入国②
「あはは、僕は文字が読めないからわからないや……」
「右は正門、左は裏門。 看板にはそう書いてあるわ。」
予想外の返答に驚いたのか、動かしていた指がやっと止まった。
「それ、どっちも着くじゃん!!わかってて僕をからかったの?」
「そうよ、ずっとわかってたわ」
スパーはふいっとラークから視線を外し、またクルマの外を眺めている。
そして、二人はこれ以上会話することなく大きな門の前の到着した。
二人が見つめる先には大きな門があった。
と言ってもラーク達が乗っているクルマを縦に二つ分ほどの大きさだが。
その門の左側に入国許可を得るための受付窓口がある。
ラークはゆっくりとクルマを門の方に動かし始めると、受付窓口の窓から無精髭を生やした若めの男が驚いた様子で顔を出す。
「おわぁ!ちょっと!門は閉まってるんです!乗り物を降りて下さい!!」
門に進行するクルマを止めるために慌てふためきながら手を振って大声で叫んでいる。
ラークは彼の指示に従いクルマを降りて徒歩で受付まで移動した。
もちろんスパーはクルマに乗ったまま、まだ辺りを見渡している。
「すいません、クルマの中からお尋ねしようと思っていたんですが驚かせてしまいましたね」
ラークが受付の男に非礼を詫びているがあまり反省しているようには見えなかった。
「あぁ、良かった。その乗り物で門を壊して通るのかと思いましたよ……」
低く威厳のある声で情けないことを言う男が受付のガラス窓の穴から入国者情報を書く用紙と羽ペンを差し出した。
「お手数ですが、旅人様が入国の際にご記入していただく義務がありますので。これがこの国のルールなので……ご記入お願いします」
受付の男はなんとも歯切れの悪い物言いでラークに喋る。
「わかりました。 …………」
ラークは返事を返した後、数秒間考え込んで最終的にはやはりスパーの方を見た。
助けを求められたスパーはハァ、とため息をつきながらクルマを降り、一言も会話を交わすことなく入国許可用紙の必須項目を全て埋めていった。
そして最後に、
「これでいいかしら?」
と、受付の男に一言言いながら入国許可用紙と羽ペンを返した。
容姿からは全く見て取れないギャップのある態度を取ったスパーに少し動揺しながら受付の男はそれらを受け取って入国を許可した。
「はい、入国を許可します!えっと、本日から二日間のご滞在の予定ですね。それでは、こちらのタグをお持ちください。そのタグは入国を許可された旅人だ、と言うことを証明するためのものです。つまりは、旅人様の身分証明書ですね。この国では高額な買い物をする際に身分証明書の提示が必要になりますので、その際にこのタグをご提示ください。」
「へぇ、結構ルールがしっかりしている国なんだね」
「それと、旅人様には是非この国の歴史を知っていただきたいんです。歴史保存館はこの門を通ってそのまま真っ直ぐ進んだ赤煉瓦の建物なので寄って見てください!」
「へぇ、歴史保存館だって。どうするスパー? 行って見る?」
生返事で返しつつ、歴史保存館に立ち寄るかどうかをスパーに尋ねる。
「歴史か……いいわね。今日の宿を取ってから行きましょ」
先程の返事をした時よりは機嫌の良い声だった。
「やっぱりそこの女性はわかってらっしゃる!よければ出国の際に感想を聞かせてくださいね。」
「貴方に話す感想なんてないわ。それで、この国で一番高い宿はどこかしら?」
やはりスパーに愛想などは持ち合わせてなどいなかった。
「お強い彼女さんですね……」
「はぁ? これが私の彼氏ですって? 笑わせないで、こんなちんまいのが私に釣り合う訳ないでしょ。貴方は人を見る目がないのね。」
スパーは受付のカウンターに両手を叩きつけて熱弁した。
スパーの止まらない言葉の弾を全て直撃した受付の男は苦笑いを浮かべていた。
その間、ラークはアハハ、と愛想笑いをしていた。どうもハッキリと答えを出すことが好きではないようだ。
「許嫁だって言われてもこんなのとは絶対に結婚しないわ。ただでさえ私直属の奴隷にしてあげてるのいるのにこれ以上何を望むって言うの? 絶対にこんなのとは人としての価値が釣り合ってないんだから!貴方もしっかり女をみる目を____」
ラークが止まらない文句を聞きながらやかましいスパーの首根っこを掴み、クルマの助手席に無理矢理着席させる。
その後、自分もクルマに乗り込んでいつの間にか開いていた門をゆっくりくぐって入国した。
「よ、よい二日を~」
男は苦笑いで送ってくれた。