一着目「ようこそスク水幼女バトルへ」
スク水と幼女って最強だよね。
最強なら戦っても最強なわけで、戦うなら最強vs最強が見たい。
つまりスク水幼女とスク水幼女が戦えばそれが一番最強なわけで。
ない、ない、ない。
去年使ってからここにしまっておいたはずなのに。
どこかに持っているはずもないし、どこ行ったんだろう私のスク水。
タンスは探したし、クローゼットも探したし、もう探すとこなんてないよー。
「おかーさん、私のスク水知らない?明日の水泳どうしようー」
「知らないわよ。部屋のクローゼットの中は?」
「もう探したー。ないのー」
せっかくの水泳を受けられないなんて絶対にヤダ!
暑い中勉強を頑張る私たちにとって水泳はとっても楽しみなことなのに。
もっかい同じとこ探してみよう。
~数十分後~
ない、ない、ない。
終わったわー。私の明日の楽しみが消えちゃったわー。
いいもん、一回くらい休んだって。別に寂しくないもん。
お母さんに頼んで新しいの買って貰おうかな。
「透子、スク水は見つかった?」
「ううん、見つかんない。お母さんお願いだけど、新しいスク水買ってー」
「それはいいけれど、明日は授業でしょ?」
「明日は先生に説明しておやすみする」
「ふっふっふっ。じゃーん」
お母さんはそういうと一着のスク水を取り出した。
「え!?あったの!?」
「違うわよ。これ昔お母さんが使っていたの。何故かまだ綺麗に残っててね」
「え!!?お母さんの!??」
「なによその驚き方。大丈夫、ちゃんと綺麗にしてるわよ。それに新しいの買ってあげるから、明日1日ならこれでもいいでしょ?」
「あ、うん、そだね。ありがとうお母さん」
よく見ると私が使っていたスク水とは少し見た目が違うっぽい。
スク水も年々新しくなっているのかな?
「お母さんも透子くらいの頃にね、このスク水を着て凄い成績出したりしたもんだから。透子も凄く泳げるようになるかもよ?」
「私は元々運動神経良いから大丈夫だよ。ありがとね、お母さん」
そんなことを言いながらお母さんからスク水を借り、荷物をまとめる。
すでに私の名札?も縫ってある。『4-2 にのまえ』
漢字で書くと大抵の人に読まれないからいつもひらがなにしている。
ああ、なんとか明日の水泳に参加できそう。うれしい。
今日は宿題もないし、もう寝ちゃおっかな。
「それじゃあお母さん、もう寝るね、探し疲れちゃった」
「そうなさい。おやすみ透子」
「おやすみなさい」
~ 次の日 ~
【 学校 プール場 】
「それじゃあ今日は1回目の授業だから自由に泳いでいいぞ。怪我すんなよー」
やったぁ!自由時間だ!という声があちこちから聞こえてくる。
私も友達と一緒につめた~いプールではしゃいだりしている。
これで日々の疲れも吹っ飛ぶってもんですよー。
「それじゃあ今から競争しよう!」
「いいよぉ!負けないんだから!」
友達数人とプールの端から端まで競争をすることになった。
運動はスゴく自信があるから負けるつもりなんて全然ない。
「じゃあ私が合図したらスタートね。はいスタート!」
「ちょっと早いよ!それズルい!」
言い出しっぺが不意打ちをかけてきた。
うぬぬ、ズルいよぉ。すでに差がついてるし。
それなら思いっきり泳いでやるっ!
それから先のことは鮮明に覚えている。
グンッと身体が水を裂き、プールの端に突っ込んだ。
裂かれた水は水飛沫となり、雨のようにコンクリを濡らした。
私は、というと目の前の状況が自分が起こしたものと理解するまでに時間を要していた。
理解した後もただただ立ち尽くすしかなかった。
~ホームルーム~
「それじゃあ今日もお疲れ様。皆気を付けて帰るんだよ」
「先生さようならー」
今日の学校もおしまい。それに今日は金曜だから明日明後日はお休みだ。
明日どこどこに遊びに行こーとか、あなたの家に行っても良い?とか皆話している。
が、今の私にはそんなことを考える余裕があまりなかった。
それよりも水泳の時間の事がすごく気になっていた。
あれだけのおかしなことが現実のものとは思えなかった。
それに周りのみんなは何かスゴカッタネー程度にしか感じていないのも変だと思う。
一人もんもんとしながら下駄箱に向かうと一通の手紙が入っていた。
私はすぐさまそれをポケットの中に入れ、誰にも見つからない様にトイレの個室に駆け込んだ。
なに?!なに!?もしかしてラブレター!?
どうしようこんなの初めてだよ!?はずかしいよぉ!
頭の中がぐるぐるしはじめるのを深呼吸で抑える。
それでも震える指で恐る恐る手紙を開き読んでみる。
もう一度深呼吸。
よし、読める。読む。
そこにはこう書かれていた。
『果たし状
一 透子 どの
放課後、スク水を着てプールに来てください。
待っています。
遠山 さち より』
ん?
果たし状?
スク水を着て?
ん?
遠山さんは分かる。あまり話したことはないけど同じクラスの子だから分かる。
元気が良くてハキハキしてるけど、少しアホっぽいという……たぶん、少し……。
だがしかし、何故にスク水を着ていかないといけないのー!
でもでも、待ってるって言ってるし、一応行ってあげた方がいいのかな。
私はひとまずスク水は着ないで、プールまで行くことにした。
そもそも今日使ったから濡れたままの物をもう一度着るのは少し気が引ける。
濡れてなくても着る気はそんなにないけれど。
着いてしまった。
荷物を入口のところに置いて、恐る恐る覗いてみると、いた。遠山さんだ。
遠山さんスク水着て泳いでる。なんで!?もうわけわかんないよ……
こっち見てる、気づかれたかな。
「透子ちゃん!はやく、こっちこっち!」
「うえぇ……見つかっちゃった……」
「来てくれてありがとうね!あれ、でもスク水着てないじゃん!なんで!」
「なんでってこっちがなんでだよー。なんでスク水着てこなきゃダメなのー」
「なんでって、透子ちゃんと果し合いをするためだよ」
「果し合いって、あれ本気なんだ……」
「そうだよ。だから早くスク水着て」
「でも果し合いだからってなんでスク水じゃなきゃなの?いや、そもそもなんで果し合いするの」
「透子ちゃんは質問が多いなー。だって透子ちゃんもスク水幼女でしょ?」
「スク水……幼女……?」
「そう!スク水幼女!」
だめだ、頭がついていけない。
スク水幼女ってなに。遠山さんってこんなにアホだったっけ。
でもでも、もしかしたら私が知らないだけであってスク水幼女というなにかしらのなにかがあるのかも。
例えば今日私がやったような……
「ねえ、遠山さん?」
「なーに?着る気になってくれた?」
「そのスク水幼女って、私が今日水泳の授業中にやったあれのこと?」
「そうだよ!あれは凄かったよ!私感動したよ!だから果たし状をすぐ書いて渡したんだ!」
「ああ、そうなんだ。ははは……」
乾いた笑いしか出てこない。
つまり、今日のあれはスク水幼女とかいうよくわからない力のせいということなのかな。
理解が追いついてきたようなきてないような、頭がぐるぐるする。
「遠山さんも、その、スク水幼女なの?」
「そうだよ!私の能力も見る?」
「えっとその前に、そのスク水幼女について詳しく教えてくれないかな?」
「もしかして、透子ちゃん、スク水幼女のことよく知らないの?」
「あはは、そう、みたい」
なんとなく。なんとなーっくだけど。分かり始めてきた。
でもよく知らないから聞くことにした。
「じゃあ教えてあげるよ。スク水幼女とはスク水を着ることで現実では考えられないような能力を使うことができる幼女のことである。この能力は幼女側と言うよりはスク水にある。着ると特殊な能力を発揮できるスク水があり、その力を引き出すことができるのが幼女って言うわけ。誰でも引き出せるってわけじゃないのがポイントね。だから私や透子ちゃんは選ばれた存在ってわけ。それにスク水にもレア度というか価値があってね、透子ちゃんが持っている旧スクは特にレア度が高いの。だから私はそれが欲しいから果たし状を透子ちゃんに送ったの。あんだーすだんど?」
「ええ、と、はい。わかりません」
「なんで!?」
「確かに今日の授業であんなことあったけど、すぐには信じられないよ」
「ぐぬぬ。じゃあ私の能力を見せてあげる!」
そういうと遠山さんの身体が少し光った気がした。
すると、遠山さんが宙に浮かんだ。人が浮かんでいる。
「どう!これが私の能力!名づけて!みすたーいんびじぶる!」
「ミスターというよりはミスなんじゃないかなぁ……とか言ってる場合じゃないし!ふええ!」
「どうよ!もっと感想を言っても良いのよ!もっと見ても良いのよ!」
宙を泳ぐように、というより言葉通り泳いだり、壁や地面すらも泳いだ。
何にも触れない触れさせない、全てを泳ぐ能力。みすたー?いんびじぶる。
「どう!どうよ!これで信じたでしょ!さあ透子ちゃんもスク水を着て!戦おう!」
「え、嫌です」
「なんで!?」
遠山さんは宙を浮くのをやめ、もとい、コンクリに落ち、涙目になりながらこっちに来た。
いまにも泣き出しそうなその目は困惑と悲しみと少々の怒りが混じっているようにも見えた。
「なんで着てくれないの!」
「スク水幼女については理解できたけど、戦う理由にはならないし……」
「お願いだから着てよお!私と勝負してええ」
泣いてしまった。
コンクリに頭を擦りつけ、おいおいと声をあげながら泣いている遠山さん。
「ちょっと遠山さん、怪我しちゃうよ」
「だっでぇ、とおごぢゃんがじょうぶじでぐれないがらあぁ」
「私のスク水が欲しいのならあげるから、それならでいいでしょ?」
「ぞうじゃないぃ、じょうぶじでがっでがらじゃないどだめなのおぉ」
ああ無情。
スク水を着て欲しいとここまで懇願されるのは恐らく初めてだろう。
「わかった!わかったから!着るから泣かないで!」
「ぼんどに?ぎでぐれるの?」
「うんうん、着てあげるからもう泣かないで?」
「うぞじゃない?」
「嘘じゃないよ。ほら顔拭いて」
「うん」
ハンカチを差し出し、涙と鼻水を拭く。
「じゃあ着替えてくるからここで待っててね?」
「ありがどうごじゃいまず……」
溢れ出る涙と鼻水を拭いているその間に約束通り、更衣室で濡れたままのスク水に着替える私。
うええ、なんか気持ち悪い気がする。ジメジメがすごい。
「ほら、遠山さん。着てきたよ」
「さあ!始めよう!スク水幼女バトルを!正々堂々と!おーっほっほっほ!」
ああ、この子アホの子だ。
たぶん根は真面目で良い子だけどアホの子だ。
「それで勝負って何をするの?」
「それはもちろんガチンコファイトに決まってるじゃん!どちらかが立てなくなるまで!」
「そこはすごくリアルなんだね……。でもそんなの危ないよ?私、遠山さんと喧嘩がしたいわけじゃ……」
「言い訳無用!」
眼前にいたはずの遠山さんが一瞬で地面に潜り、姿を見失った。
と思ったもつかの間、背後より気配を感じ振り返ると、突きだした遠山さんの拳が私の胴体にっ!
「えい!」ぽすっ
「……」
もう一発、遠山さんの今日一の鋭い一撃がっ!
「えい!」ぽすっ
「……」
私は遠山さんを脇から抱え、動けないように高い高いをした。
「うわっ!なにをする!おーろーせー!」
「……」
そのままプールの中に放り投げた。
「ちょ!やめっ!ぶふぁあ!」
「……」
急に水の中に投げられ鼻から水を吸ってしまったらしい遠山さんはゲホゲホ言いながらあがってきた。
「おえっふぉ。透子ちゃん……やるね……」
「……」
「私の一撃が効かないなんて、これはもう私の勝つ手はないね。透子ちゃんの勝ちね」
「あ、はい。あと、ひとつ言ってもいいかな?」
「ふっ。勝者が敗者に言葉を投げかけるなんて、ひとつしかないね。いいよ、言いなさい」
私は空気を吸い込めるだけ吸い込んで空に向かって、叫んだ。
「なんだこれーーーっ!!!」
かなり響く。
「何よこれ!これがスク水幼女バトルなの?ぜんっぜんバトルしてないじゃん!というか私勝っちゃったよ!意味わかんないよ!」
「さすが透子ちゃんと言ったところね」
「というかなんか遠山さんキャラ変わってないかなぁ?!もうわけがわかんないよ!どうすればいいの!」
「どうって、スク水幼女バトルの勝敗が決まった後はやることはひとつよ。スク水渡しよ」
「スク水渡し?」
そういうと遠山さんはスク水を脱ぎ出し……
「ちょおっとまったあーーー!!!」
「どうしたの透子ちゃん。いま渡すから待ってて」
「そうじゃないでしょ!なんで脱いでるの!ここはヌーディストビーチじゃあーりません!」
「負けたら勝った人に着ているスク水を渡すのがルールよ」
そういいながらまだ脱ごうとする、のを止める私。
「ちょっと透子ちゃん!脱ぐの邪魔しないで!」
「脱がせるわけないでしょ!ここで全裸にならないでよ!恥ずかしくないの?!」
「恥ずかしいわけないでしょ?透子ちゃんおかしいの!?」
「おかしいのは遠山さんの方でしょう!」
「ぐぬぬー。あ、そうだ。いんじびぶる」
脱ぎ脱がせまいの取っ組み合いの最中、遠山さんは自分の能力を思い出し、いんじびぶるした。
「ちょっとそれずるい!」
「透子ちゃんは私がスク水を脱ぐ様を見て入ればいいのよ」
「あああ!ダメだってばあ!」
必死に止めようとするが、いんじびぶる状態の遠山さんには誰も触れられない。
「さあ!さあ!さあ!さあ!」
「なんで脱ぐとこ見せられてるの私ー!」
「脱げるぞ!脱げるぞ!」
「ダメだから!見えちゃいけない所が見えちゃうから!」
「これがスク水渡しだから!」
「ダメーーー!!」
もう少しで本当に見え……というところで、遠山さんはふと思った。
「あ、あれ。私思ったんだけどさ、能力使ってれば透子ちゃんの攻撃受けないから負けないんじゃない?」
「え、あ、うん?そうかもね」
「そしたら、今回の勝負引き分けじゃないかな?」
「そうだね!引き分けだよ引き分け!」
「そしたら、スク水渡ししなくても良いってことか!」
「うんうん!しなくて良い!しなくて良いよ!」
「そっかあ、そうなんだあ」
はだけたスク水を正し、能力を解除し、遠山さんは私の前にとてとてと来た。
「それじゃあ今回の勝負は引き分けってことで。また勝負しようね、透子ちゃん!」
そう言い残しそのまま帰って行った遠山さん。
一人スク水姿でプールに残された私。
時刻はカラスも帰る夕暮れ時。
私のスク水幼女生活は始まったばかりです。
透子の能力が全然発揮されないまま終わった一話!
むしろアホ可愛い遠山さんが目立ってばっかり!
このまま遠山さんが人気を取ってしまうのか!
次回!二着目!
「デジタルなスク水っていうのも良いですよね」