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用紙

はじめて会った時、確信した。彼奴はオレの兄弟だって。それは、多分彼奴も同じだ。ただ、彼奴とは絶対に仲良くなれないこともすぐに分かる。彼奴は分かりやすい不良だ。相性が悪い。

「……」

彼、白の方からぶつかって来た。物理的に。もちろん、一声も出さずにだ。その時、本当にさりげなく紙を渡された。他の誰も気がついていないだろう。

釣り合わないのは周りの話ですぐに分かる。ただの好奇心で彼と話をしたいと思っただけだ。紙には『放課後』と『技術室前』の二言だけ書かれていた。

それだけだったのだが気になったのでメモの通り放課後、技術室前に行く。部活も何も無いので放課後になると人気がなくなる。気のせいか若干、他よりも薄暗い感じがした。

「真名はなんだ?」

マナ? 詰襟を一番上までしっかり閉め、いつも醸し出している雰囲気とまるで別人の白がそこに居た。そうしていれば誰もが不良だとは思わない真面目な学生と思われても不信はないだろう。

「あー、……何言ってんの? 俺さこえきこえないんだよっなぁっ」

マナについて考えていると急に声が聞こえないと言われた。一言も話していないのに聞こえないと言いがかりをつけられ更に殴られるかと思い目を瞑るが頬を微かな風を感じる。

目を開く。相変わらず殺気立った白がこちらを睨みつけている。

「オマエ、憑かれ過ぎじゃないか?」

一旦、この場と彼のことを整理しよう。彼は内藤白。同じクラスのクラスメイト。本人自体はいたって普通。派手目な生徒と付き合いが多く制服を着崩していることから真面目な生徒には嫌煙されている。

さっきから、よく分からないことを口にして何かに苛立っていることは分かる。と言うより先程の『つかれすぎ』とは誰に対して言っているのか。

「な、これについては人間に聞いているんだけど。聞こえているよな……えっと誰だっけ」

人間という不可解なワードが出てくる。と言うよりこの場にいるのはオレと彼の二人だけのはずなのに。思わず自分を指で指し示す。

「は? お前だけだろ、人間は」

どうやら、オレのことらしい。

「別に疲れてないけど……?」

思ったままのことを言う。

「は? 何だよそれ……。見えているんじゃ無いのか」

と言いながら彼は白い布を取り出す。六芒星が、墨で書かれその反対には目という漢字が書かれている。

「力の一部を貸してやる、それを目隠しするように巻け」

巻いたところで余計に見えなくなるのではと言う疑問はあったが有無を聞く前に無理やりに目隠しされる。

と、共に変な感覚が脳内を襲う。何かに脳内を掻き回される不快感が一瞬、その後、目が熱くなるがそれもすぐに収まり目の前を見る。この世のものとは思えない有象無象がそこに居た。

『やっと見えたのか?』

『すごいすごい! 面白い!』

『アハハハ、馬鹿面だよ! 馬鹿だよ!』

と、様々な声が今までより鮮明に聞こえてくる。普段は気にして居ないと言うより何について言っているか分からなかった雑音が鮮明に聞こえるようになる。実際、彼と兄弟だと言われたのもこの雑音からだった。やっと、何者が話しているのが分かる。

「誰がバカだ! 笑ったやつから懲らしめてやっからな!」

と、なぜか悪口も何も言われて居ない白が狂ったように拳を振るう。左手には何か紙のような物を三枚指と指の間に挟んである。

「印:封」

一瞬にして先程の笑い声や緩んだ顔が引きつるのが分かる。

『白様のことじゃ無いよ』

『許して、ゆ、許して……怖いよー』

逃げまわる人とは違う形をした者たち。話していることから意識疎通は出来るようだが。

「逃げんな! さっきから言ってるだろ! 真名を寄越せって」

ここでやっと、あのマナというのは自分に言われてる者では無いのだと。

『やるからー! 真名はーー』

「だから、俺はお前らの声が聞こえ聞こえないんだよ!」

と、問答無用と言うように彼は紙を彼らのデコに当てる。

「我、力の主人なり。汝を封印し我の力として使役せん」

強い光と共にその場にいた異形が消えている。白は紙を見て舌打ちをする。

「下級どもが」

そう言って紙を地面に投げ捨てる。その紙からなのか声が微かに聞こえた気がした。「痛い」と。投げ捨てた紙を拾い、三秒ほどじっくりと見ていただろうか。

「ミクリとホウジ、ハン、カグラ……雑魚ばっかだな」

そう言いながら紙をファイルの中にしまう。

「何も知らないんだな」

事実を言われて何も言い返せない。

「俺は内藤白。お前は?」

本当に名前を知らないようだ。

「菱沼黒都。クラスメイトだろ」

気まずそうに彼は笑う。

「そう、菱沼。……玄」

突然脳内に電撃が走る。ぴりっと刺激され立つのがやっとの様に感じられる。

「あんたにも真名があるんだな。面倒が一つ消えた。そのまま聞け」

歯を食いしばる。集中する。とくに何をするでもなく彼は話を続ける。

「アレはお化けだ。妖っていう奴もいるが霊感? が強く無いと見れないから幽霊だきっと」

「幽霊って、さっきの紙はお祓いのような」

と、口を挟んだところで頭痛が強くなる。

「玄、俺はそう言った祓いの力は持っていない。確かに祓い屋……陰陽師の様な奴にレクチャーは受けたけどな。俺は祓うことは苦手だ。だから、こうやって真名を集めてる」

鞄の中から先程、しまったファイルを取りだし、オレに渡す。そこにはフニャフニャな文字が確かに書かれていた。達筆と呼ぶには躊躇いがありそれを形容するにはミミズが這ったような字というのが正しいのだろう。

ファイルの中を見ていくとほとんどがそんな文字だった。しかし、その中にもいくつかまともな文字で書かれた物があった。青龍、一角獣、乙女桜などなど。

「その紙を紙記と、呼ぶ。らしい。

一応、その中には俺の式もいる。呼び出して見るか」

手を差し出された。どうやらファイルを差し出せと言いたいらしい。ファイルを渡す。迷うことなく一枚の紙を手に取る。

「この紙を札というんだと」

肩を一回上下させる。

「血の契りを交わせし者よ、契約に従い姿を現さん……彼の名は青の帝:ミカヅチ」

風と共に一人の人が出てくる。しかし、その出で立ちは時代劇などに出てくる旅人風だ。顔の半分は前髪に覆われていてよく見えないが、一見は普通の人だ。

『主人さまが呼び出しとは……。珍妙なものがおりますね。私の声が聞こえると言うよりその力、お分けすることが出来ますね』

といい出すと彼は紙に字を書き出す。書いているのは筆と思いきやスーパーとかで普通に置いてある筆ペンだ。ミカヅチと呼ばれた男が用紙を……これもどこにでも置いてある半紙だ。

「これ何? いつも通り何か伝える時はソレに書けって……」

勢いよくさっきとは違い分かりやすく文字を羅列していく。先程の紙を持つことで声が聞こえると書いてある。

「聞こえないっていうの」

更にスラスラと書いていく。それは主人さまが聞こうとしないからと書かれる。

「聞こうとしないね。なかなか難しいな。仕方ない。お前らについては信じよう」

『主人さま、お声については初めてになりますね。あなたに貰えたミカヅチという名、ありがとうございます。やっと伝えられましたね』

嬉しそうに白の方を見る。微笑ましいと思うがみられている彼自身はとくに無表情だ。

「ふーん。で、俺に何か言いたいことあるの? 恨み怨みなんてたくさん溜まっているだろ」

無関心というより、覚悟……いや怯えているのだろうか。

『主人さまに恩はあっても妬みなど。私は祓われるべき魔物でしたので。初めはどう呪い殺そうかと思いましたがね』

笑い話のように締め括るが全く笑えない。

「もう少し待ってくれよ。まだ、時間が欲しいんだ」

真顔で言うセリフでは無いが表情一つ動かさない。

「一つ聞く。この声を俺が聞くことでアイツへのデメリットは?」

『さぁ。人の声の一部が聞こえなくなるぐらいでしょう。主人さま以外の人など』

「あっそ。それじゃこれは…」

紙を器用に九つに折る。縦長に畳んだものを小さな巾着袋にしまい、ぶつぶつと何かを呟いている。ピタッと口を閉じるとその巾着袋をしっかりと結びこちらに向かって投げる。俺の前に袋が落ちる。

「必要だと思った時に渡せ。俺に本来は必要ないから」

そう言われてもと思ってしまう。巾着袋を拾う。見た目はお守り袋のようだ。

『喜べ、人の子。それには主人さまより大変、ありがたい呪詛がかかっている』

呪詛と言われて少し遠巻きにそれを見る。

「呪いじゃない。魔除けだ。あと、その布もやる。見たいときに見ろ」

「あのさ、勝手に自己完結しないで貰える? こちらも話があるんだよ」

ここは下手に出るより直球に出た方が良さそうだ。まだ氏記を出している。何をされるか分からないというのもある。

「ミカヅチ、もう用事は済んだ。何もないのに呼び出してすまなかったな」

呼び出した紙記の紙を当てるとその場に彼は居なくなる。

「俺に用事か? 紙記にはこれで話は聞こえない。布を取れ、黒都。今見える限り化け物は居ない」

あって間も無くにわたされた布を取るように言われる。何も意味もなく付けているのもバカらしくてはずすことにした。

「それで、何の用なの?」

「お前の父親について」

「知らない。会ったことも話したことも無い。ついでに言うと俺は父についてはあまり良く思っていない」

無関心なのかと思いきや若干、歯を食いしばっている様にもみえる。会ったことが無いと言うのも本当だろう。あの男が一度捨てたものに執着するわけが無いのだから。

「俺の父親だろうな、お前の言う化け物が囁いていたし。においが同じだと」

人が知らないことを知っている。それを知って得する人などこの学校にはいない。それなのに、父親が一緒だとか言っている、においが同じだと言っているのは何も知らない化け物ぐらいだろう。中学までほとんどが聞こえなかった雑音も白様と投げかけられるような囁きも高校に入ってから多くなった。

「何? 俺に呪い殺して欲しいの? 別に興味は無いんだけど。とくに父親については」

「オレは殺してもいいと思うけどね。同学年の兄弟がいるぐらいにクズだし」

「……言うな。俺は彼女が平和に暮らせる世界ならそれでいいからな。どれだけ俺が気味悪がられても」

彼女とは誰なのか。あと、最後の気味悪がられてもと言うのは何のことだろう。

「そのとぼけた顔は何だ? 普通に思考を巡らせろよ。見えないものが見えるって気持ち悪いだろ」

そうだろうか。たしかにはじめは驚くだろうが羨ましいと思う人もいるのでは無いだろうか。

「その普通が通用する家庭だったら良いんだけどな。世間様は一人親に対して厳しいんだよ」

彼が一息つく。

「父親について気になって話しかけたのは分かったけど、俺には関係ないしもう話しかけるなよ」

後ろを向き階段の方に歩いていく。彼奴から接触してきたのに勝手なやつだと思ってしまう。いや、自分もかなり勝手だったが。

少しは気にして欲しかったのか。ただ共有したかっただけなのか。内藤白……少しは気にし止めておこう。

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