六着目 「学校への来訪スク水幼女Ⅱ」
夕日に赤く染められていく校舎。
生徒のほとんどは下校し、ここ、校舎端の花壇は静寂を極めている。
その雰囲気に見合わないスク水幼女が6人。鬼気迫る様子であった。
「さて、今からが本番だぜ。さっきまでとはちょっと違うからな。気を付けた方がいいぜ」
「トーコ、援護する。だけど気を付けてなにかあるはず」
「ありがとう、リア」
ナノカと対面し、様子を窺う透子。じりじりとした目と目の攻防が続く。
先に動いたのは透子であった。いつもの以上の瞬発力で間を詰め拳を放つ。
ナノカは避ける間もなく、腹を撃たれ、仰け反る。
案外簡単に入ったなと透子は思ったが、何故か同じように仰け反った。
「かはっ……」
血反吐を透子が流す。動きが止まる。
ナノカは何事もなかったかのように笑っていた。
「おいおい、気を付けた方が良いって言ったよなあ?」
「トーコ!」
リアは透子に駆け寄り、防御壁を張る。すぐさま治療を施し、回復を試みる。
次第に透子の息は落ち着いてきたが、不安の色は強くなっている。
「俺の能力は、言っただろ?状態交換今のは受けたダメージをお前と交換したのさ。だからこれから受けるダメージはそっくりそのままお前に返すぜ」
「トーコ、大丈夫?」
「ありがとう。大丈夫まだやれるよ」
「休憩は終わったか?そろそろ続きやろうぜ!」
「あらあら、あちらは随分楽しいみたいですね」
「くっ……」
傷だらけの身体で真美と勝負を行うカリン。
カリンの身体能力は透子並みにまで向上していた。
「既にお気づきとは思いますが、私の能力はダメージを負えば追うほど戦闘力が増す能力。単純ですけれども、中々強いですのよ」
「真美さん……」
「少々辛い戦いですね」
そう言いながら細かい触手を鞭のようにカリンに浴びせる。
麻痺性の毒を盛ったものであるが、良い効果が表れているようには見えない。
「ああ……痺れるわぁ。もっと頂戴、もっとよ」
「毒もダメですか。あなた相当ですわね……」
細かい触手を纏め巨大な触手に変えカリンを束縛する方法に切り替える。
巨大な触手でカリンを包み込み、スライム内に捉えた。
「やった!真美さんが捉えた!」
しかし、カリンが全身をバネのように伸ばすとスライムは飛び散り、拘束は解けた。
「拘束プレイも好きだけれども、この程度じゃ拘束にもなりませんわ」
その直後、真美に瞬時に詰め寄る。
そして真美から出ている触手をすべて断ち切った。
「なっ!?」
「物理攻撃があなたに効かないことくらいわかりますよ。だからね、こうするの」
断ち切った触手をさらに断ち切り、細分化していく。
次第にその触手は機能を失って行った。それにより、真美の身体が少し縮んだ。
身体を液状化し、距離を取るがこちらからの有効打が見当たらない。
「攻撃をすれば能力は上がっていく。こちらからの有効打は見当たらないが、こちらは弱点を悟られた模様……少し分が悪いわね」
「真美さん……」
「さっちゃん。大丈夫よ、ありがとう。少し下がっていてね」
普段おっとりしている真美から少しだけ凄味が出ていた。
それに少し感化されたさっちんは後ろに下がった。
「全然ダメじゃないあなた!もっと、もっと私を興奮させて頂戴!」
「ええ、それがお望みならもう少しあなたも頑張って頂戴」
真美はカリンの攻撃を避けるのに必死であったが、避けきれてはいなかった。
その攻撃は少しずつ真美の身体を小さくしていき、どんどん断ち切られ、とうとう透子たちより小さい身体になってしまった。
「真美さん!!」
さっちんが思わず叫ぶ。
しかし、それでも真美は普段のようにおっとりとした笑顔で答えるだけであった。
「さっちゃん。絶対に……絶対に能力を解除しちゃだめよ……」
攻撃を続けるカリンは多少暴走気味になっていた。
いたぶることもいたぶられることも好きなカリンにとって真美のような攻撃してもしてもやまない相手というのは興奮するに値した。
「いつまで耐えるのかしら?それともこのまま消えちゃうのかしら!?ああ、もっとあなたを見せてくれてもいいのよ」
「そう、それならとっておきを見せてあげるわ」
真美の身体から瘴気が溢れ始めた。
黒く、白くもあるその瘴気は真美を中心にして徐々に広がって行った。
さらに真美の身体の濃度が小さくなる前と比べて濃くなっている。
「何かしら?痛くも痒くも何も感じないわ!これがあなたのとっておきなのかしら?」
「ええ、これが私のとっておき……」
真美から溢れ出した瘴気が真美を中心に半径3mほど広がった。
カリンは興奮して警戒することなく、真美へ攻撃を続ける。
瘴気に包まれた真美はというと目が虚ろになり、口が半開きになっている。
その気に気が付いたナノカがカリンに向かって叫ぶと同時に能力を使おうとする。
「カリンそいつから離れろ!!」
しかし、ナノカの能力は間に合わず。
そして……
『黒白浄土』
瘴気が一瞬で消えた。
瘴気に包まれていたもの全てが一瞬で消えた。
真美を含む半径3mすべてが消えていた。
「ま……み、さん?」
さっちんは真美がいた場所へ駆け寄る。
もちろんそこには何もないし、いない。
ただの虚無だけが残っていた。
「真美さーーん!!」
「はーい」
「へ……?」
さっちんの後ろに幼稚園児くらいの幼女がダボダボのスク水を被り、立っていた。
背丈は全く異なっていたが、見た目は真美を幼くしたような感じであった。
「真美さん!無事だったんですね!」
「先に本体の私を切り離して、後ろからコントロールしていたからね。消えたのは偽の私。ただあれを使っちゃうと当分は私が使い物にならなくなっちゃうんだけれど……」
「それでもよかったですーっ」
さっちんは泣きじゃくり真美に寄り添う。
小さくなった真美はさっちんの頭を撫でる。
「こうでもしないと倒せなかったけれど、後は透子ちゃんとリアちゃんにもう一人を完全に任せることになったのは辛いわ……」
真美の活躍により、カリンは倒した。が、ナノカが切れかけていた。
「なんだよおい、カリンはどこへやった?」
困惑と怒りが混じった色でナノカが投げかける。
透子とリアは互いに傷を負っているが、未だに戦意は衰えていなかった。
「ふざけんじゃねえぞ!!」
ナノカが吠えると、透子たちは彼女に注意を注ぐ他なかった。
カリンがやられたことを認識すると困惑は全て怒りに変わっていた。
「あいつをやったくらいで良い気になってるんじゃねえぞ。どの道お前らに俺を倒すすべなんてねえからなあ!!」
「トーコ!気を付けて!」
再び透子に殴りかかるナノカ。先ほど同様、反撃するとそれを返されてしまうため簡単に反撃はできない。
攻撃を防ぎ避け続けるがナノカの機嫌はどんどん悪くなっていった。
「あーめんどくせえ!!お前ちょこちょこ動きすぎなんだよ!攻撃が全然当たんねえ!」
ナノカは攻撃対象をリアに切り替える。リアはシートを開き、ジェットアーマーで距離を取る。
「どいつもこいつも本当にめんどくせえな。逃げたら勝てるとでも思っているのか?」
「すべての攻撃はあなたに通用しませんが少なくとも負けないと思っています」
「ああ、もういいや。全然楽しめねえから楽しむのは終わりだ」
ナノカはナイフを取り出し、自分の足の腱を切る。
切られた傷はなくなっており、代わりに透子の足に傷ができていた。
「いっ……た……まさか、そんなことまでできるなんて……」
「トーコ!私が!」
「お前もだよ。その能力、手を使えなくすれば使えないだろ?」
次は両腕を刺し、傷をリアに与える。
一刺しではなく、なんども腕を刺しつづける。
「うぐっぁ……腕が……」
「これだけやれば、お前の能力も使えねえだろうって、おお。へぇお前立てるのか」
透子は恐らく立つのがやっとであろう。しかし立ちあがった。
在るのはナノカへの戦意のみ。震える足で胴体を支えていた。
「確かに足の腱は切ったはずだが、それでも立つのか!それはすげえな!また興味が出て来たぜ!それからどうするんだよ!その震える足で何を見せてくれるんだよ!」
透子は構えた。気は練り上げられ、風となり舞う。
それを全て右腕に集める。纏われた気は一本の角のようにも見えた。
「いいねえ!撃ってこい!そのままそっくりお前に返してやるからよお!!その後は地獄絵図だ!!」
『嵐龍の角撃』
衝撃がナノカの身体を走り、波を撃つ、風を起こす。
恐らく今まで受けたことがないであろう一撃を直前まで返そうとしていた。
が、彼女は膝をつき、地に伏せる。透子の一撃により、意識を失ってしまった。
「やった、のかな……」
透子も膝をつき、しかしナノカを見据えている。
「トーコ……」
リアが透子に駆け寄る。
その痛々しい腕のことよりも何よりも透子のことが心配で堪らなかった。
その腕で透子を強くつよく抱きしめる。
「ごめん。リアのために」
「何言ってるの。私たち友達でしょ?」
「トーコ……トーコ……」
しばらく二人は抱き合ったままであった。
それを後ろより、さっちんと真美が見つめる。
「さっちゃん。終わってすぐで悪いけれど後の処理、お願いしてもいいかしら。今の私では……」
「任せてください。ひとまずあいつの水着脱がしちゃいますから」
さっちんがナノカに近寄り、身体に触れようとした時、その空間が歪んだ。
それが危険なモノか何なのか判断する前に瞬時に能力を発動したさっちんの判断は正しかった。
傷だらけのナノカの身体は姿を消していた。
「「あーどもどもー。皆さん初めましてです」」
見上げると、かなり幼い、小学校低学年ほどの幼女二人が立っていたというより浮いていた。
その容姿からは愛らしさが会間見えるが、雰囲気からはそんなものは微塵も感じられない。
掴みどころのないオドロオドロシイ感じが漂っていた。
「「最初は二人に任せるつもりでしたけれど、あの子がやられてしまったので仕方なく俺が出てくることになったというわけよ。というかあいつを倒してしまうとはあなた何者でしょう。只者ではありませぬな。私びっくりしたよー」」
その口調からも気持ちの悪さがにじみ出ていた。
安定しない口調。統一されない一人称。そして何よりも二人で同じ言葉を話している。
その声を耳に入れるだけでも、不快感で胸がいっぱいになる。
透子、リア、真美は既に心身共にボロボロで、その上、これを聞かされていると言葉を発することすらままならなかったが、さっちんに至っては全くそれを受けていなかった。
「あんたたち急に出てきて何よ!名乗りなさいよ!」
「「これは失礼致しました。僕はアジサイ。甘美なる花の庭園が一人のスク水幼女。といっても二人で一人、まあ双子なんだけどな。珍しいかね?」」
「さっきのあいつの仲間ってこと?というかあいつをどこにやったのよ!」
「「そうだな、仲間だな。うん、仲間。あいつはウチのアジトに帰したよ。あの様子では治療も必要でしょう。ああ、それともう一人も回収したお。全く、面倒な次元に送ってくれちゃって、探すのが大変だったんだぞ畜生」」
「なっ!?」
これには真美が愕然としていた。
真美の黒白浄土はこの世の毒を集めることであの世と一瞬だけ繋ぐ技である。
つまり先ほどの技で、カリンはあの世へ、つまり死んだはずである。
それを回収したと、この双子の幼女が言っているのが理解できなかった。
どうやってそんなことを!と言いたかったが謎の気持ち悪さで発言することすら叶わない。
「それじゃあとっとと帰りなさいよ!今回は見逃してあげるわ!」
「「それがそうにもいかんのですよ。もともとウチの二人がそこのスク水幼女を攫ってくる仕事があったんに、やられてしもうたのでな。代わりに私が代行として頑張るのですよ」」
アジサイが手をリアに向けると、先ほどと同じようにリアと透子の周りの空間が歪んだ。
「「なんか一人変なの付いてくるけど、まあいっか。頂きマース」」
狙われていることに気が付いたリアは透子を突き飛ばした。
透子は最後に涙を流しながら笑顔で自分を見つめるリアを見た。
そしてリアはその空間と共にいなくなった。
「リアーー!!」
「「これで私の仕事は終わりだし。それじゃあ君たちばいばい」」
アジサイの周りが同じように歪み、姿を消した。
透子、さっちん、真美。三人がこの場に残った。
しかし、リアは連れ去られてしまった。
夕日が眠ろうとしている時分。
三人は明けることのない夜を彷徨っていた。
リアが連れ去られてしまった。
助けられなかったことを悔やむ透子は……
次回!第七着目
「一末の休息」