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#11 少女は大罪人と買い物をする

 数日が経った頃。


「ルカ、明日の夕方までに荷造りをしておけ」


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。まだ滞在可能日残ってるでしょ? どうしたのよ急に」


 エアハルトが狩りから帰ってくるやいなやそう告げた。慌てて聞き返したミリアの声には、どこか焦りや怒りに近いような刺々しい感覚が含まれていた。


「少しもったいないが、仕方ない。魔狩りがいた。勘づかれたのかもしれない」


 エアハルトの言葉にミリアの顔が険しくなった。


「ねえ、魔狩りって何?」


「ん? ああ、知らないのか。魔狩りっていうのは対魔法使い用に編せ――」


「いきなりそんな定義の説明見たく言われてもわかんないでしょうが!」


 スパーンと、エアハルトの頭がはたかれた。気持ちのいい音だった。


「ルカちゃん、魔狩りっていうのは魔法使いはみんな悪い人だ! って思ってて、捕まえようとしてる人なの」


「おいミリア、その言い方は語弊をうみかねない。事実魔法使いは罪人だ」


 さすさすと叩かれたところを撫でながらエアハルトはそう言った。


「構わないじゃない。エアハルトみたいな魔法使いもいるってのに、問答無用で捕まえるってのは私だって気に食わないもの」


「なに言ってんだよ。それでコイツが魔法使いを安易に信用しちまったらどうするんだよ。なんなら俺だって人殺しの経験もあるれっきとした罪人だぞ? それにお前魔法使い嫌いじゃなかったのかよ」


「私が魔法使いをどう思ってようが、それは今関係ないでしょうが!」


 うがー、と。威嚇気味でミリアはそう言う。


「えーっと、とりあえず、エアはその、ま……かり? ってのに見つかっちゃいけないから、ここから離れるってこと?」


「うーん、半分正解だな」


 エアハルトがそう言うと、ルカは首をかしげた。


「ここから先はルカの希望次第になるんだがな、ここからあまり離れていない森の中に建てようかと」


「何を?」


「家を」


 ……沈黙。ルカはエアハルトの目を見たまま動けないでいた。


「家を」


「う、うん。それは聞こえてたよ? ……え、建てれるの?」


「まあ、ある程度の知識はあるし、ちょうどいい場所も見つけた。もしいいのなら、今晩から突貫で最低限生活できるスペースくらいは作ってくる。しっかりしたのを作るのはあとになっちまうが」


 ルカの表情は、さっきまではなにがなんだかわからないといった様子だったが、どんどん明るくなり、今にも飛び上がりはしゃぎそうな子供のものになっていた。


「住む! 住む! お家作る! ルカもお手伝いするー!」


「わかったわかった、ちゃんとした家のときに手伝ってもらうから、とりあえずそれなら俺は必要なもの買ってくる」


 再び外出しに行こうとしたエアハルト。ドアノブに手をかけるとその腕を掴まれる。


「待ちなさいよ、私も行くから」


「いや、いいよ。お前、ルカの相手で最近勉強十分にできてないだろ。って、痛い痛いっ!」


 ぎゅうううっと、ミリアが握る力を強める。


「エアハルト、あなたに聞きたいことがあるの。それから、魔狩りもいるってのに、一人で買い物できると思ってるの? 首尾平和なままで」


「……しかし、予定より時期が早まったから賃金は出せねえぞ?」


「いいわよ。その代わりに話を聞かせてもらうから」






 市場を並んで歩いていた。エアハルトはしっかりと外套を着込み、パッと見では顔が全く見えない。

 念のため、詐称魔法という魔法を用いて簡単には人相判断もしにくくしてある。ただ、詐称魔法はしっかりと観察されると効果を示さないので、あくまで保険として。


「それで、聞きたいことって?」


「なんで、この街の近くにしたのか。その意図を聞きたくて」


「あー、なるほどな」


 左側を歩いていたエアハルトは一瞬だけ右を向いてミリアの表情を確認した。怒ってはいなさそうだった。


「ただ単純に、お前がいると都合がいいだけだ」


「はあ? どういう意味よ」


「どうもこうも、お前もわかってるとおり、俺はなかなかに動きづらいからな。お前のようなやつがいると助かるんだが、まあなかなかにいないしな」


「そりゃ、魔――」


 さっと口に手を当ててミリアが黙る。思わず口を滑らせかけていた。


「そりゃ、あなたみたいなやつに関わろうなんて人間はそう多くはいないでしょうね」


「だから、お前みたいなやつが俺にとってはありがたいんだよ。……お、ここのはいいな」


 エアハルトはとある資材屋の前で立ち止まった。ふむふむ、なるほど。と、品定めしつつ、カバンからペンと紙を取り出して何かを記入していた。


「これ、買ってきてくれ。少し重いだろうが、頼まれてくれるか?」


「……わかったわ」


 どこか複雑そうな様子のミリアは、エアハルトから紙を受け取ると「すみません!」と、店主へと話しかけていた。

 エアハルトが直接買わずに、いちいちメモを渡してミリアが購入したことに少し違和感こそ思われたものの、エアハルトのことは全くバレずに購入を済ませることができた。


「ほんっとに重いわねこれ。なんであなたはそうも軽々しく持てるのよ」


「別に俺が全て持つといっただろう。それをこちらに渡せ、それで解決する」


「嫌よ。持つといったのだからちゃんと持つわ」


 そんな意地を張らなくても。エアハルトはため息をついて、


「ちょっとこっちに来な」


 路地裏に誘導した。






「うっそ、なにこれすっごい軽い!」


「浮遊魔法だ。といってもかなり加減してかけている。完全にかけると浮いてしまって奇妙に思われるからな」


「もしかしてあなたこれをずっと使ってたの? ずっるーい」


 ぶーぶーと不満を言うミリアに、しかし自分の分には別に使っていなかったのだが、という言葉を飲み込んで。


「とりあえず、帰るぞ」


「はいはい。もう、こんな便利な方法があるなら早く言ってくれればいいのにー」


「あんまり大きな声で言うな。路地裏とはいえどこに人がいるかは知れない」


 そう言いながらエアハルトは入ってきた場所へと足を進める。

 ミリアはそれに続いた。


 路地裏から出ると、やはり大通りは相変わらずの人通りの多さだった。しかし、エアハルトのことや魔法のことに勘づいている人はいなさそうだった。


「大丈夫、そうだな」


「うん、魔狩りもいないっぽいね」


「下手に探すな。他の人に違和感を持たれるぞ」


 小さく忠告して、エアハルトは足を進めた。

 ミリアは、寂しく感じていた。けれど、少し嬉しくも感じていた。

 今までエアハルトの訪問は不定期だった。あるときは頻繁に訪れ、あるときはめっきり来なくなる。

 来なくなると、とても不安になる。エアハルトはちゃんと生きているのだろうかと。


 ある意味では、手配書は安否確認の手段の一つだった、タイムラグがあるとはいえ、手配書が貼られていれば、とりあえずまだ生きている、きっとどこか遠くにいるだけだ。そう思うことができた。

 でも、それでも不安だった。


 ミリアにとって、魔法使いは憎むべき相手だった。本来は。

 でも、エアハルトは例外だった。そして、ミリアが憎んでいたような魔法使いが全ての魔法使いとは違うということもエアハルトに教えられた。

 正直、好意さえ抱きかけているほどだった。勿論、面と向かって言えるようなことではないが。


 エアハルトが近くに家を建てると聞いたとき、少しだけ高揚した。

 もしかしたら、エアハルトも自身に対してなにか思ってくれているのではないかと。

 ミリアのその考えはあながち間違ってはいなかった。が、どう思われていたかというと、エアハルトの発言から考えるに都合のいい存在だと。


 けれどまあ、それでも仕方ないのか。ミリアはそう噛み潰すことにした。

 エアハルトは魔法使い。今まで人間に何度も裏切られてきたことを考えれば、安易に他人を信用しようとするわけもなく、都合のいい相手は活用するだろう。私が逆の立場ならそうしていた。

 それに、そうであってもエアハルトの役に立てるなら、エアハルトに恩返しできるなら――。


「あ、そうだ。忘れてた」


 エアハルトが、口を開いた。

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