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#110 立場

 ゼーレの予想通り、拘束具を外してからしばらくした頃合いに。少しずつ、魔法使いたちの容態が改善していき。そのうちに、目覚めてくるものも出てくる。


「目を覚ましたばっかりのところ悪いが、生き残りたいのならこっちの指示に従ってもらうぞ。私たちの命も掛かっているのだから、従わないというのなら容赦はしない。ただし、少なくともお前らの敵ではないし、敵になろうとは思っていない」


 自分たちがどういう存在であるのかについて、ゼーレは語りはしなかったものの。だがしかし、彼女の語気。そして、魔法使いなら感じ取れるであろう魔力の圧によって、それに抗うものは誰一人としていなかった。

 錠に合う鍵を見つけるまでに個々人で差異があったり、そもそも体力回復の速度の差などもあり、未だ目を覚ましていない魔法使いもいるものの。残るところはふたりだけ。これならばゼーレとルカとでなんとか連れ出せる。


「一応聞いておくが。この中にここに残りたいってやつはいるか?」


「……いるわきゃねえだろ」


 魔法使いの中の男のひとりが、代表してそう言う。その言葉に、全員が賛同している。

 依然として気絶したままのふたりについては確認は取れないが。まあ、おそらくこのふたりについても同じくだろう。


「……オーケー、入り口付近の人払いについてはエアハルトとガストンがやってくれているらしい。脱出するなら、今だ」


 ゼーレが魔法使いの各自に、隠密魔法が使えるかを確認する。

 それぞれ、体力がかなり枯渇気味ではあるものの。しかしながら、それくらいならなんとか、と。


 それを聞いて、ゼーレは気絶したままのふたりと、それからルカたちに隠密魔法をかけてから、準備はいいか? と。

 全員がコクリと頷いてから。そのまま、船からの脱出を敢行した。






 エアハルトたちのおかげもあって、比較的スムーズに船からの脱出は成功する。

 とはいえ、隠密魔法があるものの、街の中に常時滞在し続けるのは存在がバレるリスクを伴う上、魔法使いたちについては今はできるだけ身体を休める必要性があるだろう、ということで。そのまま街から離れ、群青の横穴へ。

 エアハルトたちは、しばらくしてから追いかけてくるらしい。


「ひとまず、ここまで来れば大丈夫だろう」


 ゼーレとルカは背負ってきた魔法使いを地面に降ろす。

 そのまま、ルカは改めて治療を再開する。


「さて。いちおう聞いておきたいことがあるんだが。質問してもいいだろうか?」


 ゼーレがルカたち3人と魔法使いとの間に立ちながら、そう聞く。

 魔法使いたちは、少し考えてから。その前にひとつだけいいか? と。


「助けてもらったことに関しては、感謝してる。だが、その前にお前たちの立場を教えて欲しい」


 その言葉は、まさしく「立場によって取る対応を変えるつもりだ」と言っているのだが。しかしながら、そう感じる彼らの気持ちもわからなくはない。

 ゼーレはわかった、と。そう言って。


「私はゼーレ。お前たちの言葉で言うところのフィーリルという種族だ」


「フィー、リル。って、あのフィーリルか!?」


 ゼーレのその自己紹介に、魔法使いたちが目を剥く。

 そんな反応に、少しだけフフンと鼻を高くするゼーレ。そう。エアハルトやルカが異常なだけであって、本来フィーリル――精霊に対する扱われ方というのはこちらが正常なんだ、と。

 初めてみた、や。すげぇ、であるような。そんな声が上がる。


 そんな様子に、ぽかんとしているのはルカ。……まあ、彼女についてはイレギュラー中のイレギュラーではあるのだろうが。


「それから、後ろにいるのが魔法使いのルカと、一般人のミリアとテトラだ」


「一般、人……」


 魔法使いのひとりは、その言葉に少し顔をしかめる。

 たしかに、魔法使いの側としてはその反応が正しい。基本的には一般人から魔法使いは排斥されてきたものである。だから、ここに一般人がいるとなれば、警戒して然るべきである。

 他の魔法使いにしても、どちらかといえば驚いている、という方が正しい。平然としているものはいない。

 まあ、これに関しても。あの場に助けに来た人物の中に魔法使いでないものがいるということに驚いている、といったところだが。


「私もある程度は魔法使いの実状については知ってるから、一般人に対して思うところがいろいろあるのはわかるが。まあ、ここにいる時点で普通の考えをしてるやつではないから、安心しな」


「ゼーレ? それはそれでなんか引っかかる言われ方なんだけど」


「くひひっ、だが、間違っちゃあいねえだろ?」


 苦い顔をしているミリアに、ゼーレは乾いた笑いをする。

 とはいえ、なんだかんだでエアハルトやルカニ対して世話を焼いているミリア自身、感覚として一般人からズレているのは自覚があるので、なんとも言えないのだけれども。


「まあ、どういう立場としてお前らに関わっているのか、という話をするならば。なんか死にかけている魔法使いの気配があったし、あとから死なれてるのに気づいても寝覚めが悪いからとりあえず助けてやるか、という。そういう立場だぁね」


「……なるほど、納得した」


 先程から、主だってゼーレに応対している魔法使いの男性が、そう言う。


「それと、もうひとつ。先程エアハルト、という名前が聞こえたが。彼が関わっているのだろうか?」


「……随分と名が知れているようだね。あの野郎は」


「まあ、魔法使いの中じゃあ、名前を知らないやつはいないだろうさ。その名声に差異はあれど」


 彼らが言うには、英雄のように扱うものもいれば、裏切り者のように扱うものもいる、と。


 ここにいる彼らについても。ひとりは英雄とまではいかないまでも、それなりに尊敬している対象として。残りのふたりについては、恨むほどではないにせよ、警戒対象として捉えている、と。そう語る。


「魔法使いの癖に人間を助けた、と。そう言うやつもいれば、窮地に陥っていたときに助けられた、というやつらもいる。正直、噂ばかりが多すぎて、どっちなのかがわからねえんだ」


 ただ、まことしやかに囁かれているのは、魔法使いとして、尋常じゃないほどに強い、ということ。


「……ああ、なるほど。たしかにそれは、そうかもしれないね」


 ゼーレは付き合いこそ浅いものの。なんとなく、彼らの言う言葉になんら間違いがないことを認識する。

 エアハルトが強い、というのはそのとおりなので置いておいて。

 あの性格の人間なのだから、人間とか魔法使いとか、そういうことは関係なく助けられるなら助けたい、と。……例えそれによって恨まれるということを知っていても、そうしたいと願ってしまう人間なのだ。難儀なことに。

 そして。厄介であり幸運なのは、それができるだけの力量が備わってしまっていること。


「まあ、最終的にアイツに対してどういう評価を下すかは、お前たちが勝手に決めればいい。自分の目で見て耳で聞いて判断したことなら、多くは間違わないだろう。ただ、強いて言うならば、アイツは善であろうと、そうしている人間だ」


 無論、その善悪の基準はあくまで己であり。他人からすれば、悪にもなりうるものではあるものの。


「それから、ついでに言っておくと。私はアイツと契約を結んでいる立場。それから、後ろにいるルカはエアハルトの弟子? 的な立ち位置の魔法使いだ」


 私たちは、エアハルトの行動理念に賛同して、この場にいる。そういう意図を持ってして、ゼーレは彼らにそう言う。


 魔法使いの男は、そうか、と。そう小さく納得を示して。


「ありがとう。立場の説明をしてくれたことについても、それから、助けてくれたことについても、改めて」


「言っただろ。私らとしても寝覚めが悪いからだって。助かったのは、そのもののついでさ」


「そうであっても。助かったことに違いはない。……ありがとう」


 まあ、もう死ぬしか未来がない、と。そう思っていたところに。絶対に助からない。明日の命もあるとは知れない。そんな状況下で助かったのだから。


「まあ、強いて言うならば。私たちとしてもお前たちの――あの船の存在や、それから、立場について不可解なことが多かったからね。だから、それについて知りたいということもなくはない」


「……ああ、俺たちでわかる範囲であれば、情報を提供しよう。それ以上のことは、して貰ったからな」


「そいつぁ話が早くて助かる。それじゃ、質問者交代だ。……私らとしても、情報はあって困るもんじゃねえからね」


 ゼーレはそう言うと。3人それぞれに視線をやって。


「お前たち、立場としては魔法使いとして捕まっていた囚人、ということで間違いないか?」


 その、質問に。全員、思い出したくない過去であるかのように少し顔をしかめつつも。しかしながら、コクリ、と。頷いた。

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