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#114 精霊の溜まり場

「ただいまー!」


「おかえり……っていうのも、なんとも微妙な感覚だけどね」


 ミーナガルから離れたあと、そのままコルチに寄って、テトラを送り届け。街の近くまで戻ってきて、ミリアがちゃんと帰れたのを、森の中から見守ってから。

 そして、こうしてエアハルトとルカも。家まで帰ってきた。


 一足先に、契約を元にして帰っていたゼーレが迎え入れてくれるが。必要に応じて呼び出されていたために、なんだかんだと一緒にいる時間もあって、なんともどう挨拶するのが正しいのかがわからなくなる。


「畑の方は、件の事件があったときにしばらく向こうに滞在してたタイミングでちょっと離れてたけど、そのときには別の精霊に手伝ってもらってたから、しっかり維持できてるよ」


 ただ、聞いた話によると、手伝ってくれてはいるものの、あまり精力的には行ってくれなかったらしいから、直後の頃合いは多少荒れていたらしい。

 まあ、向こうからしてみればなぜか唐突に畑仕事を押し付けられたという形になるので、あまり精力的に行いたくないというその気持ちもわからなくはない。

 その点、多少荒れはしたものの、畑として維持できているあたり、十分出会ったと考えるほうがいいだろう。


「ただ、その。なんていうか。……早い話が、この場所が一部の精霊にバレちゃったから」


「うん? それがなにか問題なのか?」


 どうにもやりにくそうにしているゼーレに、エアハルトが首を傾げながらに尋ねる。

 たしかに精霊にここがバレて。そして、魔法やヌラヨカチでの対策こそしているものの、精霊にはいずれも通用しないことを考えると。彼ら彼女らはこの家に自由に近寄ることができるわけで。そうなれば、彼らの十八番である精霊の仕業(どろぼう)ができるわけだが。


「そんな命知らずをするやつがいると思う?」


「ゼーレはしたじゃないか」


「あのときは! あんたたちの異常性を知らなかったから……」


 エアハルトやルカが異常なだけで、基本的には全力で隠れにかかっている精霊は、姿を捉えるどころか存在を察知することすら困難である。

 だからこそ、彼ら彼女らは平然と様々なものを拝借できるわけで。


 しかしながら、ここにいるのは。片や精霊であるゼーレすら凌駕するほどの魔力量を有し、それにより強引に存在を看破できるエアハルトと。現状どういうわけかは不明ではあるものの、ほんのわずかな魔力の残滓であっても視ることができ、それにより精霊の動きを捉えることができるルカ。

 特に、エアハルトの方に関してはやり方があまりにも力技であるということに加えて、それをされてしまってはほとんどの精霊が勝てないために、ゼーレの話を聞いた精霊たちから、即座にうわさとしていっきにひろかっている。


 つまるところが、ここは盗めない場所である、と。


「別に、言ってくれるなら多少持っていってくれても構わないんだが」


「そこについては今回あんまり関係ないから、おいておくわね?」


 エアハルトの発言に対して、ゼーレが軽くため息を付きつつにそう流す。


「……てことは、アレか? 盗めない場所として広まってしまったから、精霊が寄り付かなくなってしまったってことか?」


「いいえ。……というか、それならむしろ気を揉む必要もあまりないでしょう?」


 それもたしかにそうだ、と、エアハルトは合点する。


 ただ、ゼーレは。「寄り付かなくなってたこと自体は、間違ってないけど」と。

 実際、盗めない場所である以上、精霊たちからしてみれば原則的には寄りつく理由のない場所なわけであって。だからこそ、今まではわざわざ精霊が訪れることもまあなかったわけである。

 強いて言うならば、たまたまふらっと、なにも知らずに訪れてしまった精霊がやってくる可能性はなくはなかったが。しかしながら、彼らであればそこにゼーレがいることは察知できるわけで。

 暗黙の了解として、同じところから短期間で物品を頂いていくのはしてはいけないことになっている。それは、精霊による負担をあまり強くかけないようにするためだ。

 だからこそ、なにも知らない精霊からしてみれば、ゼーレがいるから、盗んではいけない場所だし。知っている精霊からしてみても、その行為がどうして普通にばれてしまうために、盗んではいけない場所。


 だからこそ、わざわざ訪れることもない場所。立ったのだけれども。


「状況としては、真逆。精霊が頻繁に訪れるようになっちゃったの」


「……なぜ?」


「単純な話、居心地がいいのよ、ここ」


 エアハルトの張ってある魔法によって、安全で。かつ、土壌はルカが頑張って耕したこともあって、非常に豊かで安定。

 エアハルトの魔力の残滓や、ゼーレを介してあたりに満ちている魔力の多さの都合などもあって、精霊にとっては非常に居心地のいい場所となっている。

 まあ、ゼーレの場合はそれに加えて、契約の性質上、より近くにいるほうが魔力の恩恵を受けられるというのもあって、定住しているのだけれども。どうやら、契約云々がなくとも、ふらっと立ち寄って休憩していくに相応しいくらいには、ここが精霊にとって気持ちのいい場所なのだという。


 そして、そうであるということが。手伝いをお願いしたことによってバレてしまった。


「まあ、いいんじゃないか? 俺は別に構わないし」


「うん。私が畑を作ったのが理由なのなら、頑張ったかいがあるし、お客さんが来るのなら、嬉しい」


 ゼーレの心配とは裏腹に、ふたりはそう、呑気に返した。

 精霊は、盗むことはあっても、基本的には害がない。無論、契約なんかを結ぼうとすると厄介な相手にはなりうるものの、エアハルトはむしろ下手を打つと契約の主導権を奪われかねないほどの実力者だし。そんな彼の庇護にあるルカを狙おうものなら、どうなるかはわかったものではない。


 だからこそ、精霊が近づくということについて。実は全くもって問題がない。

 ……そう、問題がないことは、ゼーレだってわかっていた。


 だからこそ、この彼女の心配というか。気を揉んでいたその理由というのは。


「……せっかく、私の秘密の場所だったのに」


 存外に、私的な理由であったりする。






「とりあえず、お疲れ様」


 家の中で、イスに腰を掛けて。エアハルトがねぎらうようにしてそう言った。

 トラブルが起こる可能性については考慮していたが。まさか、これほどに大変なことが起こるとは思っていなかった。

 ゼーレだけでなく、ルカも、大きな仕事を完遂させてくれた。


「まあ、ひとまず。ミリアとテトラがちゃんと主目的を達成しつつ、無事に帰れたからよかっただろう」


 ミリアは、魔物についての知見を得るということ。これは、行き帰りでの遭遇戦やミーナガル周辺での活動により、彼女自身も納得がいく程度には勉強ができたと、そう語っていた。

 一方のテトラにしても、ルーナから課されていた海辺の魔物からとれる薬の素材、それも新鮮なもの、という割と無理難題気味なものを、しっかりと達成していた。

 未だちょっとルーナは面倒くさそうにしてはいたものの、あの様子であればなんだかんだで請け負ってくれるだろう。


「それと、驚いた点で言うならば。マルクスから感謝を伝えられたことだったな」


 もちろん、たしかに彼からも言われて彼女を引率したという面もなくはないのだが。曰く、その感謝の言葉それにとどまらない。

 テトラの精神面からの成長や、考え方の変遷があったこと。それに対しての感謝を述べられた。


「……これは、ふたりのおかげだろう? 俺はなにもしてないし」


「まあ、そうとも言えるし、そうでないとも言えるね。少なくとも、私よりはルカのほうがそれに深く関わってるだろうし」


「……うん、私より。あそこにいた魔法使いの人たちのほうが、より、強く影響してると思う」


 もちろん、テトラがそう思い始めるきっかけとなったのはルカの姿やエアハルトの行動ではあったものの。

 動いたきっかけとして、出会ったあの魔法使いたちに触発されて。彼女は大きく成長を遂げた。


「しかし、俺も報告を聞いて不可解だったし。それは、マルクスにとっても同じだったみたいだな」


 詰まるところが、捕縛されているはずの魔法使いが、あんなところで奴隷の如く扱われている、ということ。

 エアハルトたちだけに関わらず、マルクスにおいてもそのことは衝撃だったようで。話の最中で、驚いているのがはっきりとわかった。

 あれは、演技ではないだろう。真に驚いているから来たものだと理解できる。


「なんだか、きな臭いものを感じてきたな。……俺たちの手配書のこともあるし」


 なにか、良からぬことがこの国で起こっているのではないだろうか、と。

 漠然と、エアハルトはそんなことを感じていた。

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