ホテル②
不気味なホテルの中から女性の罵声が聞こえる。
「はぁ、やっぱり……」
ホテルの入り口に立っていたラークがため息をつく。おそらくこうなっていることを想定していたのだろう。
肩を落としながら扉を開け中へと足を進める。
少し長く感じる白い廊下を一歩進むたびに悲しく響く女性一人の声。案の定、スパーが一方的に話しているだけで会話をしている様子は全くない。
「引くってことを知らないのかなー」
これまでスパーと旅をして来たラークだが彼女が口論で引き下がったことは一度も無かった。多分これからも彼女が引き下がることは無いのだろう。
ラークが白い廊下を渡り切ると目の前には半分想定していた状況が広がっていた。
スパーが一方的な口論をして会話の相手を困らせているのかと予想していたのだが、なんと言うことだ。完全にスパーの言葉を無視している。
「あんたねぇ、いい加減一言ぐらい喋ったっていいじゃない! どうしてそんな喋らないの? あー! だんだん腹が立って来たわ! いい? 次返事しなかったら貴方の頭吹き飛ばすわよ!」
いや、完全に迷惑をかけていた。
白いワンピースの下に手を入れ、取り出したものは鈍く黒光りするリボルバータイプのハンドガンの銃口をカウンター越しの男の眉間に押し付けている。
このままでは間違いなく彼女は無抵抗の民間人を射殺するなど人間がやってはいけない行為を実行するだろう。
「はいはい! そこまでそこまで!」
走りながら右手を前に出し、スパーを手で制す。
「なによ! 邪魔立てするなら貴方もぶっ殺すわよ!!」
もう彼女に話を聞く耳など無い、完全にキレて感情を制御できていない。
殺害する対象が変わったらしく銃口をラークの頭に向けている。
「ちょっ! 待って、話を__」
「うるさいっ!!」
彼女のその言葉と同時に銃声が一つエントランスで鳴り響いた。
ラークが咄嗟にスパーが発砲する直前に銃口を手の甲で払っていたのだ。
ヒトに当たることのなかった銃弾はラークの背後の直線上に存在していた壺を粉々に破壊し、白い壁の素材を破砕しながらめり込んでいた。
しばらくの静寂が訪れた後、カウンターの左手にある階段からドタバタと大きな足音を立てながら誰かが降りてきた。
「何ですかぁ!? 何事ですかぁ!!」
階段から降りてきた小さな人物がを上げて言う。なかなかにうるさい。
なかなか面白い状況になっている。
ハンドガンを右手に肩で息をしているスパー、そんな彼女と対峙しているラーク、階段から降りてすぐ大声を出した両手を腰に当てた少女、こんな状況下でも、目線一つ動かさないカウンターの男。
次にことがあるとすれば誰かが死ぬ可能性すらあるこの空間で少女がスパーを指差して恐れることなく言った。
「貴女ですね!! 最近悪事を働いている悪い女は!」
「へ?」
全く予期せぬ言葉だったのか、スパーがキョトンとした顔をしている。
「ッハ、ッハハハハハハハ! こりゃ面白い! スパーが悪女だって……ッハハハ! 違いないよ!」