ホテル③
笑いのツボにでもハマったのか、ラークが腹を抱えて笑っている。その頭にハンドガンの銃口が向いていることも知らずに……
「いやー、こりゃ失敬。君があまりにも面白いことを言うから笑っちゃったよ」
ラークが目の前の銃口など全く気にせず後頭部を掻いている。
「なんです? もしかして貴女も悪の手先なのですか!」
今度は上半身を仰け反らせて驚いている。
「そうだぞー、お兄さんが食べちゃうぞー!」
いつもより低い声でラークが少女に歩み寄る。
「はぁ、バカみたい……なにやってるんだろ、私……」
お芝居をやっているラークの背後でスパーがハンドガンを下ろしてワンピースの中に戻した。
「ごめんなさい、私、完全に取り乱していたわ。怪我はない?」
やっと落ち着いたらしいスパーがラークに話しかける。
「え? うん、ちょっと耳鳴りはするけど大丈夫だよ。けど、どうしたの? スパーがこんなに取り乱すなんて……どんな破廉恥なことを__イテッ!」
スパーがラークの頭を容赦なく殴る。
「バカね、私はそんな辱めじゃうろたえないわ。この男よ!この男が私を怒らせたの!」
スパーはカウンターの男を指差して憤慨している。その後、腕を組んだ。
「人相が良さそうなのに?」
「えぇ、この男は私の話す言葉全てを無視するもの。意地でも返事させたかったのよ。」
「あ〜、そゆこと……それってつまり……いや、やめておくよ」
つまり、自業自得だね。とでも言いたかったのだろうか。
「あの〜、少し発言いいですか?」
先程から発言できなかった少女が少し控え目に右手を上げて言った。
「えぇ」「どうぞー」
ラークとスパーの声が同時に被る。
少女がもじもじと恥じらいを隠すように言う。
「コメットは今調整中なんです……」
「つまりは?」「えぇっと?」
また二人の声が被る。
「つまり、そこの人は壊れちゃってるんです……」
「廃人的な意味で?」
「いや、その人ロボットなんです」
「「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」」
二人揃って驚愕している。その間もカウンターの機械男は表情を全く変えない。少女の言う通りロボットらしい。
「今まで壊れた機械に一方的に話しかけていたなんて……恥ずかしいわ……」
スパーがほおを赤らめながらその場にへたり込んでしまった。
ラークは機械の男を興味の視線で眺めていた。
「あの……その……ごめんなさい」
おずおずと少女が頭を下げる。
そしてこの場にもやっと静寂が訪れた。