チェックイン
ラークがやっと止まったか、と安堵した表情を浮かべている。
だが、スパーの機嫌はあまり良くないようだ。
機嫌の悪いスパーなど気にせずクルマは道を走る。
「なに?なんのつもり?」
窓から顔を出しながらスパーが言う。明らかに怒りを感じる声色で。
「だって、あのままじゃキリがないでしょ?」
「そんなことないわ。私の気がすむまでだもの。」
「今までスパーが気が済んだことあった?」
「……あるわ」
口篭りながらも答える。
「無いね。怒ってる時は最低30分は文句を垂れてるからね」
ここぞとばかりにラークは強気にスパーを追い詰める。
「…………そんなことないわ、貴方も私に対して文句ばっかりね」
「あれぇ? 今、『貴方も』って言ったよね?それって自分が文句ばっかり言ってるって認めてる事になるよ?」
この行為は命の危機があるとも知らずに相手の揚げ足を取っていく。
「飼い犬の癖によく吠えるわね。口を聞けなくしてあげましょうか?」
「話をそらさないでよ。僕に痛い所を突かれ__」
話している最中のラークに白いワンピースの中から先の尖った、いかにも何かを殺すような形をしたズッシリと重いサバイバルナイフの刃を首元に添える。
「いい?それ以上、私を怒らせると鋭利なナイフが貴方の喉を掻っ切るわよ?」
彼女の目は本気である。自分の尊厳を傷つけられ、完全に御立腹なのだ。
「あはは、脅迫されたら黙るしかないね。」
クルマの制御を怠らないように左手をあげ、降伏の意思表示を行う。
「それでいいのよ。飼い犬は飼い主に歯向かってはいけないもの。」
そんな他愛ない(他愛ない?)会話をしているうちに目的のホテルに着いた。
だが、建物の屋上から壁を這って伸びるツタが気味が悪く、来客者を拒んでいるように見える。
「ここが……この国の最高級ホテルなの……?」
思っていたホテルとあまりにもかけ離れている外装に驚きを隠せずにいるスパー。
辺りにはレストランや一般住宅、石材置き場すらあったが、他にこのホテルのような植物的建造物は全く見当たらなかった。
どうもこの建物だけがおかしいみたいだ。
「このホテルだけが特別なのか? ツタを伝ってチェックインしろってか? アッハハハ」
「それ、面白くないわよ?」
ラークの渾身のダジャレだと思われる発言に厳しすぎるスパーの感想が刺さった。
「で、結局どうするの? このホテルに泊まるの? 私はあまり気が進まないけど、ラークがここで良いって言うならそれに従うわ。 私が決定権を譲ってあげてるの、早く決めてね」
「でもなー、ここに泊まるのかー」
などと、優柔不断なラークを見かねたのかスパーがため息をつきながらクルマを出てホテルへ向かって歩き出した。
「もう良いわ、私が部屋を取ってくるからラークはここで待ってて、どうせ役に立たないんだし」
指示と暴言をラークに伝え、綺麗な紫色の髪を翻してホテル中へ入っていった。
「さて、どうなることか……」