幼き日の思い出
魔法使いは正義の味方などではない
人に益をもたらす人外等、そもそも居ないのだから
それからあーのに私は自身の事、人外の事などを教えた
あーのはそれらを黙って聞いていたが、理解したようには思えなかった
いや、そもそも理解しようとしていないのだろう
そういうモノだと、あーのの事を知った今の私ならばこの時のあーのの考えが分かる
私の話を聞き、自分が知らなかった世界の裏側を教えられ、それでも尚あーのはそれらをそういうモノなのだと考える事が出来る
いや、出来てしまうのだ
自分が今まで当然だと考えてきた事柄を否定され、たとえ自分の存在さえも幻想だと教えられようとも
あーのはそれを簡単に受け入れる事が出来る
いや、違うな
そもそもあーのは考えていないのだ
自分の見ている世界に対しても、自分に語り掛けるモノに対しても、自分という存在に対しても、自分以外の存在に対しても
それらをあーのは気にもしていない
ただそこにあり、ただそこに居るだけ
あーのには“どうでもいい”のだ
そんな些細なモノを、あーのは気にも止めない
全てが同価値であり、全てが無意味であり、全てに対して無関心なのだ
だからこそ、私はあーのに惹かれたのだろう
だからこそ、あーのの周りには人外達が集まるのだ
珍しさに面白がり、興味を持ち、自身と対等に話すあーのに惹かれる
人外とは、孤独な存在である
役割を与えられ、力を与えられた人外
力を持つが故に人は離れ、役割を持つが故に人に歩み寄る事が出来ない
そんな人外を《お前は無価値なのだ》とあーのは言葉にせずに接する事が出来る
私のように愛を語り、友のように話し、共に歩く事が出来る
人外にとって、そのような存在は少ない
だから皆あーのの周りに集まるのだ
友として、想い人として、家族として
この街に暮らす人外達にとって、あーのは今やなくてはならない存在となった
それについて、あーのは《どうでもいい》と言うだろう
それでいい
それでこそのあーのなのだ
そうでなければ、あーのはあーのでなくなるのだから
そして、今日も一人の人外があーのに興味を持ち会いたいと願っている
その人外は『吸血鬼』、人の血を啜り、人の上位に位置する事を役割とする人外だ
あーのとの思い出に浸っていたが、もうそんな事を考えている余裕もないだろう
いくら人外達に好かれているあーのであるが、中にはあーのの性格に要注意だと判断した人外もいる
そして今回は『吸血鬼』
油断も隙もあったものではない
「……………あーの、あれが吸血鬼の城だ。引き返すなら今だぞ」
「なんで? 獅弓さんの紹介で会うんだし、そんなに警戒する必要ないんじゃない?」
「あーのは人外に対して警戒心が無さすぎる。それはそれであーのの良い点だとは思うが、『吸血鬼』は『殺人鬼』と並び人に害を為す人外なのだ。
多少の警戒心を持って然るべき相手。ましてや何時ものように向こうが友好的だとは限らないのだぞ。
私はあーのが心配なのだ。もしもあーのの身に何かあっては私は耐えられない」
「なら獄門院が守ってくれればそれでいいじゃないか。まぁ、どうせ死ぬ時は死ぬんだしどうでもいいんだけど。
それに、万華鏡とは何度も話した事あるけどいい子だよ。面白いし」
「それは妹の『万華鏡朝陽』の事だろう。今回顔を合わせるのは姉の『万華鏡夜姫』だ。ヤツは何を考えているかわからん」
「まぁまぁ、獄門院はそのもしもがないようについてきたんでしょ? それに、獄門院が他の人をそんな言い方するなんて珍しいね」
「それだけ何があるのか分からないという事だ。ヤツは『万華鏡』の中でも特別製だからな、いくら特性がほぼないとは言え何を仕出かすか」
「まぁ、ここで話しててもしょうがないしとりあえず入ろうよ。結論は中で考えればいいんだし」
そう言ってあーのは馴染みの友の家に上がるような気楽さで吸血鬼の城へと足を踏み入れる
私は何か言い返してやりたかったが、これ以上云ってもあーのが聞くとも思えなかったので後に続いた