第一章 tikai 2
ーー一時間後の事。
「先程北緯30度1分15.1秒 東経130度50分40.2秒に『生物L』が現れたとの報告がありました。時速120ノットで進路を東北にとっております。規模からして中型クラス、上陸の兆しは未だにないようですがこのままだと厄介です」
「那覇基地からは見逃していたのか?」
会議室では、騒がしくも緊急の重役会議が起きていた。
「彼らの哨戒を掻い潜ったようです。現時点では緊急スクランブルが掛かったので程なく迎撃に入るでしょう」
「……しかし、彼らの能力では倒せるのか」
「……無理ですね。艦対艦誘導弾ではレーダーホーミングですが恐らくジャミングを食らうでしょうし逆に相手の戦闘行動の射程内になります。そしてスピネルの兵装は火力が足りず、戦闘機の20mmガトリングにあと付けのサイドワインダーやらスパローです。これでは足止めが精々でしょう。正直言って国産の人型兵器の空戦モデルは戦闘機に手足が付いた程度のものであり、うちのグランフレアの足元にも及びません」
「そうか。では、うちの機体でいけるか」
「……しかし、Gーファントムは未完成、グランフレアは3号コクピットのパイロットしか決まっておりません。機体のクリアランスも完璧とは言えませんし最悪被弾によって装甲をやられ海に落ちた場合、浸水の恐れもあります。2号コクピットは七海ルシウス先生でも動かせますが、1号コクピットは……」
「その点には問題はない。葉桜 明だ。やらせるまでよ」
「……正気ですか? 今日の今日で。まだ技術員を乗せたほうが動くと思いますが」
「ーーやれるか、ではない。やるのだよ」
「精神論には賛同できませんね。昔の軍人であるキョウジや牟田口と言った先人……いや、陸の愚将の轍を踏む事はみすみすないでしょう」
「しかし、他に手はないのだ。上陸されて兆単位の被害を出されるよりは何億のミサイルで済んだほうがいい」
「……了解です。それならば上陸前で水際撃退をしましょう。もっとも、『生物L』が帰ってくれれば一番なんですがね」
「構わん。帰らなければ強制的にお帰り願うだけだ」
教頭のその言葉が、部屋に響いた。
運命の時は、加速を続ける。物事はくるべくして、来てしまう。
そして放課後、ついにあのサイレンが鳴ってしまう。
僕らの運命を変えた、あのサイレンが。