている影響で生育がより補助されているというのも事実ではあって。そういう意味では、収穫の感謝を伝える対象としては間違っていないのだろう。

 無論、たとえ彼らが来ている理由が、ここが心地良いからという理由であったとしても。


「そういえば、精霊たちが良く来てるわけだけど、それで問題は起こってたりしないの?」


「いや、全く起こってないってわけじゃないぞ」


 それこそ、人間と精霊ではそもそもの文化が違うために、そうしたところでどうしてもいろいろと起こってしまうことはある。

 いちおう、ここに来る精霊たちのほとんどは、ここが盗めない場所だと理解しているために盗みを働こうとするやからは少ないが。しかしながら、精霊がたくさんいる場所だからとふらりと訪れて、そのまま盗もうとしてエアハルトに捕まえられる、ということもしばしば起こる。

 それの対策用に、勝手に食べていい食料などを置いておくスペースなどを設置したりはしているが。どうしてもその手の周知は普段からよく来ている精霊のほうがよく知っているわけで。ふらりと訪れる流れの精霊になればなるほど意味が薄れるという。

 よく来る精霊たちも、訪れた精霊たちに注意をしてくれたりはしているのだが。もちろんそんなこと聞かないやつもいるわけで。


「まあ、食料とかの物品に関しては、それほど逼迫してるわけじゃないからそこまで問題ってわけじゃあないんだけどさ」


「あら。でも精霊で聞く一般の被害ってそこじゃないの?」


「一般はな。だが、俺たちは魔法使いだ」


「……あっ」


 それを聞いて、ミリアは理解する。

 彼女もエアハルトとゼーレが契約をするその場に立ち会っていた。だから、彼女も知っているのだ。


「俺に来る分には別に構いやしないんだが。不慣れそうなルカを対象に取るやつがいるからな」


 つまりは、あまりその手のことを十分に理解していなさそうなルカを、うまく騙して利用してやろう、という。言葉を悪く言えばそうなるやつがいたりする。


「大丈夫なの? それ」


「今のところは、だがな。ルカが全くの無知だったら危なかったが、ルカは契約のことを既に知ってるから」


 下手な契約で不平等な関係性を持ちかけようとしてきたやつは普通にルカに看破されていたし。そうでなくとも、万が一のときはエアハルトやゼーレが割り込んで助けられるようには警戒している。


 だから、今のところは問題が起こってない、のだけれども。


「……どこから噂が流れ出たのか。子供のくせに契約に対する対処がうまい魔法使いがいる、と。精霊の中で噂になっているらしくて」


 それで、ルカが契約の腕試し相手のような扱いを、精霊の中でされている、という。そんな奇妙なことになっていたりする。


「それは、その。なんていうか……」


「それでいいのか? って気はするが。まあ、ルカも精霊と喋れて楽しいらしいし、いいんじゃないかなって」


 ルカには、ちゃんと契約を結んで大丈夫そうだと自分で判断して、責任を持てるのなら契約をしてもいいと伝えている。

 今のところ、契約を結んでいないあたり、そういうものはないのだろう。


 あるいは、彼女が契約の締結を却下したその後に「お友達になりましょう!」と言っているその言葉のとおり、契約関係ではなく、友達がいい、ということなのかもしれない。


 まあ、互いにウィンウィンなのなら、奇妙な関係性でも構わないのだろう。


「ミリアさん! お外に行こ! 私のお友達を紹介するから!」


「ちょっと、わかったわかったから! そんな引っ張らなくても大丈夫よ!」


「エア! この料理も、ちょっとおすそ分けしてあげてくる!」


「おう、好きにしな」


 苦笑いをしながらに、腕を引かれるままについていくミリアを見届けながら、エアハルトはそう言う。


「どうする、エアハルト。ついていくか?」


「まあ、いちおう様子だけ見に行っておくか」


 問題を起こすようなやつはいないと思うけど、精霊が集まっているだけに、万が一の対処はできる方がいいだろう、と。

 エアハルトとゼーレは、ふたりについていく形で椅子から立ち上がり、外に出た。

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