仕事の依頼
「……………その殺人鬼の名前等が分かるなら教えてもらいたいのだが?」
「知らないよ、そんなの。知ってたら警察が先に捕まえると思うよ。知らない? 今この街で人を殺してる殺人鬼。生きたまま体をバラバラにして殺すってニュースでやってるんだけど」
「えぇ、知っているとも。それで、そいつを殺してこいと?」
「そうだよ、警察が捕まえる前に殺してほしいんだ。出来るだけ残酷に、苦しませて殺してほしい」
「……………つまりお前は、私にその名前も分からない相手を探して殺してこいと言っているわけか」
「……………どうでもいいけどさ、最初と口調変わってるね。そっちが素なの?」
「あぁ、すまん。うっかりしていた、だがもういいか。それで、どうなんだ。お前の依頼とは私が話した通りで合っているのか?」
「そうだね、それで合ってるよ。僕の両親を殺した殺人鬼を警察より早く見つけ出して殺してほしい」
これは、私が予想していたよりも面倒な話になってきた
よりにもよって“殺人鬼”を殺してこいだと?
私がその“殺人鬼”の一人なのだが
「……………分かった、その依頼を受けよう。ただし、場合によってはその依頼を完遂出来ない恐れがある。お前はそれで構わないか? もちろん、金は成功報酬で構わない」
「なんで完遂出来ないんだ?」
「決まっている、私は人以外殺せないからさ。流石にその“殺人鬼”が本物の『殺人鬼』ならば、私には殺す事が出来ない」
「なんだよ、まるでその“殺人鬼”が人間じゃないって言い方だな」
「『人間』ではない、『人外』だ。『殺人鬼』とは立派な『人外』だよ、坊主」
「なんだよ、人外って? 人間だろ、僕もアンタも殺人鬼も」
「いいや、お前は『人』で私は『人外』だ。その“殺人鬼”もどこの誰かは知らないが、私の予想が正しかったならソイツは『人間』だよ。私の力からではどうする事も出来ない。
私はあくまでも『人を殺す鬼』、『殺人鬼』だからな。人以外は殺す事が出来ない」
詳しくは説明はするまい
それを知ったとろこでこの少年が理解出来るとも思えないし、そこまで説明してやる程の義理もない
「……………あぁもう、訳が分からない。とりあえずアンタはソイツを見つけ出してソイツが人?なら殺してくれるんだろ!?
ならそれでいいから殺してくれよ、出来るだけ残酷にさぁ!!」
頭を掻きむしりながら、少年は思考を止めて叫ぶ
理解が追い付かなくなれば人はこうして容易に理解する事を放棄する
助かるには助かるが、それを目の前でされても迷惑だな
「分かった、それでは契約は成立した。お前は大人しくその“殺人鬼”が人である事を祈っていろ。
ソイツが人であるならば殺した後に連絡する。その時はしっかりと金を用意しておくようにな」
早めに話を切り上げ、私は殺風景な部屋を後にする
とりあえずは情報を集めなければ話にならない
まずは、何から始めようか?
「……………とはいえ、アイツに話を聞いて確認しなければならないとなると気が重いな。
あの愚妹、殺すのならば全て殺し尽くしてしまえばいいものを」
もしくは、単純にアイツの犯行を真似た模倣犯という場合もあるのか
「……………ヤツに借りを作るのは少々癪だが、致し方あるまい。アイツに会って話すよりは幾分かマシ、というやつか」
方針が決まったところで、私はマンションを後にする
目指すはこの街を一望する住宅街の奥、この街の人という人に関して最も情報を持つヤツが暮らす洋館
『吸血鬼』の根城だ