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eden-4

 新しい家に来てから数日間は、自分にとって今まで考えられないようないい日々が続いた。

 茉莉と組んで炊事をしたり食事中の騒がしさに久しぶりに家族というものを思い出し、一人暮らしならではの辛さからの開放をされたといった感覚がある。

 思い返せば、まるで寮に入る前のようだ。棚木と話している生活も面白いが、人と会話するタイミングというのはこちらにきて昔と比較するとめっきり減った気がする。

 そんな訳でこの生活は悪くは無いーーそう思っていたが、トラブルが起こるのもまた、早かった。

 自分が悪いとはいえ、アクシデントというものはそうそう回避できるものではない。

 それはルシウス先生が書類整理に忙殺された日でもあり夕食後から1時間ほど経った頃、そろそろ風呂かな、と思い浴室に入った時だ。

 まずは電気が付いてない浴室のスイッチを入れた。だが、誰も居ないと思ったら、何かもぞもぞと動くものがある。服を脱衣場で脱いで浴室に入ったところで、既に誰かが居た事に気が付いたのだ。

「えっ……?」

 すぐさま、肝を冷やした。不注意だ。思えば、なんという失策だったのだろう。

 まさか、電気も付いていないのに人が風呂場に入っているなんて。

 テンプレートのような遭遇だったが、全く意図してないだけにこっちも肝が冷えた。

 慌てて逃げようとした途端、その何かに引っ張り込まれた上にいきなりどんと風呂の冷たい壁に押し付けられる。

「冷たっ」

 ひんやりとした感触を背中に受けつつも、声を出す。

「何者だ……!」

 そう言ったのは、砂羽都だった。頭にシャンプーハットが付いている他は、生まれたままの姿でいる。頭を洗っている最中だったのか、凄く泡だらけだった。

 不注意で自業自得とも言えるが、情けないったらありゃしない。

「何のつもりだ……と、肥後か」

 そう告げる砂羽都は片手で僕の腕を捻り挙げてくる。その力は強く、寮生活で隣部屋だった棚木よりも圧倒的に力が強いのが理解できる。

 胸が、押し付けられる。上目遣いに見てくるが泡がこちらの顔に付きそうだ。女物のシャンプーのローズ系の匂いが、鼻についてくる。

「いやいや、風呂に入ってるなんて聞いてないから。なんでだよ!」

「あぁ? 人並みに貴様も男だったという事か。裸の付き合いを望むのか、童貞が」


「冷徹な声で言われても訳分からんから! 壁冷たいしここから出ていくから離してくださいよ」

 そう弁解するが、砂羽都はこいつは許されないなといった表情をした。

「色々とーー話したいことがある」

 ギリギリと腕が締め上げられる、痛い痛い!

「待ってって、気配に気が付かなかったんだから!」

 色々激しく痛みを感じながらも抗議をする。

 だが、砂羽都は離してはくれない。

「そうか。それでは秘密でも、共有しないか?」

「ーー秘密?」

 一瞬変な考えが脳裏に浮かぶ。

「脈拍が上がったぞ」

「……っ」

 耳元で、そう聞こえる。

「……出したいのか?」

「そ、そんなっ」

「ーー情けない男め」

 ギリッ。

「痛たたたたっ! 伸びる! やめろ!」

 激痛に慌てて身をよじる。

「騒ぐのか、この変態が?」

「変態はあんただろ! 人をからかうのもいい加減にしてくれ!」

「言うなよ? 本来ならお前は私と風呂に入っただけで海の底なんだからな」

「そんな無茶な……」



「……風呂で騒ぐと、近所に迷惑かかりますよー。もう少し静かに……」

 その時、電気が付くと共に風呂の扉が開かれる。

 開いた主は、茉莉だった。

 恐らく砂羽都の声を聞いての事だったろうが。

「え」

 相手からすれば暗がりの風呂の中で、全裸の男と同じく胸を押し付けている女。

 表情は変わらないものの、顔の色が文字通り変わっていくのが見えた。

「ーーうン。邪魔をしたようですね」

 急に電気を再び消し、扉が閉じられた。

「待て!」

 瞬間的に砂羽都が態度を変えて茉莉を呼び止めようとする。が、

「気にしてないので大丈夫ですよ、2時間あればいいですか? 葉桜君やルシウス先生には何も言わないでおきますから、私に任せておいて下さい。最近の保健体育は進んでますね。まぁフランスでは15歳で結婚できると言いますし、これはこれで見なかったことに……」

「違う違う! あーーーーーーー! これは誤解だぁぁぁぁ!」

 ショックを受けた悲痛な砂羽都の声が響き、完全に誤解をされてしまったーー。

 そして一方僕は彼女が落ち込んでいる隙に、離脱を試みる。

 このままでは殺されかねないと判断を、したからだ。

 流石に頭に泡を付けたまま向こうは追いかけてはこずに、砂羽都はそのままぐったりと膝を落としていた。

 僕はその後部屋にもどると、ドアに鍵をかけてさらにバリケードを築いておいた……。





 翌朝、午前7時に5人で家を出て出発する。

「今朝は飯は無いのか?」

 まだ寝ぼけ眼でそういう葉桜君に対し、

「色々夜に書類を消化するのが忙しくて予約炊飯を忘れたからな。だから牛丼屋だ。私は朝から会議もあるしな、流石に初日くらいは皆と登校しないと道を覚えられないだろう」

 ルシウス先生がそう告げ、通り道にあるチェーンのファミレスへと皆で駆け込む。

 一番眠そうなのは、意外なことに砂羽都だった。

「砂羽都さん、眠そうですね? やっぱりアレですか」

 通り道でそうちくりと茉莉が刺すと青くなるが、目を逸らしつつ砂羽都は話題を変えようとする。

「へ、部屋のテレビで深夜番組を見てた。それだけだよ。それにしてもルシウス先生、私の制服はないのか?」

「学校に手配した。到着したら受け取ってくれ」

 ルシウス先生は答えた。

 話題を変えるのは露骨過ぎたが、ルシウス先生も葉桜君もまだ何も気付いてないのが幸いだった。

「ほれ、皆頼め」

 店に入るとルシウス先生が2千円を食券機に突っ込み、皆を急かす。

「朝っぱらから肉はパスだ。ーー脂ものを食べる気はしない。納豆定食」

 砂羽都がまずボタンを押す。

「鮭定食、ご馳走になります」

 茉莉が続いてボタンを押し、

「天丼。特盛でいい」

 さらに葉桜君がボタンを押していく。

「……肥後はどうするんだ?」

 ルシウス先生がちらりと見てくる。

「じゃあ普通のオーソドックスな目玉焼きの定食で」

 僕もボタンを押し、ルシウス先生はちょっとメニューの一覧を見てから、から揚げの定食を押した。

 思えば外食をするのは、久しぶりだった。

「しかし葉桜はともかく、ルシウス先生は朝から唐揚げを食べるのか」

 メニューが届いた後、砂羽都が口を開いた。

「俺は体育もやるからな。朝からある程度腹に入れておかないと、腹がすいて叶わないんだ」

「……先生の昔の職場では小食でも耐えられるようになるという訓練もあると聞いているが?」

「俺は基本的に砲兵科だったからな。身体が資本だから食えるべき時に食っておく習慣が付いているんだ」

 ルシウス先生は首を振った。

「へぇ……しかし脂物を朝からとは、やる」

「俺はまだ若いからな。30を越えたら恐らくこうはいかないだろうが」

 先生は自分の腕を眺め、少し体調に気を使うような素振りをした。



「さて、行くぞ」

 食事も終えてルシウス先生が立ち上がる。だがその時、突然表の方で大声が聞こえた。

「ひったくりだーっ! 財布返せ! そいつを捕まえてくれ!」

「何だ何だ? 騒がしい」

 砂羽都が眉を潜めながら外を見ると、通りの向こう側から人が男を追いかけてるのが見える。治安が元々良く、この殆ど身内しかいない市内でよくやるというものだ。紛れ込んだ余所者なのか?

「ーー撃つか? この距離ならいけるぞ」

 砂羽都が懐に手を入れながら、ルシウス先生に尋ねる。

「いや、俺がやる」

 だがそう先生が言って前に出ようとした時、横から出る影があった。

「先生、ここは私が!」

 それは、茉莉だった。


「……あの距離ならいける」

 茉莉が右腕の袖をまくると、彼女の腕が青白く光るのが見える。

「その手はなんだ?」

 砂羽都が一瞬驚く。

「安寧秩序 以耳題目、有象無象 栄枯盛衰! テレキネシス!」

 だが茉莉は答えずに呪文のようなものを唱えて青白い手を掲げる。すると通り道にあった18時まで車の通行禁止と書かれた歩行者天国の大きな看板が物理法則を無視して飛んでいき、男に直撃した。

「ぐあぁぁぁ!」

「倒れたぞ! かかれっ!」

 犯人らしき男は看板の一撃を受けると転倒し、その直後に周囲の人間によって袋叩きにされていた。

「ひぃぃぃ! ご勘弁を!」

「警察に突き出してやる!」



「……へぇ、すげぇな。念力って奴か」

 その様子を見て、葉桜君が羨ましいなといった感じで声をあげた。

「今みたいのを無尽蔵に乱発出来るわけではないけどね。ーーこの能力のお陰で私はグランフレアに選ばれたの。エンジン内の調整は、私じゃないと出来ないから」

 茉莉はそう言って、皆の方を見る。

「成程、操作能力という奴か。羨ましいものだな」

 砂羽都はそう言うと、食後の口直しに胸元のポケットからシガレットの入った箱を取り出した……。



 教室にはアナスタシアの籠が出来、部屋の窓際に彼女がちょこんと座っている。

 アナスタシアは籠の中で暫く日差しに照らされてぼーっとしていたが、不意にごろっと上半身を起こした。

「皆、紹介をしよう。本来なら昨日のうちにこのクラスに入っているはずだったが、帰国の便が遅れたために今日から登校になった」

「利國砂羽都だ」

 制服をきて恭しく立つその姿は、気品がある。とても家の中や初対面の時の狙撃銃を担いだ姿とは似ても似つかなかった。




 それから一週間の間学校生活をしていて気付いたのだが、利國砂羽都は、思ったより周囲と比較すると頭の出来は飛びぬけていた。

 テストの時でも、2歳年上の葉桜君が頭を抱えているのを横目に、すらすらと解けている。

 本人の性格上猫を被っているとはいえ、その出来のよさから生徒には色々と頼りにされていて、便利屋扱いだ。

 それ故に休み時間のたびに誰かに呼ばれ、クラスから出て行った。

 しかし、こういう学校とて治安というものもある。

 そう、ガラの悪い人間というものもいるのだ。

 その日も棚木の方は昼休みに部活の方で練習があるというので昼休みに葉桜君やアナスタシアと昼食を食っていると、

「葉桜さん! 肥後君!」

 と、茉莉が走ってきた。

「なんだ、妙なことがあったのか?」

 葉桜君は面倒臭そうに茉莉の方を見る。

 すると、

「……砂羽都ちゃんが、中等部に絡まれてるって」

 少し焦った様子で言ってくる。

「……別にあの女なら一人でいてもいいだろ。十二分に処理できる。それに下級生だろ。問題ないだろ」

「その相手が、 九川なの」

 言われたことで脳裏に浮かぶ。

「誰だそれ? 知らんな。外人か何かか?」

 悠然とした表情のままの葉桜君。だが、僕はのんびりとした表情のままではいられなかった。

「……しょうがない、行くよ!」

「えぇ? 面倒だぞ? それに年下だっていうし」

「九川ってのは去年に傷害起こした奴だよ。だったら放っちゃいけないし」

「あー、少年法の弊害か。とっとと厳罰受けりゃいいのに。因みにどんな罪状なんだ? ……そして、俺が言うのもナンだけど学校から退学にならねぇってどういう事だよ?」

「窃盗と暴行。まぁ恐喝らしいよ。何だか暴走族と繋がってて有耶無耶にすませたみたい」

「暴走族? ……そんくらいあいつなら何とかなるだろ」

「えぇ? そうは言っても女の子だしさ……見た目もちっちゃくて華奢だし」

「でも、『酒場』だろ? 暴走族なんて格が違うだろ」

「……葉桜君」

「……あんまり気がすすまねぇな」

「にゃー」

 アナスタシアが小さく、鳴いて右手で突く。多分、従えといった意味なのだろう。葉桜君は溜息をつくと口を開く。

「しょうがねぇなぁ、場所は?」

「6号館の横、体育館の近くの一階渡り廊下……購買のすぐ近くです」

「じゃあ飛び降りるぜ!」

 葉桜君は言うが早く学校のベランダから飛び降りて走っていく。

「葉桜君、此処3階! 誰か真似したら怪我するから止めてよ!」

 だがこちらの抗議は然程効いていない。

「ーー食い足りないからついでに購買行くわ! 飯のついでに暇があったら見てやるよ!」

 そして大声で言うと、そのまま姿が見えなくなった。

「ーー僕も、急いで見てくるよ。心配してないっていうと嘘だからさ。アナスタシア、お弁当見てて」

「にゃん」

 茉莉やアナスタシアに向かって僕はそう言うと走り出した。



「生きてるのか? 砂羽都?」

 急いで数分後に6号館の近くの、言われた場所に僕と茉莉は来る。

 すると、蹴飛ばされた男が一人転がってきた。

「た……助けてください先輩! アイツが!」

 すぐさまスキンヘッドの男が肥後に泣きついてくる。

「あぁ? 喧嘩売りに来てそれたぁふざけてんのか! コラ!」

 するとそこには既に中等部5人ほどをまとめて伸した、砂羽都がいた。

「集団で掛かってきて負けた挙句に人にチクんのか? おぉ? それでも男か!」

「ひぃぃぃぃ!」

 砂羽都の威嚇で男は転がり、逃げていく。

「ーーん、肥後。どうした?」

「いや、砂羽都が心配でさ」

「ーーフン、馬鹿にするなよ。私がこの程度で負ける訳がない。最低でも60式装甲車でももってくるのでなければ私は死なん」

「……やっぱり俺が来る必要は無かったじゃねぇか。面倒なものを」

 その時、うしろから両手に沢山のパンを抱えてやってきた葉桜君が溜息を吐く。

「みたいだね」

 僕も少し苦笑しつつ、葉桜君にそう言った。

「何だお前ら。揃いも揃って過小評価をしてーー」

「貰うぞ」

 こちらの姿に気付いた砂羽都は、呆れてみせながらさっと葉桜君の持っている中から焼きそばパンを取り上げる。

「あ、おいこら! 手癖の悪い女め!」

「あー、うまいな。ん? 私への献上品じゃないのか?」

 そう言い返す砂羽都だったか、既に焼きそばパンは全部食べられてしまっていた。

「このアマ……」

「まぁまぁ、僕が後で買ってあげるから」

 腕をわなわなとさせて怒る葉桜君をなだめようとしていると、



「なんだねこの事態は!」

 いかにも生徒指導をしていそうなジャージを着た教師が、やってくる。

「こいつがやりました!」

 瞬時に葉桜君を指差す砂羽都。うわぁ、ゲスい。

「あぁ!?」

 同時に顔を歪ませる葉桜君。

「ちょっとこちらにきなさい!」

「こっ、こら、てめぇ!」

 教師相手に構えを取ろうとする葉桜君。あー、こりゃまずい。

「待って下さい!」

 その時、茉莉の声がした。

「ん」

 教師が振り返る。

「そこの葉桜君は、この女の子を助ける為にやったんです……」

「それは本当か?」

「ーーいゃ……、あ、あぁうんそうです。助けてくれたんです」

 近くの高さ、10mくらい上に中身の詰まったポリバケツが浮いてるのを見て、砂羽都はすぐに頷く。茉莉の右手が少し発光していたので気が付いたが、危ういところだった。

「ーー情状酌量はしてやる。だが、怪我をさせたのは事実だ。生徒指導室に来い」

「えぇ……マジかよぉ……? 司法の横暴だぜ、国選弁護士を呼んでくれよ?」

「いいからきなさい!」

 教師はそう言うと、葉桜君を引き連れていった。

 葉桜君が歩いてく途中に砂羽都がまたジャムパンだのクリームパンだの袋から甘い物を抜いていったが、葉桜君は睨むばかりで反撃はしなかった。



 結局砂羽都が中等部をのした件の真相は誰にも知らされなかったが、どうやら中等部の不良にも面子があるので事件にはならないだろう。

 同士討ちにみせかけたと砂羽都が言っていたが、流石の身体能力だった。

「てめぇ、俺になすりつけようとしたなこのクソアマが」

 葉桜君は戻ってきたとはいえ結局大量の反省文の山を貰い、今は明らかに不機嫌である。

「プリンの恨みだ。馬鹿にはこれくらいで調度いいだろう」

 それに対しなんでもないかのように砂羽都は、親指を下に向けて煽ってみせる。

「あんな前の事を根に持ってるのかよ……執念深いとか嫌われるぞ?」

 葉桜君は呆れた様子で、アホか、とうんざりしてみせた。


 さて、通常の授業を終えて夕方になると僕達は、ルシウス先生に連れられて新たな授業を受けることなった。

「これから君達には、特別課としての授業も受けてもらう」

 そう言いながらも、僕、葉桜君、茉莉、砂羽都の4人は科学棟に連れて来られる。

「特別課?」

 砂羽都がそう尋ねると、

「あぁ、これはうちの学校の普通科とは違うシステムだ。裏授業と言ってもいい。有用な人物を作るための育成場になる。普通科の生徒が放課後となってから、授業自体は行っている」

 そうルシウス先生は言った。

「……どんな物があるんですか?」

 僕は少し心配になって訊く。すると、

「部門は4つある。そうだな、共通知識として軽く概要だけ言っておこう」

 先生はそう言い、説明を始めた。

「操縦技能部門はまず人型戦闘機だけではなく、ヘリや重機、戦車などの扱い方も学ぶことが出来るという建前になる。始めはグランフレアの操縦者をここから選出しようとしたが適合者がいなかったため、明と砂羽都をここに配属させる事と決定した」

「へぇ」

 相槌を砂羽都が打つ。

「次にPSIサイリンクス部門、PSIによる機械制御を学ぶという目的だが、まだまだPSIの実態が世界的に解明されていないので実験的な意味合いの強い部門だ。過去には何人かの生徒もいたのだが世間に早々いるものでもないので、今は実質茉莉一人だな」

「扱いとして難しいですからね。寂しいですが、止むを得ません」

 茉莉はそう、小さい声で喋る。

「そして、情報統制部門。主に生物Lの出現情報を伝えたり、統計を取ったり、データを作ったりなどバックアップ的な業務を学ぶ。とにかく雑務が多いのでメカニック部門の次に人員が多い。此処に肥後をお願いしたい」

「はい、分かりました」

 僕は頷く。

「最後にメカニック部門、だ。装備の開発、機体の整備などをを学ぶが、機体の製作においては認可されていない。しかし能力があれば設計図面を書き、上部に申請することは出来る。ま、そんなところだ」

「それはそれで面白そうだな」

 最後に砂羽都が、腕組みをしつつ頷いてみせた。

「さて、此処からは担当の引継ぎをしなくてはならんな。明と砂羽都は私の後に付いてきてくれ。茉莉はいつもの教室で、そして肥後はそこの222教室に居れば迎えが来てくれるとの事だ」

 ルシウス先生は科学棟の二階でそうとある教室を指差すと、こちらだ、と葉桜君や砂羽都をつれていく。

「それじゃ、頑張ってね」

 茉莉の励ましてくれる言葉を後に、僕は少し取り残される。

「……この教室でいいんだよな、覚えておこう」

 僕は恐る恐る指差された空き教室に入り、迎えとされる人間を待った。


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