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エピローグ

 エピローグ


 ーー数日後。僕は入院をしていた。もう5月の頭にもなる時期だ。

 あの後、必死にチャフだのフレアだのを撒いて逃げ帰ったが、一発ノーロックで飛んできたミサイルが掠めた衝撃で僕はコクピット内で頭を打ち、気絶してしまったのだ。

 安静を取るとの事で、僕は一応休むことになったーー。

 白い病院の天井は、殺風景で消毒液の臭いがして、落ちつかない。その日もいつものように静かにしていると、がらりと音を立てて人が入ってきた。

「アスターよ」

「菊城先生」

 薄く化粧をした菊城先生が見舞いにきてくれる。何やらでかい袋を持っているようだ。

「はい、これお見舞い」

 ーーと思ったらやたらでかい鮭とばを差し出してくる。

「お手柄って事で、選別よ」

 そう言う菊城先生は楽しそうだが、入院しているのにこれを貰っても困る。

 ……天然なのだろうか。

「それと、霜田君達からの差出しよ」

 それから、ビニール袋に包まれた何かをどすっとベッドの上に置く。

 少し気になって、袋を見る、が。

「……これ、アレな本じゃないですか。何処で入手したんですか、全く」

「別にいいじゃない」

「菊城先生、教育者でしょうが」

「私は中は見てないから別に何でも問題ないですよ」

 にこやかな先生。ーー全く、霜田め……。

「とりあえず、僕はどうすれば?」

「……発散すればいいんじゃない?」

「真面目な話としてです」

 僕は菊城先生を見る。

「……グランフレアに関してなら、一般生徒には認知はされていないわ。ただ、その前身のフレアの情報は情報統制部門の生徒には教えることになったって感じよ」

「フレア、ですか」

「貴方達の頑張りが私達の教える内容を変える事になる、教科書を作るための今現在を動かしてるのが貴方達だと自覚してくれれば、いいかな」

 菊城先生は意味有り気にそう、諭してくる。

「先生は、何処まで知ってるんですか?」

「一応部門の主任だから大江教頭未満で、ルシウス君と同格よ。機体での君達の頑張りは見たわ。私としては誇らしいくらい」

 菊城先生はそう告げ、ベッドの手すりに乗る。

「はぁ……」

「ただ、これだけは忘れないようにね。強い力は、自覚しないと自分の命を削ってしまう。殴る手の痛さを忘れて壊れないように、さ」

 先生はそれから部屋を出ようとするが、ふと気付いたように立ち止まる。

「近いうちに政府筋とパイプが出来るかもしれない。そしたらスピネルの人に何か言われるかもしれないけど、気を強くもってね」

 心配してくれているかのように言うと、菊城先生は出ていった。



 ーーその日の夕方、また病室のドアが叩かれる。

「はい」

 そう応対をすると、ぶっきらぼうな声がする。

「ほら、飯だ。私が作ってきてやったぞ」

 入院をしている僕の元に、砂羽都が弁当を持ってやってきた。

「砂羽都」

「……どうした、食わんのか、いらんのか?」

 弁当の包みを振り子のようにぶらぶらとぶらさげてみせる、砂羽都。

「ーーありがとう」

「ありがとうございます、だ」

 弁当を受け取ると、謎の強調を受けた。

「ーーありがとうございます」

 だが、好意は受けなければ。

「フン」

 砂羽都はぶっきらぼうな態度で、ブラインドの隙間から窓の外を見ている。

「……」

「……」

 包みを開くと、グランフレアのキャラ弁当が入っていた。……よく見ると構成材料は自分の好物ばかりである。どうやって知ったのだろう。

「美味しそう」

「……さっさと食え」

「……頂きます」

 食べ始めると少し沈黙が、続く。だが、すぐに耐えられなくなって僕から口を開く。

「……みんなは?」

「……フツーにしてるよ。葉桜は猫と遊んでるし、茉莉は放課後の買出し。ルシウス先生は職員会議だそうだ。ローテで3日後まで見舞いに来る」

「……職員会議ってのは、あの、エリザヴェータの事で?」

「ん、そんなもんだな。だが、あの馬鹿なら子分として教育しているから大丈夫だ。特に気にする必要は無いだろう」

 そう、報告してくる。

「へぇ……じゃあ他には」

「玉露という娘と教授は地下に篭って修理だ。教頭は知らん」

 先回りしたかのように言ってきた。……言って欲しいことがあるかのようだ。

「この弁当、美味いね」

「ーーだろう?」

 その瞬間、機嫌を取り戻したかのように砂羽都の顔が明るくなる。

 そう言って欲しかったんだろうな。いや、分かってたけど。

「こんな手先が器用だとは思わなかったよ」

「ーーフン。その、あれだ。ーー料理という物を勉強してみたくなったのだ。この私が他の人間に後れを取ることがあってはならないからな」

 砂羽都はそのままブラインドを人差し指でがりがりと引っ掻き、やがてこちらを見る。

 次第に顔が柔らかくなっているのが、分かる。

「ーーこれでようやく日常って奴が、くるよ」

 そしてそう一言告げると、壁際に置いてある棚木が差し入れで持ってきた週刊誌やルシウス先生が持ってきた桃缶に目線を移す。

「これから一体、どうなるんだろうね……」

「さぁね。僕も、分からないさ。この一ヶ月で色々な事が起きたから」

「……私の方でも、色々調べておこう。さー、そんじゃ、帰るよ。弁当箱は食べ終わったら洗っといてくれ!」

 砂羽都はこちらから背を向けてポケットからシガレットを出すと、口に咥えて帰っていった。



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