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九着目「ボスはスク水幼々女」

ああ、いつからだろう。

過去を思い起こすことが少なくなったのは。

昔はこの特等席の丘の上からガーデンを見渡すと、昔のことばかり思い返していた。


無意味なスク水の奪い合い。戦闘、血、死。

おおよそ幼子がやるようなモノではなかった。

ほとんどが裏で汚い大人による手引きがあった。

全くもって大人と言うモノを信用できなくなってしまった。


共に戦う仲間もいた。多くが散ってしまった。

今は新しく咲いた可愛らしい仲間と共に励んでいる。


スク水は全て回収しなければならない。

あの世界にあって良いモノでないことは明白だ。

そのためにこの甘美なる花の庭園(フラワーガーデン)を創った。

もちろんこれを快く思わない連中がいることも知っている。

だが誰かがやらないといけないのだ。

そのためだったら私は悪にでもなろう。


ただそれだけでは終われない。

スク水幼女の根源を探さなければ。

どこかにその原因があるはずだ。




「ついたー!」

「ちょっとさっちん声が大きいよ!静かに潜入ってさっき決めたでしょ!」

「ごめんごめん。今ならなんだってやれそうな気がして」

「ここは?」


三人が着いたところはお花畑、ではなく木々が生い茂る密林の中であった。

湿気気温共に高く、虫が飛び交い、初めて見る花が咲いている。


「スク水でよかったって心底思っている」

「私も同感。でも本当にこんなところにリアがいるのかな」

「ちょっと周りを見てみるわね」


真美はスライムを切り離し、辺りを散策させる。

さっちんは空へ飛び、上空から辺りを見渡す。


「さっちんどうー?何か見えるー?」

「なにもみえないー」

「え?」

「遠く見渡しても木しか見えないー」

「うっそーん」

「私も辺りを見てみたけれど、ここは、ジャングルのようね」

「すごーく広いジャングルですか、ははは……」

「それとすごく言い辛いんだけどね?」


真美が神妙な面持ちで二人に声を掛ける。


「見たことないような生き物がいまこちらへ向かっているわ」

「「え?」」


ガサガサと物音を立て、何かが近づいてくる。

それも一つではない複数の音が。


「二人とも戦闘態勢。さっちゃんは上空から見える?」

「木が生い茂って見えないから戻って来たよ」


音が止まる。

何秒、何分、いや分からない。

緊張の糸が切れかけそうだ。


「さっちん。見て来れそう?」

「あ、そうか、私が見てこればいいんだ」


さっちんが能力を発動し、音の正体を探しに行こうとしたとき、ひとつ顔が覗いた。


「へ?」

「グロロ?」


トカゲやワニといったような顔。

身体は鱗に覆われ、ぎょろっとした眼がこちらを見ている。


「きょう?りゅう?」

「私これ見たことある!ジュラシックぱ…」


言うが早いかそれが襲いかかってきた。

同時に、繁みに隠れていた、数頭も出てきた。


「なにこれって真美さん?!」

「ごめんなさい、私爬虫類系は苦手で……」


今にも卒倒しそうな真美を透子が抱え、さっちんに呼びかける。


「逃げるよー!」

「透子恐竜だよ!たしか名前はラプトル!こんなんなんだー凄いなー」


透子はさっちんのスピードに合わせて走る。

これでは少し追いつかれそうなので


「さっちん能力解除して!私が担いで走るから!」

「え?ああ、分かったわ!」


二人を同時に担ぎ、さらにスピードを上げる。

すると、ラプトルが透子に向けて斬撃を放ってきた。


「透子避けて!」

「うわああ!」


避けた先にあった木が切り刻まれ倒れる。

さらに数発飛んでくる。


「さっちん!恐竜ってこんなこと出来るモノなの!?」

「出来るわけないよ!あんなの恐竜の形をした魔物だよ!」


透子はフルスピードでジャングルを駆け抜け、なんとかラプトル達を巻くことに成功した。



「本当になんだったの……」

「恐竜の形をした魔物、魔獣、かな?」


ひとしきり走ってはみたが、まだジャングルから抜け出せてはいない様子。

虫や鳥の鳴き声は今も続いている。


「さっちんもう一度あの能力を使って、もう少し近いところに移動できないの?」

「それが、もう使えないっぽいの。もう一回クスリ使えばいいかな」

「さっちゃん、それはダメよ……」


真美が虚ろな目をしながら、起き上がる。


「真美さん、大丈夫ですか?」

「ありがとうね透子ちゃん。なんとか大丈夫よ」

「それでダメってどうしてですか?」

「連続でこのクスリを使うのはよくないの。身体へのダメージが大きいから時間を空けてからでないと」

「そう、ですか」

「それならまた走るしかないのかなー。さっちんもう一度空から見てくれる?」

「おっけい任せて!」


空を飛び、辺りを見渡してみる。

と、一か所だけ開けたところが見える。


「なんかねー、変なところあるよー」

「どっちにー?」

「あっちー!」

「ひとまずそこへ向かってみましょうか」


そこまでの距離はそう遠くなかった。

光が立ち上る丸い、術式のようなモノが地面に描かれ、その辺り一帯だけ木も草も生えていなかった。


「これは、もしかして」

「さっちんわかるの?」

「ワープポイント?」

「って、ゲームでよくあるような?」

「たぶんそうだと思う。えいっ」


と言うとさっちんはその術式の中に飛び込み消えてしまった。


「え!?」

「さっちゃんが……」

「どうします、真美さん……」

「まあ、行くしかないわね」


そういうと二人も同じく中に飛び込み消えてしまった。




少しぼーっとしすぎたようだ。

歳を取ると過去を思い出すことが多くていけないな。

そうだ、今日は少し周り道をして帰ろう。

この滅入った気分も少しは晴れるだ……ろ……?


「すごーい!何このお花畑!きれいー!」


見た目馬鹿そうなスク水幼女が空を飛んでいる。

いや、あんな幼女はウチにいなかったはずだが?

外部から入って来た?いやいやそんなことはありえない。

ここはアジ/サイの能力で作った別世界だ。

他の世界から入ることなんてまず不可能だ。

可能性があるとすると同じ能力者ということになるが、極めて稀な能力だ。

そうそういないとは思うが、現に起きているということはそういうことか。


「さっちん!何一人で行ってるの!危ないでしょ!」

「大丈夫かしら?」

「二人とも見て!この綺麗な花!すごいでしょ!」

「確かに、」

「息をのむほど綺麗ね」


増えた。

三人も侵入者が出てしまった。前代未聞すぎる。

これから大事な仕事があるというのに全く面倒なモノだ。

だが、ここまで侵入してきたスク水幼女は今までにない。

ということは裏を返せばそれだけ使える幼女かもしれない。

どちらにせよスク水だけ回収するか、仲間になって貰うか選んでもらわねばな。


「おい、そこの」

「え!あっはい!」

「名を名乗れ」

「さちって言います」

「後の二人は?」

「透子です」

「真美と言います。あの、あなたは?」

「我か?我はプロテア。この甘美なる花の庭園(フラワーガーデン)の設立者にしてここのボスだ」

「ここのボス……」

「それで貴様らはなにゆえここに来た。理由があるのであろう」

「仲間を取り戻しに来ました」


透子が力強く一歩前に出て言う。


「仲間?あー、あやつか。良いだろうついてこい。話の席くらい設けてやろう」


透子たちは素直にプロテアの後をついていく。

見た目は小学校低学年、もしかしたら幼稚園児?と思えるくらい小さい。

黒くて長い髪を揺らしながらテトテトと歩く様はまるでボスには見えない。

しかし、彼女から溢れ出るモノは止め処なくボスという風格を醸し出している。


「着いたぞここだ」


案内された部屋におずおずと入る三人。

中にはリアとカリンの二人がいた。


「「リア!!」」


透子とさっちんが駆け出す。

リアもそれに答えるように立ち上がり、三人で抱き合う。


「よかったよぉ。無事で」

「みんな、ありがとう」

「大丈夫?変なことされてない?」

「大丈夫。ありがとう」


「ご苦労、カリン」

「いいえ。一応の経緯は彼女に話してあります」

「そうか、ありがとう。そろそろ貴様ら、いいかな?」

「あっはい!」


透子たち四人とプロテアたち二人が対面するように座る。

全員分の紅茶が行き渡ったところでプロテアが口を開く。


「まず最初に問いたい。スク水幼女についてどう思う?」

「どう、とは……」

「はいはーい!すごく便利で楽しいです」

「そうだろう。貴様が言う通り凄く便利だ。しかし、これは与えられたモノのみに許された力だ。本来であればあの世界に存在してはならないモノ。そうは思わんかね?」

「それは、まあ、そうかもしれないけど」

「能力によっては一般市民の命をも巻き込みかねない、そんな危険な存在でもあるのだよ。スク水幼女というものは」

「でもそれは使う人によるんじゃないですか?悪い人が使えば悪くなるし、良い人が使えば……」

「世の中には良い人も悪い人もいないのだよ。人と言うモノは善悪どちらも孕んでいるモノだ。少しの掛け違いが、大きな悪にもなる。例えば、自分の能力もよく分からずに暴発させる、とかなあ」

「……」

「しかし、あなた方はそんな危険なスク水を使い、何人モノスク水幼女を犠牲にしたではありませんか」

「実際にそれを見たのか?」

「見ては、いませんが」

「噂で聞いたのであろう。ガーデンの奴らはスク水狩りを行う危険な集団だとな。まあ、強ち間違いでもないが、我らは刃向ってくるモノと戦うことはあれど最終的に幼女を救っている」

「救っているとは」

「我らの目的はスク水の回収。幼女についてはウチで保護したり、記憶を消し、元いた世界へ帰す」

「でもあんたたち私たちをぼこぼこにしていったじゃん」

「あー、それに関してはすまんかった。ちょっとした手違いでな。元々はアジ/サイが担当だったので殺る気で行ってこいと言ってたんだが、知らぬ間に担当が変わっていて血の気の多いナノカにそれが伝わり、ああなってしまったようだ。いや本当ホウレンソウって大事よのう」

「アジ/サイってあの変な気持ち悪い二人?」

「ああ、そうだ。このガーデンを創っているのもアイツの能力だ。それにアイツなら死んだ奴さえ生き返らせることができる。だからこういう問題が起こってしまったのだ。ほれ、カリンも謝っておけ」

「申し訳ございませんわ」

「まあそれはひとまず置いておくとしまして、話を聞くに、あなた方は世界にあってはならないスク水を回収するために活動をしていると?」

「いわば世界平和のためだな。幼女へのアフターフォーローも忘れてはおらぬぞ」

「それじゃあ!どうして私たちを襲ってリアを誘拐なんか」


身を乗り出した透子に対し、プロテアは紅茶に口を付けた。

長い黒髪が耳元から首の曲線を艶やかにしている。

そして静かに口を開き、


「スク水の根源を探すためだ」

「根源?」

「回収するのは良い。しかし、回収したとてそもそもの原因を突き止めなければ我らの活動に終わりは来ない。どこから能力を持ったスク水は生まれ、能力を持った幼女が生まれるのか。どうしてその二つが組み合わさることで能力が発動するのか。それに至っては正直何も分かっておらぬ」

「それをリアの能力で見つけるってこと?」

「我がやりたかったことはそれだ。もちろん能力を使いガーデンの管理をやるのも大事な役目だ。しかし、本当にやらねばならぬのは原因追究。スク水の根源」

「ねえ、リア。そんなことできるの?」

「やってみないと分からない。ただ、不可能ではないと思う」

「どれくらいの時間が掛かるか分からない。しかし、この無限の世界の中であればいつか見つけることができる。そのための力としてそのスク水が必要なんだ」

「そう……なんだ……」


透子たちが考えていたこととはスケールが違いすぎた。

リアを攫った敵は悪者で、それを退治しに来た。くらいのことでしかなかった。

それが世界を救うだの、根源を探すだの言われたところで呑み込めるわけがなかった。


「どうだ、協力してはくれないか?世界のためだ。それにここに居れば歳も取らぬ。ことが全て終われば貴様らはこちらに来た時と同じ時代へそのまま返してやろう。そうすればいつもの平穏な日常も壊されることはない。何もデメリットは生まれない」

「リア……」


困惑した顔でリアを見つめる。

しかしリアは違った。


「トーコ。リアは協力しても良いと思っている。この能力が本当にそういう役に立つなら」

「そっか、そうだよね、うん。リアがそう考えたんだね」

「うん」

「それなら私も手伝うよ」

「ええ!透子もリアもやるのー。それなら私もやるしかないじゃん」

「そういってくれるか!非常にありがたいぞ」

「本当に大丈夫、リア?」

「うん、大丈夫」


そういうリアの瞳からは力強い意志が感じ取れた。

スク水の根源により、事態は一転二転する。

その根源はいかに。

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