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第二章 「eden」2


 ーー数十分後、結局あのカマキリを発見できなかったグランフレアは学校地下の格納庫へと戻ってきた。スーツはいつの間にか解け、元の服に皆戻っている。

「っち、とり逃したわ」

 葉桜君は舌打ちしながらも、常人なら骨折する高さである機体コクピットから難なく飛び下りて着地する。着地の瞬間に、ドスンと周りから見ても少し床が凹んだのが見えた、

「頑丈だな、アイツ。本当に人間か?」

「さぁ……」

 その後ろから、砂羽都と茉莉もコクピットから黒いワイヤーを使って下りてくる。

 あれが本来の昇降機能という奴らしい。



「ーーとりあえず疲れているだろうが、話は聞いてくれ。まぁ初の出撃としては上出来だ。さて、今後の性能向上の為に機体のカメラとレコーダーの記録をもらわせて頂く。先程のグランフレアの初陣は相応の戦果もあり、なによりスピネルに対しての優位性を証明できた。それだけで満足だ。機体を壊さなかったのも安心した」

 教頭は進み出て戻ってきた3人を褒めると、ふぅと安堵の溜息を吐いた。さらに、ルシウス先生に向かって言葉を掛ける。

「それから……そうだ、ルシウス君。今回の事を考えて追加で数名本社の方からクルーを調達したが、こちらの学校に入るのは明日から数日後にかけてになるそうだ。よって、こちらはこちらでプロメテウス計画をさらに一段進める。君の元知り合いにも少し手を貸してもらうよ」

「了解しました。一層尽力させて頂きます」

 ルシウス先生が頭を下げると、それでは案内の準備をしてきますと言いルシウス先生は何処かへ行ってしまった。

 なんだか二人だけ分かる話をされると、疎外感を感じる。だが、自分のような人間はまだ色々隠されている身分だと理解は出来るので仕方が無い。

「あ、そうだ。葉桜君、預かってたアナスタシアを返すよ」

 話の一区切りが付いたので、僕はとりあえず、葉桜君へアナスタシアを返す。

「ーーありがとよ。いい子にしていたようだな、ほら、来い」

「にゃーん」

 葉桜君が手を広げるとアナスタシアは嬉しそうに鳴いて葉桜君の腕に飛び込んだ。

「よしよし、いい子だ」

 葉桜君はアナスタシアの顎下をごろごろしてやって、褒めてあげていた。

 なんというか……見てて気分がいい。

 僕はそんな葉桜君やアナスタシアを見て、中々いい付き合いをしているな、と微笑ましい気分になった。


「ーーおい」

 だがその時、僕は突然砂羽都に話しかけられた。一瞬だけ鋭い声色になったので緊張する。

「ん?」

 僕は平常心でいようと心がけつつも応対した。何の用だろう。嫌な予感がする。

「お前、何者だ?」

 砂羽都のその口調は、何かを探るようでもあった。彼女は正直、初対面の時の会話からして苦手だ。何かを疑ってこちらに話しかけているようだが、それは心当たりがない。

「えっ? 何者って? ……どういう事かな?」

「あの教師達に目を付けられる時点で、只者ではないと予測できる。言っちゃなんだが、私はお前を何らかの存在であると疑っている」

 目線をあわせてしっかりと、見てくる。

「そんな馬鹿な。 いやいや、ーーその前に君が酒場とかいうのの人間の時点で色々こっちが言いたいですよ。むしろ逆に色々聞きたいくらいです。僕には全く、葉桜君のような力はないですから」

 どういった顔をすればいいのか分からないので視線が痛くて目を逸らしながら、そう返す。事実なんだから仕方が無い。視線を直視していると身動きが取れなくなりそうだ。

「そうか。そのレベルの意識だったか。それならいい。体格も身長こそあるが貧弱に見えるしな。……それにしてもあんた、日本人にしては色素薄くないか。髪もミルクティーみたいな色だし眼も紅茶みたいな色だ」

「生まれつきですよ」

「あぁ、そう」

 だがそう受け応えすると砂羽都はくるりと後ろを向き、胸元のポケットから煙草のようなものを出して咥える。

「ーー此処は禁煙だぞ。それに年頃の人間がそんな行動をするな」

 その姿を見て、抜け目無くその後ろから砂羽都の行動を教頭が咎めた。

 だが。

「フン、私はともかく未成年をロボに載せて戦場に出す似非教育者がよく言う。ーーよく見ろ。これはシガレットだ、オッサンが子供の時からあったろう。煙草じゃなくて市販の駄菓子だ。問題ない」

 砂羽都は教頭に言い返すと、そのまま持っていたものをバリボリと噛んだ。

「ほれ、本物の煙草ならとてもじゃないがこうも食えないだろう?」

「ぬぅ……」

 教頭は痛いところを付かれたのか、少し静かになった。



 それから暫くして、ルシウス先生が戻ってくる。

「人数分のキーの手配、完了しました。これより案内します」

「ご苦労」

「今から案内をする。4人は付いてきなさい、葉桜君 肥後君、寸沢嵐君、利國君」

「私もか?」

 砂羽都が首をかしげる。

「あぁ、この件に首を突っ込んだからには計画に付き合ってもらうつもりだ。それが俺の心情でもある」

「……面白い」

 不敵に砂羽都は笑った。

「それでは、後に続いてもらうぞ。この地下は広いからな、地上に出るまでに迷ってもらうと困る」




 地上に出て少し経ってから案内されて着いたのは、学校から数分歩いたところにある小さな2階建ての家だった。

「何だ此処は?」

 葉桜君が口にする。

「我々の寮だ。正確には民家を学校が買い取って改築をしたものになる。棲家として利用する」

「え?」

 その様子に寸沢嵐以外の人間がえっと顔を見合わせる。

「学校からは数分となる。良い物件だろう?」

「……具体的な設備は?」

 砂羽都が重く口を開く。

「郵便受け・プロパンガス・BSアンテナ・インターホン・フローリング・バルコニー・システムキッチン・バス・トイレ別・室内洗濯置場・独立洗面台・シャンプードレッサー・給湯(ガス)・追い焚き・シャワー・クローゼット・押入・ペット並びに楽器可能。占有面積は92.51m2、それの二階建てだ。一階は私の家になるが、悪くは無いはずだ」

「家賃にしたら田舎でも20万は行くわね。んで此処をどうするの?」

「学校公認でここをプロメテウス計画の前線基地とする。言わば出動のための待機場として管理するという事だ」

「えっ? しかし僕らは……」

「分かっている。利國砂羽都以外はそれぞれ寮の部屋がある。もっとも、葉桜はまだビジネスホテル生活をしているというのもあるしな。肥後と寸沢嵐の本来の寮の家賃については学校が負担する」

「えーと……つまりどういう事ですか?」

「……家を二つ作るという事さ。此処で寝泊りを可能にする、そういう事だ」

 ルシウス先生の言葉が、響いた。

「……え?」

 砂羽都が不意を突かれたような表情をした。

「先生の目的って奴は?」

「無論プロメテウス計画の執行だ。私は学校で教師をしつつ、グランフレアのサポートに回る。だから君達は学生という仕事をしつつ、卒業までの期間でグランフレアを駆ってくれ。卒業後には就職並び進路の世話もしよう」

 明かされた頼みは、予想していたとはいえ大きなものだった。

「……外堀を埋める気かい?」

 その時、砂羽都が口にする。だがそこでルシウス先生は、授業中で見せたこともない得意げな顔をしてみせる。

「生憎だが、そちらのところの親御さんとは上が連絡を取らせて貰った。いい親御さんでね、娘を頼むだそうだよ」

 そしてそう、砂羽都に向かい言い返した。

「はぁッ!?」

 驚いたのは砂羽都だ。

「酒場としての仕事よりも、こちらの企業との付き合いを選択したようだ。君の本来の業務には代理人を立てておくとの事なので問題なかろう」

 自分の過去の異名をバラされた事を内心まだ根に持っているかのようだ。ルシウス先生はそう言った。

「……っち……それならば、いう事を聞いてやる。ただし、お前達と仲良くできるかは保障できんがな」

 砂羽都は意外にも、渋々頷いた。

「お利口なようで助かる」

 落ち着いた調子で、ルシウス先生は言う。

「あんたも食わせ物みたいだね」

 砂羽都が一本取られたという様子で苦虫を噛み潰したかのような顔をすると、

「まぁな。真面目なだけでは公務員は出来なかったさ。特にこっちのような事はな」

 そうルシウス先生は言ってのけた。

「さて、冷蔵庫は二階にもあるが、洗濯機は一階にある。一応相応のスペースは取ってあるが、家具が欲しければカタログがあるからそれで注文してくれ。一人20万の予算はあるからな」

 ルシウス先生はその言葉を聞き問題ないと判断したのか、話を進める。

 ーーしかし、なんだかな。

 僕は周りを見て、少し躊躇をする。

 あの子達とも、住むのか。

 ちらりと、寸沢嵐さんや砂羽都に向かって目をやる。彼女は気が付いてはいないようだが。

「取りあえずは鍵を渡しておこう。二階の部屋を各自で振り分けて分担してくれ」

 ーー玄関に入るとそれぞれルシウス先生から鍵を受け取り、部屋に入る。

 僕は皆に続いて二階に上がると、新しく自室になる予定の部屋のドアをあけた。

 皆もそれぞれ、自分の新しい部屋へと入っていった。



 ーー自分の携帯の時計を見れば、今は夕方の9時くらいになる。

どうせ自分はこちらへの寮生活だから親に連絡する必要などないが、どうにも妙な気分だ。

「……明るい色のシーツと枕カバーでも、注文するかな」

 僕は部屋を見渡してからなんとなしにそう呟き、柔らかいシングルベッドに倒れこんだ。

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