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ゆー君とかお姉  作者: げこ◆A3nDeVYc6Y
かお姉とゆー君の日曜日
5/8

かお姉とゆー君の日曜日(1)

デート回、導入です。

「ゆー君……」

 5月のある日曜日。昨夜読んでいた小説が面白くてついつい夜更かしをしてしまった。

 春眠暁を覚えずなんて言葉もあるんだし、休みの日くらいはゆっくり寝坊していよう。

「ゆー君ってば」

 そう思っているのだけれど、僕の名前を呼ぶ声が二度寝の邪魔をする。

 この声は隣家に住む幼馴染みのお姉さんのものだ。けれど当人は極度の出不精で、その上僕が生活スタイルに多大な影響を人物だから、僕が目覚める前に覚醒している筈がない。……勝手に人の部屋に入ってくるという可能性だけは否定できないけれど。

 だから、この声は僕の夢なんだと思う。

 なかなか目覚めることが出来ない僕を憧れの人が起こしてくれるという、現実にはあり得ない希望。

「ゆー君、起きないといたずらしちゃうぞー」

 そう宣言するとお姉さんは僕が就寝しているベッドの肌掛けを持ち上げて、柔らかな掌を這わせてくる。冷え症であると聞いた事があるその掌はガラス細工のような温度をしていて、肌に触れられると反射的に動いてしまう。

 嫌にリアリティのある夢だと感じた。

 逃げても逃げても追い続けてくる指先はやがて僕の敏感な所に触れて、滑らかに蠢かせた。

「うっ、やめ……そこはだめ……」

 弱点を狙って5本の指がわしわしと動き続ける。そのくすぐったさに思わず声が出た。

「何回呼んでも起きてくれないゆー君が悪いんだからね。悪い子にはお仕置きが必要だよね」

 僕の抗議に対してお叱りの言葉を受けてしまった。って、あれ?

「かお、姉?」

 毛細血管の集まっている部分をくすぐられながら瞼を開いてみると、やはりその人はここにいた。

「うん。おはよう、ゆー君」

 見慣れた笑顔で爽やかな挨拶。指の動きは視線が交わると同時に止めてくれた。

「え? あの、え? 何?」

 しかし僕には現状が受け止められずにいた。

 僕よりも早起きをしないであろうかお姉が、僕が目覚めるよりも前になぜか僕の部屋にいて、寝起きドッキリのような仕打ちを僕にしてくる。この状況すべてが理解できなかった。

 でもそれが良くなかったようで、かお姉は頬を膨らませて不機嫌そうな表情になってしまった。

「……今日はお出掛けの約束をしています」

 あ、そういえばそうだっけ。……でもね。

「あの、今何時かな」

 そう、僕の記憶が確かならばスマホでセットしている目覚ましのアラーム音は聞いていないし、広げられたカーテンの隙から見える空の色は何やら薄暗い。

「もう6時半だよ?」

「まだ6時半だよ!」

 薄く開かれた唇から漏れた言葉を反射的に否定する。けれど、当の本人はとぼけた顔をしている。

 ……はぁ。

「今から朝ごはんをして、準備を済ませてもどこも開店前だからね?」

「お店が開かないならお話をすればいいじゃない」

 うん。なんだか聞き覚えのある言い回しだね。

 どれだけ時間を共にしても飽きることがなさそうな、そんなお姫様との1日が今日も始まる。


     〇     〇     〇


「しっかしお前、どうやったらあんなに美人なねーちゃんとお知り合いになれる訳?」

 チェーン経営の喫茶店にて、二人席の真向かいでクラスメイトの江川くんが問いかけてくる。

 おかしい。今日の僕の予定はこんなことになるわけがなかったはずだ。


 早朝、かお姉によって眠りから覚まされた僕は朝食を済ませたあとで一息を入れてから家を出た。

 かお姉との外出に関して、行先は数日前から決めていた。以前から僕はかお姉の服装への無頓着さに不平を垂れていて、その解決のために二人でショッピングモールへ行くことを約束していた。

 ともすれば、やはりあの起床時間は早すぎた。ショッピングモールなんて早くても午前10時にならないと開店しないし、賑わっている街の方まで出るのにも電車で30分とかからないのだから。……とは言っても、かお姉が二人での外出をそこまで心待ちにしていたのだと考えれば悪い気はしないのだけど。

 まあそれはさておいて、現在につながる経緯だ。

 都心の駅まで電車で出た僕たちは、そのままの足でショッピングモールに入ろうとした。その時にこの江川くんに見つかってしまったのだ。

「田渕! 田渕だよな、おい!」

 こちらに向かって歩いてくるのが遠くにその顔が見えた瞬間に「あの顔は」と思ったんだ。気付かれちゃまずいと思ったんだ。けれどもままならなかった。大声を上げながら真横に近づいてきて腕を掴まれて揺さぶられれば、僕はどうすればいいかわからなくなった。

「ゆー君。その子、学校の子なんだよね。私は先に1人で見てくるから話しておいで?」

 人見知りが原因で引きこもりになっているかお姉は僕以上に困ったのだろう。そんなことを言って、ひらひらと手を振ってショッピングモールの方へと歩いて行ってしまった。


「俺に気を利かせてくれるし、良いじゃん。紹介してくんない?」

 目の前で好き勝手言ってくれる、ただのいちクラスメイトの江川くんにそろそろ苛立ちを抑えられなくなる。

「あのさ。休みの日の出掛け中、急に呼び止められて一緒にいた人と離れさせられてるんだよ? そろそろ本題に入ってくれないかな。まさか知った顔を見つけて舞い上がった訳じゃないよね?」

 つい、口調が尖ってしまう。けれど、江川くんは悪びれもしない感じで「へへっ」なんて言って誤魔化す。腹立たしい。

「いやな、昨日ちょっと変な話を耳にしたんだ。んで、田渕お前こういうの得意だったよなって思って。月曜に話せりゃいいかなって思ってたんだけど今日会えたからさ」

 なんだそれ。じゃあ月曜で良いじゃんか。

「話さないならもう行くよ。わかってるはずだけど人を待たせてるんだ」

 でも「僕が得意」という言葉には後ろ髪を引かれるところがあるから、すぐに去るのではなくて席から少し腰を浮かせるポーズをとる。

「あ、待て待て。悪かった。今から話すから」

 でもこれが効果覿面だったようで、江川くんはすぐに用件に移ってくれた。

 その表情からは今日会ってからのチャラけた調子がすっかりと抜けていて、どちらが江川くんの本質なのかは親しくもない僕にはわからなかった。

と見せかけてお預けです(2020/04/19付けたし)

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