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秋葉の空2  作者: 毒舌メイド
第一話 湯けむり温泉旅館殺人事件?!
3/5

温泉旅行当日!


温泉旅行当日、午前七時半。天気は快晴。



僕は野々山姉妹と紅白学園の校門前へやってきた。予定の時間より三十分も早く到着したので、一番乗りかと思ったけど、校門前には既にひとりの参加者が待機していた。



「ママ、秋葉ちゃん! 遅いよぉ」

 


ボストンバッグを地面に置いてしゃがんでいたのは僕のクラスメイトの釘宮志穂。陸上部で短距離走のエースだ。ゆったりとしたシャツは覗き込めば胸元が見えてしまいそうで、しゃがんでいるが中身が見えない絶妙なミニスカートはフリルが三段で乙女チックだ。先月、僕に告白をしてくれた女の子で、学園美少女ランキング七位というだけあって見た目は小さくて可愛いけれど、中身はかなり残念な変態だったりする。最後に声をかけたはずの釘宮が一番に到着しているのは、きっとそれだけ今回の企画を楽しみにしてくれているからだろう。



ママというのは僕のあだ名で、由来はあまり大きな声では言い難いものだ。



ちなみに野々山姉妹の荷物はキャリーケース一つに収まっている。前作を読んだ人にしか分からないだろうけど、今回は登山用ではないようだ。二泊三日だから大荷物にならないのは分かるけど、鞄のサイズだけであのときの秋葉がどれだけ僕の家に居座るつもりだったのかが窺えるよな。



「おはよう、釘宮。早いな」



「楽しみで待ちきれなかったから、六時半にはここにいたよ。秋葉ちゃんのお姉さんも誘ってくれてありがとうございます!」

 


いや、早過ぎだろう。みんなの都合も少しは考えようぜ。



「大きくなったわね、志穂ちゃん。最後に遊んだのは何年前だったかしら?」

 


可憐さんは釘宮のお姉さんの早苗さんと親友で、過去に何度か面識があるらしい。そういえば、可憐さんと早苗さんもうちの卒業生だったな。



朝から四人で盛り上がっていると、近くの電柱から見覚えのあるツインテールが遠慮がちに顔を覗かせているのを見つけて僕は声をかける。



「小鳥遊、そんなところで何をしているんだよ?」



「何か盛り上がってたから……」

 


初めてのお遣いにきた子どものようにもじもじしながら小鳥遊が電柱から姿を現す。気を遣わせてしまったのだろうか?



「あら、この可愛い子も生徒会の?」

 


可憐さんに手招きされて、小走りでこちらへ来た小鳥遊は頬を染めながら元気に挨拶する。



「は、初めまして! 生徒会の会計を担当している一年生の小鳥遊千春です。秋葉先輩のお姉さんですよね? こんなに綺麗な人だと思ってませんでした!」



「初めまして、可憐です。秋葉がいつもお世話になっています。ちなみに私、政宗くんの愛人よ」

 


恋人じゃなくて、愛人という比喩にそこはかとない悪意を感じる。



「ホントですか?! こんなののどこが良いんですか?」

 


こんなのって何だよ。しかも本人の前で容赦ねぇな。



「可憐さん、純粋な後輩の前で僕らの関係を捏造しないでください」



「あら、私は本気よ? 政宗くんはとっても男らしくて私のタイプなのよね。千春ちゃんにもそのうち彼の良さが分かるわよ」



「あまり分かりたくないです……」

 


とことん僕に対しては失礼な奴だな。



隣では秋葉が不機嫌そうに僕を睨みつけていた。こいつはシスコンだから、可憐さんを盗られたと思って嫉妬しているんだろう。後でフォローしておかないと。



それより小鳥遊の私服を見るのは初めてだな。ファッションのことには疎いので、具体的な解説をできないのが残念だけど、全体的にギャルっぽい印象を受けた。



まぁ、女子高生の私服ってこんな感じなんだろうな。秋葉は少し違うけど。だって、中学時代のジャージが私服だった女子高生なんだぜ、こいつ。



そんな秋葉も今日ばかりは白いワンピースを着ている。きっと可憐さんが選んだものだろうということは一目瞭然だ。だって、こいつファッションにまったく興味ないから。



そして可憐さんはいつものように浴衣を着ている。この人は初対面から浴衣以外の姿で登場したことがないくらいの浴衣マニアだったりする。



浴衣に夏用と冬用があることを彼女から教えてもらったときは驚いた。ちなみに浴衣姿しか見たことがないこの人は一体、何の仕事をしているのだろうというのが僕の素朴な疑問なのだが、可憐さんのことだから大したことじゃなくても「秘密よ」と誤魔化されてしまうに違いない。



私服といえば神宮寺先輩はどんな私服なのだろうと思ったとき、清楚な声が聞こえた。



「皆さん、おはようございます」

 


日傘をさした和服美人がいた。イメージ通りだったけど、神宮寺先輩がギャルっぽい格好をしている姿も見てみたかったな。恭しくお辞儀をした神宮寺先輩が浴衣姿の可憐さんと並ぶと、美人の比率がぐっと高くなった気がする。今さら僕みたいな普通の男子が彼女たちみたいな美少女(一人は年齢的に少女と呼んで良いのか些か疑問だが)と温泉旅行なんて場違いな気がしてきた。



そこに一台の白いライトバンが停車して、助手席の窓が開いた。



「遅くなってしまってごめんなさい。車の手配に思ったより時間がかかってしまいましたわ」

 


と頭を下げる桜庭に疑問が浮かんだ。彼女ほどの金持ちなら、もっと豪華な車を用意していると思っていたのだけど、



「一般の温泉旅館に高級車で伺ったら迷惑をかけてしまうので、ディーラーに急遽用意させましたわ」

 


だそうだ。この日のためだけに新車を一台購入してしまう彼女の金銭感覚にはついていけそうにない。



運転席から彼女の屋敷に勤める初老の執事が降りてきて、助手席の扉を開けて桜庭を降ろすと、こちらにも丁寧にお辞儀をしてくれた。



「本日は素敵な旅行にお嬢さまを招待していただき、誠にありがとうございます。車内は狭いかもしれませんが、ご容赦ください」

 


高貴な家柄でもない僕らに対しても礼儀正しい執事さんを見て、自分もこんな立派な大人になりたいと心から思った。



「後は柊だけだな」

 


腕時計を見ると午前七時四十五分。集合時刻は八時と伝えているし、問題児が早く来るとは思っていないので、気長に待つことにしたのだけど、柊はその五分後にやってきた。



「お待たせしてすみません」

 


遅刻したわけでもないのに可憐さんや執事さんの手前、律儀に挨拶をした柊は噂ほど悪い奴ではなさそうだ。目上の方に対する礼儀はしっかりしているみたいだし。



でも本当に意外だったのは――



「よし、全員揃ったな。それじゃ出発しようか」

 


冷静を装って場をまとめてみたけど、内心では先日の福引の金玉オヤジ並に絶叫していた。



美少年キタ――ッ!



肩まで伸びた茶髪、身長は僕と同じくらいで目つきが少し悪いけれど、顔立ちは整っていて、どうしてこんな美少年が入学早々問題を起こしたのか疑問にさえ思った。



しかし、そんな疑問も吹き飛ぶような女子たちの醜い争いが始まり、せっかく八時前に全員集合したのに、それから十五分も言い争ってからようやく車は発進したのだった。



論点は車内で誰がどこに座るのかだ。秋葉はそれが当然のように僕の隣に座ろうとするし、そこに釘宮と可憐さん、神宮寺先輩も混ざり、一触即発の空気が流れたのだけど、じゃんけんで公平に決めさせた。



その結果、助手席に桜庭(詰めて座るのが嫌という理由で)、その後ろに右から秋葉、僕、神宮寺先輩。さらに後ろの座席に柊、釘宮、可憐さん、小鳥遊という席順になった。



帰り道はじゃんけんに負けた可憐さんと釘宮が僕を挟んで座るという条件を秋葉が渋々了承したことで出発にこぎつけた。追記しておくと秋葉の説得に一番時間がかかったことは言うまでもないだろう。つーか、いつも隣の席(教室でも生徒会室でも)に座っているんだから、こういうときくらいは譲ってあげろよ。どんだけ僕の隣に依存してるんだよ。



「あの、神宮寺先輩? お胸が当たっているのですが」



「わざとよ」



「…………むぅ」

 


おい秋葉、どうしてこっちに詰めた?



車内は冷房がかかっているはずなのに、二人が僕にひっついているせいで暑苦しい。



「そういえば、今さらになってしまったけれど、柊と会うのは初めてだったよな? 僕は副会長の姫島政宗。よろしくな」



「知ってます。オレは柊つばさです。つばさはひらがなで書きます。よろしくお願いします」

 


ちょっと高めのハスキーボイスが似合う奴だな。といっても他人の声をとやかく言えるほど僕は良い声をしているわけじゃないのだけど。



「あたしは釘宮志穂です! 陸上部やってます!」

 


先週、大会記録を塗り替えて全校集会で表彰された釘宮を知らない奴がこの中にいるのだろうか?



「ん、そういえば柊? 知っているって僕はそんなに有名なのか?」



「先月、他校の生徒と喧嘩騒動を起こした上に、謹慎処分中に選挙に乱入してあれだけの啖呵をきったんだから、有名に決まってるじゃないですか! 一年生の間でも何故か人気あったりするんですよね」


 

何故かは余計だぞ、小鳥遊。



こう見えて僕は二年生に進級してから結構モテるようになったんだぞ! 特殊な癖を持つ女子ばかりにだけど。



そういえば僕はまだ柊に狩られていない不良だけど、あの噂が本当なら今も命を狙われているのだろうか?



……そうは見えないけどなぁ。



柊をじっと見つめていると、照れたように顔を逸らされてしまった。



まぁ、念のために警戒はしておこう。



「そうだよねー。あの選挙以来、秋葉ちゃんの人気もすごいけど、ママの人気も負けてないよ。部活の後輩にもママのファンだっていう子がいっぱいいるし。でもあたしがママの愛人だって言っておいたから安心しなよ」

 


一体、何を安心すればいいのだろうか? つーか、取り返しのつかない誤解を振り撒いただけじゃねぇか!



「愛人二号は私ね」

 


と可憐さん。



あんたはどこまでが冗談なのか分からないから反応に困るんだよ。



「じゃあ私は三号に立候補しようかしら?」



「神宮寺先輩までからかわないでください」



「「あら、私は本気よ?」」

 


可憐さんと神宮寺先輩の声が重なった。モテ期到来と喜ぶべき場面なのだろうか?



また学園で僕に関する悪い噂が広まりそうだ。秋葉と釘宮の二股疑惑もまだ解消されていないのに、これ以上愛人疑惑をかけられては困るよ。



「…………むぅ」



「痛てててッ! 脇腹を抓るなよ、秋葉!」

 


どうしてこいつは怒っているんだ?



「わ、わたくしも姫島くんには一目置いていますのよ!」

 


ルームミラーに映る桜庭の顔は紅潮していた。これ、結構マジかも。



でも、お嬢さまには手を出さないから睨むのをやめてください、執事さん。背中から黒いオーラ放つのをやめてください!



高速道路に入り、一時間もしないうちに僕らは目的地に到着した。



執事さんは屋敷での業務が残っているので失礼しますと丁寧に頭を下げる。



すれ違いざまに、



「お嬢さまのこと、くれぐれもお願いいたします」

 


めちゃくちゃ低い声で威圧された。正直、寿命が少し縮んだ気がする。



くれぐれもの後に「間違いのないように」という語句が潜んでいたことに気がついてしまったから。



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