eden-6
地下ミーティングにおいてグランフレアのチームに加えてルシウス先生と大江教頭、そして卯月教授という大人達は、それぞれ腕を組んでいたが、話が終わる頃には大人は皆しかめっ面になっていた。
「三人とも、どうしたんだ?」
葉桜君が聞く。
「ーー我々は、どうにもまずい領域に突っ込んだかもしれん」
すると卯月教授が、そう言ってみせる。
「何?」
葉桜君が首を傾げると、
「今まで何処の学者も考えてなかった場所に入ってしまったという事さ」
ルシウス先生も、唸った。
「……とりあえずは、彼女は独房に入れておこう。今出来る事は、グランフレアの修理だ。もしも彼女の仲間がやってきた場合、今のグランフレアでは確実に耐え切れん」
そこへ大江教頭が、話を流す。そして話を続ける。
「先に若者は、帰そう。これで君達は何か食べなさい」
そして懐の中の財布から1万円を出すと、僕に渡してきた。
「ーー大人の話かい? 政府も絡めて?」
砂羽都が口を挟む。
「面倒くさい事になる前に始末するなら、風呂に沈めるなりなんなりするよ?」
「おめー、物騒なんだよ、やめんか」
葉桜君が突っ込む。
茉莉はなんとも言い難い表情をしていた。
「ーーいや、そこの子の扱いについてはルシウス君に任せる」
だが教頭は首を振り、そう提案してきた。
「ーー教頭?」
「別に私にも家族があるだとかいう他意があるわけではない。だが、彼女を表世界に出して脱走でもされたら不味いことだ。それに、迂闊に手札を晒すことは情報アドバンテージの消失を意味する。それに酒場に任せて命まで奪うようなことになっては折角の身柄が無駄となる。色々考えた上で彼女経由で敵の弱点を探れないかと思ってな。そういった命のやり取りについては私よりルシウス君の方が詳しかろう」
「ーー成程、そこまで考えた上ですか。了解です。それではここ暫くは様子を見ましょう」
ルシウス先生は頷く。
「では利國砂羽都。お前がエリザヴェータの監視についてくれ」
「ーー私でいいのかい?」
「茉莉、肥後、葉桜、お前。その中から選べばお前が適任だろう。ただ、さっきも言ったように酒場に売り渡すことは信頼関係の消失を示す。これは最大限の譲歩だ」
「そういうことか。そういうことなら、フフ、了解だよ。まずはエリザヴェータに日本語を教えるところから始めるとしよう」
砂羽都は威勢よく、返事をした。
「私ハ、エリザヴェータ、デス。ムカーシムカシ! オジイサンデシタ!」
一ヶ月もすると、エリザヴェータは本を読むことが出来るようになり怪しい日本語を覚えた。
それにより軟禁のような形になり、独房から僕達の家にへと住むこととなった。
もっとも、家の外には砂羽都の命令で酒場の警備員を雇い、配置することにはなったが。
本音を言えば毎度帰宅の時に怖い目で見られるのは、勘弁してもらいたいとは内心でも思う。
「あのエリザヴェータとかいう女……インコかよ」
葉桜君だけは呆れた顔をしている。
実際連れられてきたばかりの時の彼女はそんな状態といっても差し支えはなく、どうにも間の抜けた感じがした。
アナスタシアを見ても怖がるだとかそんなんであったから、皆少しずつ始まった彼女の異変には、全く気付いていなかった。
だから、そんな彼女が本性を隠していた事は、あの日になるまで気付かなかった。
「私は生物L、いや、Living Dead。人間を、喰らうものだーー」
だからみんなが寝ている間に突然夜中に家の台所で豹変して襲い掛かってきた彼女をみた時は、僕は驚いた。
「はい?」
「耐え忍び生きてきて気付いた。貴様は強くないーー一番弱い!」
そう言いながらも、彼女はフライ返しとスプーンを両手ににじり寄ってくる。
どうにも意図が見えないが、来る気だ。
まさか馬鹿のフリをしていたとは、予想外だった。
「死んで頂きますよ。肥後瑞樹。腕力お化けもドS女もいない今がチャンスなんでね!」
エリザヴェータはさらに間合いを寄せてくると、飛びかかれる位置まで近寄ってきた。
ーーまずいな。いつの間にか気付けば壁に追い詰められている。
そうも思うが、瞬時に策に気付く。
「お前の目的はーーなんだ」
「ーーサンプルを頂くこと。そして……屈辱を味あわせてくれた者への報復!」
言い終えると彼女は飛び掛ってくる。が、この動きは素人だ。
「巻小手ッ!」
腕を瞬時に捻りあげ、床に倒す。
ーー覚えてて良かった、昔棚木に授業の試合の対策として教えてもらったのが、こんなところで役に立つとは。僕には葉桜君のようなパワーも砂羽都のような技量も無いが、これくらいはやってみせるさ。
「ギッ!」
しかし瞬時に飛び起きた彼女は、こっちに迫ってくる。
やっぱりあのカマキリのパイロットという事もあるのだろう。向こうはこっちよりも運動神経がよく、流石に二度は相手をする事が出来ない。
「覚悟っ!」
すぐさま、胸倉を掴まれて床に倒される。
「くっ」
「このまま首の骨を折り殺してあげますよ、肥後。そういうの本望でしょう?」
エリザヴェータがこちらを煽りながら、首を絞めてくる。が、
「あっ、肥後君。また女の子に手を……」
声が聞こえて、ふと二人してその方向を見た。
そこに現れたのは茉莉だった。咄嗟に、腕の力が緩む。
「違うっ、助けて、茉莉ちゃん、こいつは!」
そこまで言ったところで、頭を手で掴まれる。視界が塞がれた。
「えっ、でも……」
茉莉は複雑な顔をしているようだ。早く助けて欲しいというのに。
「気にしないでください。愛の営み、鉄の爪という求愛表現なんです。私は、この殿方が気に入りマシタ」
エリザヴェータが穏やかな声をあげつつも、力を入れてくる。
「頭蓋骨が折れるううう!」
ギリギリミシミシといった音が頭の中で聞こえ、やばさを感じる。このままじゃ死ぬ……! と焦ったところで、一言を思いつく。
「あっ、砂羽都ッ!」
瞬時に、エリザヴェータの後方を指差す。こうなればこの言葉で動揺して怯んだ所を逃げ出すしか……。
「引っ掛かりませんよ! 無駄だ!」
するとエリザヴェータが立ち上がり後ろを向いたがーー
「あぁん?」
そこには、言葉どおり砂羽都が戻ってきていた。……僥倖だ!
「ハ……ハラヘリマーシタ」
ぎょっとしたエリザヴェータは瞬時に、片言になる。
「誤魔化されると思っているのか? さっきから見てたぞ?」
だがそこへ砂羽都が、歯をむき出しにしながら詰め寄る。
「ナンノコトデ」
目を白黒させるエリザヴェータ。しかしその腕を問答無用で捻り挙げる砂羽都。
「ぎゃあああああ! ウップス! Чёрт возьми!」
じたばたするエリザヴェータだが、やがて大人しくなる。
「すまんな、肥後。少し再教育してくる」
「イヤァァァ、小生イヤァァァ」
エリザヴェータは、そのまま砂羽都の部屋へと連れ込まれていった。
「この泥棒猫が!」
「オァァァーッ!」
すぐに奇声が聞こえたが、気にしないようにしておこう。
「とりあえずこれで従順になるだろう」
1時間後くらいに、砂羽都は自分の部屋から出てきた。
「何をしたんだ?」
厭な予感を胸の中にしまいつつも小声で耳打ちを、する。
「ん、後手にアイツの手を縛って乗馬マシンフルパワーだ。酔うぞ」
「……吐くだろ」
「吐いたら時間を倍にすると言ってある。まず心を折る事が先決だ。ーー背後から攻撃されたら、厄介だろ?」
すると砂羽都は、意地悪い表情でそう囁いてきた。
ーーつくづく、敵に回したくない女だ。
「それにしても、僕を信頼してくれて助かったよ。ありがとう」
「私はチョろくないのでな。無駄だ」
砂羽都はフンと荒っぽく言ってのけると、大股で自室に帰っていった。
「私ふぁ、いや、私は侵略者です。オ許し下さい」
次の日の朝、見るからに顔色の青白いエリザヴェータは土下座をしてきた。
「反省は出来ているようだな、結構結構」
そう告げる、砂羽都。
「何やら話すことがあると聞いてみれば……おめーも悪趣味だな」
何があったのかアナスタシア経由で聞いていたという葉桜君は、若干引いていた。
「葉桜ボーイに肥後ボーイ、伝えることがあります」
エリザヴェータがそう言った瞬間、
「ふざけた言い方するな、もうバレてるんだよ」
まず後ろから砂羽都がエリザヴェータの頭を叩く。
「めぶっ!」
「……続けろ」
「痛い……。私は以前、自分が組織の下っ端であり、人攫いにきたと言いましたよネ」
「あぁ、そうだね」
僕は頷く。
「そして私、思い出したことがあるんですヨ。もしも私が撃墜された事を確認したのなら、40日後に小隊を回してこちらの海域に出るって指令があった事を」
「ーー何だと? 何故そんな重要なことを言わなかった!」
砂羽都がエリザヴェータの襟首を掴む。
「うわー、暴力反対! 忘れてたんでス! 人間あるでしょう、提出物とかよく忘れるノ!」
「言い訳がましいぞ!」
砂羽都は半ギレ気味に吐き捨てると、携帯を取り出して何処かに掛ける。
「砂羽都、どうするんだ?」
「ドィムュパの数を揃える。今から出来ることなどタカが知れているが、無いよりはマシだ」
すると砂羽都は、そう言ってきた。
「ーーで、その40日後ってのは?」
茉莉がエリザヴェータに問いかける。
すると。
「殴らないで下さいネ?」
「あぁ、分かったよ」
「ーー今週末デス」
震え声の直後に砂羽都の繰り出した殴打が響いた。
「グランフレアは改良により、改良型ショックアブソーバーと新式のモーターを埋め込みスペックが向上している。具体的にはモーターの最高効率が上昇している事で、動きが少しは軽快になるはずだ」
強襲に備えて待機をしていると卯月教授の声が、インカムから砂羽都達に入る。
「弛まぬ改良行為、有難いです」
茉莉は液晶パネルをタッチしながら、そう返事をする。
「仮設レーダーサイトを設置したワッフル後藤……酒場の下っ端からの返答はいまのところなし。出撃待機姿勢のままで大丈夫だ」
バリボリとシガレットを噛み砕きつつ砂羽都が言う。
「あぁ、こっちから見ても異常は無いよ」
僕は彼らに向かい、そう言ってやる。
僕の後ろには、椅子に縛られて拘束されているエリザヴェータがいた。
だがーー。
「自衛隊の基地がスクランブルした様子。定期哨戒機が目視で何か見つけた模様だ」
ルシウス先生がそう通信を送ってくる。
「レーダーは……アテにならんか」
卯月教授は唸ったものの、出撃の準備を仕出す。
ルシウス先生の報を受けて、僕達は急遽計画を変えて出撃をすることにした。
地鳴りのような音が聞こえる海上を、グランフレアはコンテナを背に担ぎ飛んでいく。
「厭な予感がする」
茉莉の感覚を頼りに機体は進み、日本本土から数百キロのところまできていた。
「ーー破壊されたEー3を発見した」
突然、砂羽都が声を出す。
言われて目を凝らしてみれば、海に浮かんでいる飛行機の残骸がある。
「もしも脱出をしていたのならば彼らを見逃すには忍びない。匿名で救援電報を打とう」
そして独自に、信号を発信させた。
「ーー優しいんだな」
それまで黙っていた葉桜君がそう言う。
「彼らには昔阪神大震災の時に、助けてもらった覚えがある。眉毛という邪魔が入ったが、それでもやってくれた恩は忘れない。それに他に理由を付けるならば私だって人の子だ。人でなしじゃない。それにーー仇くらいは撃ってやらなきゃならないと思う」
すると砂羽都は、そう返した。
「10時、敵発見!」
5分ほど後に、3体の生物Lを発見する。
3つともまだ卵型で、所謂繭の状況のようだ。
「羽化される前にやるか」
「だな。やるぞ葉桜! 私にコントロールを!」
「あぁ!」
「ジャベリンランチャーで消し飛べ!」
新型戦闘車両に搭載された20連装のジャベリンを転用したミサイルコンテナが火を噴き、直後に8.4Kgのタンデム成型炸薬弾頭が雨のように撃ちだされて突き刺さる。
だが衝撃は起こるものの向こうの繭には傷は付かず、こちらの攻撃を馬鹿にするかのように奴らは鎮座するだけだった。
「所詮は装甲車用の武器かな、威力が足りないみたいだね」
玉露が唸る。
「っち。ならば!」
砂羽都は46cm砲をコンテナから出すと、空中で構えて繭の一つへと3点連射でぶっ放した。
「皆中。……だが、奴らは起きたようだな」
砲塔の連射を受けた繭は緑色の液体を出し、それに呼応するかのようにほかの二つの繭も変態を始める。
「3対1か、まずいな」
砂羽都が呟く。
「いいや、3対4だ。肥後、サポートを頼むぜ」
すると葉桜君がそう続けて、こちらを意識してきた。
「あの……」
その時、僕の後ろでエリザヴェータがもごもごと口を開く。
「何だ?」
「恐らくあの小隊は私の直属の上司です。うちのカマキリより断然成長率は高い個体なので、……言っちゃなんですが、死にますよ。貴方の仲間」
遠慮がちに、そう言ってくる。
「ーー生憎俺は死ぬ気はないんでな」
聞こえたのかそれに対し、葉桜君は自信ありげにジェットアックスに持ち替えて構えをとってみせた。
「敵はヒトデに、カニに、……ライオン? 猫科の何かみたい」
繭から出てきた物に対して感想を漏らした、茉莉の声が聞こえる。
「言われてみればそうも見えるな」
砂羽都が同意してみせた。
「ま、なんであろうとーー死んでもらうだけだ!」
だが葉桜君はグランフレアを突っ込ませると、まずはヒトデ型ロボを一閃し、次にカニ型ロボの脳天からアックスを振り下ろして脳天をかち割った。
「ーーほら見ろ、まだエリザヴェータの方が強いじゃねぇか」
葉桜君は余裕を見せながら砂羽都に得意げになってみせる。だが、
『少々やるではないか』
突然回線に割り込んできた聞きなれない声に、全員がぎょっとした。見ればグランフレアのコクピットに、映像が転写されている。
ミディアムパーマの男で、年恰好はルシウス先生とほぼ同じくらいだ。
「あれはーー」
エリザヴェータが驚いた表情を見せる。
「知っているのか?」
「うちの主任です。勇猛さを表現する『ルブルム』勲章持ちのセルキオス。あのライオン型メカ、『レオーガ』のパイロットでス。正直まずいですヨ。私のあの人とのキルレシオは1:280ですから」
「ーーどういう意味だ?」
葉桜君が砂羽都に尋ねる。
「解説をしてやろう。あのエリザヴェータが模擬戦で1回奴を倒すまでに280回死んでるって事だ」
「ーー成程、つまり多少強いものの倒せないって訳じゃないんだな?」
葉桜君は余裕ありげに聞いてみせる。
「……レートを聞いてそういう反応する奴初めて見たわ……馬鹿なのかなんなのか」
「だってよ、あのカマキリの性能でやれたって事だろ? ならまして強化を受けたグランフレアでやれないことは無いだろ。この一ヶ月でこっちは機体性能も錬度も上がっているんだ」
力付けるように葉桜君は笑った。その表情には心強さがある。
「ーー私の画像を、送れますカ?」
エリザヴェータが言ってくる。
「ーー大江教頭」
判断を先生に仰ぐ。
「構わんよ、試したいこともある」
教頭の許しが出たので、画像を送ってやる。
「ーーセルキオス主任」
「っ! ーー堕ちたか、エリザヴェータ」
エリザヴェータの状況を転写してやると、セルキオスは忌々しそうにモニターをねめつけた。
「ーーこちらは正直、人質を取るという考えは持っていない」
奴に対して大江教頭はそう告げる。
「ほぅ?」
すると、セルキオスという男はそう興味を示してきた。
「だが、知りたいものだな。何故に君達が人類に牙を向けているのかを。エリザヴェータのいうサンプルの必要性……云々の話も含めてだ。武人と見込んでの話だ」
教頭はそう言った。
「面白そうではあるが……俺達は貴様達とは価値観が違う。俺は貴様達人間の倫理というものを学んだが……国民性が違うと端的に思ってもらいたい。そこに捕らえられたエリザヴェータは救出対象ではなく、敵に捕らえられた愚か者の扱いだ。せめて、本国にバレる前に殺してやる」
「……生命の扱いが軽いのか」
少し驚きつつもルシウス先生が尋ねる。
すると馬鹿にしたようにセルキウスは言い返してきた。
「人民の価値なぞそんなものだ。むしろ貴様らのようなものこそこの地球上で見たら少ない、異端者であろう。綺麗ごとを言い、品行を重んじる。だからこそ、狙いをつけたのだがな」
「何?」
「貴様達の中に後ろ盾があるならば言っておこう。当方の目的は『人間』だ」
「人間だと?」
「あぁ。『人間』だ」
「ーーそれは労働力として、という事か?」
砂羽都が尋ねる。
「いいや、違うな。ーー貴様達のところに、酒や煙草といったものがあろう? まぁいい、嗜好品だ」
「それがどうした?」
「我々のようなタイプの生物が好む物ーー所謂酒や煙草に位置づけられるものは、他の生物から摂れるのだよ。貴様達人間が必須アミノ酸と呼ばれる物を体内で自力生産出来ないようにな」
「何?」
「そして我々は様々なサンプルを解剖した研究の結果、YAP遺伝子を持つ、貴様達から我々にとって相性のいいものが取れることを見つけた。よってーー刈り取らせてもらう」
「ーー遺伝子を刈り取るだと?」
「ーーおっと、知能が足りなかったか?」
セルキオスという男は、この程度なのかといった調子で言ってくる。
「ーーぱぱん、どういうこと?」
玉露が卯月教授に尋ねる。
「DNAについては専門外だが……、性染色体で女がXX、男がXYだとかいうのは学校で習ったろう? お前も理系だからな」
「うん」
「生物の細胞を構成するミトコンドリアDNA……それは人の流れを調べる時に必要になるもので、世代を重ねると母親から子供に遺伝するといわれている。もっとも、例外もあるとは聞いたが。それを調べるのと対になる物で、Y染色体のマーカーというものも世代を重ねると父親から息子に受け継がれるんだ。それを調べていった20種類の区分を、Y染色体ハプログループという」
「ハブログループ? んー、難しい。分かりやすく言えない?」
「分かりやすく……か。難しいがやってみよう。この島国である日本の人間はその区分方法によると、古代からハプログループD系統とされ、大陸などとはやや遺伝子の傾向が異なっていると言われていた。言わば地球上で限られた地域でしか発現がされてない希少な遺伝子の要素だ。もっとも今の時代では国際結婚などが進み、遺伝子の間の区分は膨大に広がってしまったが」
「へぇ……」
「……どうやら、分かるらしいな。紳士よ」
セルキオスが頷く。
「ぱぱん、紳士って言われたね」
「嬉しくは無いさ……」
卯月教授は首を振り、セルキオスの方に尋ねる。
「だが……アンタは人間を要求するという事は、その嗜好品という事か」
「あぁ。機械で取り出させてもらうだけだ。なぁに、ちょいと歴史を調べさせてもらったが昔なんて漢方薬とかいうもので赤子が薬になっていたと聞くだろう? 人間同士も飢饉になれば共食いもしていたと聞くし、それに比べればなんてことはない。まして同属ならまだしも、我々は貴様達と同じ人間じゃないんだ。そう考えれば、気分は楽になるだろう」
「……何? そんな事が許されるとでも思っているのか」
その時、砂羽都が口答えをする。
「許す許さないではない。死んでもらうだけなのだ。先程撃墜した飛行機の乗組員も、護送は済ましてある。ーー今頃、丸薬になってるかもしれんな?」
「それがお前の、言いたい事か……!」
「異種族の他人がどうなろうと、心は痛まんな。気分一つさえ変わらん。第一貴様達人間でさえも同じことをやっていると聞くぞ。年端もいかない女子供を拉致して、売り飛ばす。今の時代でさえもこんな事をやっているとはな。まして、そんな事をしている同属を裁けない貴様達に、我々がどうこうと言われる筋合いはないさ」
ーーそう言った瞬間、砂羽都の目付きが変わった。
「……っ!」
「悪いと思っているのならば、正しき方向に導いて地域丸ごと焦土にすればいい。自浄ができない、膿を摘出できないというならば、ここで人類には終わってもらおう」
「ーー葉桜、やるぞ。胸糞悪い」
不快感を露にした砂羽都の声が、セルキオスの話を遮ってコクピットに反響する。
「あぁ。流石に俺でもそんな話を聞いちゃ黙っては居られないぜ!」
瞬時にブースターを噴かしたグランフレアが、レオーガに肉薄する。
機体は奴の斜め上に飛び、武器が構えられる。
「でぇぇぇぇりゃああ!」
そしてブースターで威力を増したジェットアックスが、レオーガに振り下ろされた。
ーーだが。
「おいおい、期待外れなんじゃないのか?」
斧の刃が、レオーガの腕についたライオンの大顎のような装備で受け止められている。
「ーー白羽取りだと!?」
葉桜君が目を丸くする。
「チッーー牽制を行う!」
だがそこを独自の判断で動いた砂羽都が、頭部機関砲で追撃を仕掛けた。
「弱いなぁ!」
しかしセルキオスは余裕の顔で、レオーガを動かす。
「離れなさヰ!」
エリザヴェータが叫ぶ。
「でりゃあ!」
するとジェットアックスが、横に叩き割られた。
「アックスが折られた! なんてパワーだ!」
グランフレアは牽制射撃をしながらも飛びのく。
「パワーだけじゃないぞ? ……リビングデッドシステム発動ォ!」
だがセルキオスが笑いながら声を出すと、グランフレアの近くで倒れていたヒトデ型ロボとカニ型ロボが震えながら動き出した。
「何だと?」
「セルキオスは、指揮下にある下位の無人機体を超能力で操れます。ーーそれが彼の強さなのでス!」
エリザヴェータは言った。
「ーーべらべらと喋ってくれる」
「主任が勝ったらどの道私の命はないじゃないですカ。だったら何でも言いますよ」
「現金だな。だがこの私の随伴機、ヅカワ二イとヒデスタートが合体したらどう思う?」
「そんな事が!」
「出来るんだよ。こいつらはそう育成してある」
セルキオスが言った瞬間、ヒトデ型ロボとカニ型ロボが縦にくっついて合体する。
「名付けてヅワイスター……パワーは保障ものだ。こいつの馬力でパイロットごとアルミ屑のようになっちまいな!」
ヅワイスターと呼称された合体ロボが、グランフレアに迫る。
「でけぇ! こちらより10mは高いぞ?」
葉桜君が驚きつつも、ブースターを吹かし距離をとる。
「逃げるのか!?」
そういう砂羽都。
「馬鹿野郎、この前のカマキリみたいに中枢に喰らったら洒落にならねぇんだよ!」
そう言った直後に、ヅワイスターは距離を詰めてきて拳を振り上げた。
「っち! ドリルシールド……ぐおおおおお!」
グランフレアはシールドを構えるが、その上から殴られて200mは吹き飛んだ。水飛沫をあげ、相当の反動を伺わせる。
「クソ、馬鹿力が! ……おい、砂羽都?」
一瞬無くなった反応にぎょっとする葉桜君。
だが少しして砂羽都ははっと目覚めた。
「……っく、すまない。一瞬意識が飛んだ。茉莉、ダメージは?」
「モーターが改良されてたのもあったし、今の受け方が最上だったみたい。駆動には数パーセントしか被害はないよ」
茉莉はそう言って皆を落ち着かせる。だがーー落ち着きはクルーの方にはあっても、バックアップチームの方には無かった。
「まずいよぱぱん」
「……うむ」
卯月親子がそう言いあう。具体的にどれほどの深刻さかは分からないが、敵の強大さだけは理解が出来た。
「ーー教頭」
「うむ、Gーファントムを使うしかなかろう」
二人はそう顔を見合わせる。
「それって前に言っていた……」
僕は先生たちの方を見るが、その瞬間にインカムから大声が聞こえた。
「ぐうぉぅぅぅ!」
グランフレアの計器に取り付けられているダメージチェッカーの一部が赤く表示される。
どうやら二対一で、嬲られているようだ。
「ド畜生が! 機体パワーさえあれば押し返せるものを! 防御してもダメージを喰らうんじゃ話しにならねぇ!」
葉桜君が叫ぶ。
グランフレアはヅワイスターという機体の大鋏をヒート十手で弾き、ローキックをかますが向こうはひるむ様子も無い。
「フハハハハ! クラッシュバイトォ!」」
それどころか、背後からレオーガのタックルを受けて海中へと叩き込まれた。
「ぐぅぅう!」
「クソ、無闇にダメージを受けると浸水しちまう」
葉桜君は悪態を付きながら海上に上がる。だが、そこに出待ちしていたヅワイスターの鋏を横薙ぎに喰らい、グランフレアは左腕を肩口から吹き飛ばされた。
「んがっ!」
「ーー左腕ロスト!?」
茉莉が驚いた声を出す。
「やかましいわ! こっちだって真面目にやっている!」
葉桜君が怒りながら、頭突きをかましてヅワイスターを転倒させる。
「ーー機体スペックが圧倒的に違うのだよ。そろそろ投降した方がいいのではないか?」
「黙れッ!」
セルキオスの声に、葉桜君は吐き捨てた。
「ーー肥後君、君の出番だ」
その時、ルシウス先生が僕の肩を叩いた。
ーーそれで、役目を改めて思い出す。
戦術総合支援システム、Gーファントム。それはグランフレアをフルパワーで使う為の、最終兵器。
僕はそれについて大分前、玉露に初めて聞いた時の事を、ゆっくりと思い出す。
「グランフレアとは……どういったマシンなんだ?」
「簡単に言えばコンセプトは強襲人型兵器です。生物Lに対し強引に人間が攻めるという目的の為、準戦闘機クラスの機動力と航続距離、さらに46センチ砲を装備する事で大艦巨砲主義の時代の戦艦の火力を両立させているのです。しかもそれだけの巨体を賄う為にグランフレアは動力としてスペリオルクリスタルというものを積んでいます。背中のバッテリーパックにあるものです」
頼ってくれた事が嬉しいのか、タブレットPCを使いこなしながら玉露は説明をしてくる。
「成程」
「それが現在の状況なのですが、グランフレアにはパワーアップの余地を残してあります。後付けでさらに背部に高純度クリスタル内蔵のブースターユニットを積むことでそちらのエネルギーを回し、一時的に性能を向上させる事が出来るのです。常時と比較すると被弾面積も上がりステルス性が落ち、デッドウェイトになるので装備してはいませんがね。それが、Gーファントムです」
「へぇ……」
よくは分からないが相槌を打っていると、卯月教授が話しかけてきた。
「君。スーパーフォーミュラ、というものを知っていますか?」
「あぁ、2013年から始まったレースでしょう? 全日本選手権の。格好いいですよね。ファンですよ」
僕は返事をする。
「システム的にはあれのオーバーテイクボタンに似ているものです。限られた短時間だけのパワーアップですよ」
「……成程」
理解が出来た。そういった仕組みか。
「ーーGーファントムとはどうやれば起動するんですか?」
記憶の中から戻ってきた僕は、ルシウス先生に尋ねる。
「今からやる。舌を噛まないようにしなさい」
「はい? ーーってうわっ!」
ルシウス先生が言うと、視点が一気に低くなる。自分に起こった事にびっくりしていると、突然僕の席が下に落ちていった。
「……大丈夫かね?」
ルシウス先生の声が聞こえる。
やがて降下が止まると、薄暗い空簡に放り込まれる。周囲を見ると、何かの計器がびっしりと並んでいた。
「は、はい」
驚きつつも僕は頷く。
「これは君にしか出来ない事だ。君が今居るのは、Gーファントムのコクピットになる。君は今からGーファントムを使い、グランフレアと合体をするのだ」
真面目な声でルシウス先生が言ってくる。
「……えっ!?」
「Gーファントムとは本来のグランフレア自身だ。むしろGーファントムがあってこそ、グランフレアが作られたと言っても過言ではない。調整が難しい機体なのでずっとメンテナンスに費やしていたが、君なら出来る」
「ーーでも、今から言っても間に合うとは限りません……」
「Gーファントムとは高位次元からの落し物だ。強度もあり、今機体の下にある量子カタパルトで飛んでいける。グランフレアの使用するジェットカタパルトなどと比較できないスピードでな」
大江教頭がそう、告げてくる。
「でも……そんな機体……僕が……」
「どういう訳かは分からないが、君が必要なのはそういう事だ。Gーファントムには遺伝子照合によるジャマープロテクトが掛かっていた。ルシウス君では妨害を受けてしまい、操縦が出来ない。学校の健康診断で使った幾人もの生徒のデータをジャマー突破の為に使ったが、適合率の一番高いのが君である。その適合率が、29%。よってそいつを操る事が出来るのは、今のところ君だけだ。合体したまま使うのならば君をグランフレアのパイロットに選んでいたというのは、これが理由になる」
「やってくれるか?」
ルシウス先生が聞いてくる。
「……了解です。僕がやらないと皆が死ぬなら、やってみせます。僕が行くことで葉桜君、砂羽都、茉莉。あの人達が助かるならいきます」
「よくぞ言った。ーー頼むぞ」
「ーーはい」
コンソールを握ると、Gーファントムが反応する。
触るだけで操縦方法が分かるのなら幸いだが、そんな都合のいい事は無い。
「操縦体系は未知であるが、それを握り、念じることで機体が微速前進、後退が出来る。君がするべき事は、場に到着したらグランフレアに接近し、コクピットの左側にある赤いスイッチを押すこと。少し硬いボタンではあるがそれでグランフレアに無線誘導で合体できる。極力シールを貼って直感的操作で動かせるようにはしたが、不親切なところは我慢してくれ」
「ーー了解!」
Gーファントムはその声に呼応し、ライトを付ける。
「量子カタパルトの準備は完了だ。向こうに到着するまで3・4秒。発射2秒後に減速しなさい。集中しないと意識を持ってかれる。言葉を終え次第打つぞ」
そういうルシウス先生の声。
「ーー宇宙まで飛び出しそうですね」
「そうかもしれないな。では行くぞ。幸運を祈る!」
ルシウス先生の言葉を聞き終えた瞬間、機体が急加速して離陸し、一気に体重が重くなる感覚を得た。
ーー時が、止まったかのような感覚を得る。
周囲の景色が一気に流れるように過ぎ、空間から切り離されて自分が一人でいるかのような状況になる。
あぁ、遠い昔に世界で初めてスカイダイビングをした人間はこんな感情を得たのだろうか。
怖いし、落ちればバラバラになるという恐れもある。
スピードが高まったという自覚で、脳が高まっている。
ーーしかしふと、グランフレアの記憶が浮かぶ。
そうだ。僕は戻らなければ。
《ーー止まれ!》
そう念じた直後に、機体と身体が急激に重くなる感覚がした。
周囲の景色を見ると、爆発的に周りが動き、いつの間にか下には大海が広がっている。レーダーを見れば機体はグランフレアから30キロ程の場所にまで来ていた。
手汗がじわっと湧いてきて、現実に引き戻される感覚がある。
「ーーよくやった、肥後君。誤差は少ない、初めてでそこまで扱えれば素晴らしいぞ。君のGーファントムが牽引するコンテナにグランフレアの予備腕がある。いますぐ行くのだ」
大江教頭の興奮したかのような声が、耳に届いた。
「了解」
褒められるのは嬉しい。だが、行かないと。
僕はすぐに、グランフレアとヅワイスター、そしてレオーガを目にする。
ーーグランフレアは既に胸部の装甲と肩のマシンキャノン、頭のアンテナも欠損し見るも無残な状況になっていた。
「ーー無事なんですか?」
ルシウス先生に無線を送る。
「大丈夫だ、3人ともストレスはあるが健康状態に問題は無い。回線を繋ぐ」
すぐに先生側から声が掛かってきて、僕は安心した。
「肥後!」
Gーファントムのコクピット内に映像が写る。すると渋い顔をした砂羽都や少し焦りの見える葉桜君がこちらに反応してくる。
「……何だ貴様は!」
割り込んできた姿にセルキオスは不快そうな顔をする。
だがーー。
「コンテナを外して飛べ、葉桜! 肥後のマシンと合体だ!」
「合体? いいぜ、やってやる!」
ルシウス先生の声を受けて飛んだ葉桜君、その背部に出来たコネクタに減速したGーファントムを接続し、赤いスイッチを拳で思い切り押し込む。
ーーすると、突然グランフレアの全身が輝きだした。
『転送システムオールグリーン 機体修復を開始します』
そんな文字列がスクリーンに表示されると同時に、Gーファントムに接続されたコンテナから沢山のパーツが空中に広がる。それと同時に、Gーファントム内のコクピットに新たなレバーが浮き出てくる。
「ーーなんだこれは!?」
その状況が把握できる者は、グランフレアの中にいるものではいなかった。
グランフレアの肩口が光ったかと思うと、元の腕が再生する。
そして、マシンキャノン、頭部機関砲とどんどん機体が元通りになっていく。
「これは……」
宙に浮いたパーツ群を眺め、大江教頭が感嘆の言葉を吐く。
「ーーいまだ、肥後君! 葉桜君!」
ルシウス先生の後押しが掛かり、僕は目の前に出てきたレバーを押し込んだ。
『究極合体シークエンス起動』
パネルにそう表示されると同時に、グランフレアが急上昇する。
「うぉっ! 勝手に動きやがる!」
葉桜君がそう驚いた事で、これが自動操縦だと分かる。
パーツ群の中にグランフレアが飛び込むと、瞬時に回りに浮いていたパーツが頭に、肩に、腕に、足に、胸にと纏わりついてくる。
巨大な腕が装着され、下駄を履き、プロテクターのように一回り巨大になっていくーー。
「……何が起こっている?」
砂羽都も現在起こっている事が判断できないかのようで、驚いている。
ーーだが、数秒後にそれは終わった。
グランフレアを包む装甲、それは新しい力だった。
『グランフレア・劫火』
パネルにそう表示される。
「グランフレア・ゴウカ……」
僕はそう口にする。
「機体出力が上がっている……! 信じられない!」
その時、茉莉の声がした。
「どれくらい上がってるんだ?」
「……3っ」
茉莉は自分の目を擦りながらも、そう言ってくる。
「3倍!? そりゃすげぇ」
その声に葉桜君が驚く。
「いや、違うよ。出力が3乗なんだよ、これ!」
だがその声を遮って、茉莉がそう告げた。
「3乗!?」
瞬時に基地に居た玉露や卯月教授も度肝を抜かれたようでそう口にする。
「どういう事でス?」
エリザヴェータが意味を理解できてないようで、玉露の肩をつつきながら尋ねる。
「ーー3乗っていったらあれだよ。3倍なら元の力が3なら9になるけど、3×3×3で27倍みたいな考えだよ。要するに無茶苦茶なパワーアップって訳」
「単純に考えれば120万馬力のグランフレアが……1,728,000,000,000,000,000馬力と化しているという事だ」
便乗するように卯月教授がそう言うと、改めて場がぞわっとした空気になった。
「エ? 百七十二京ッテ……」
エリザヴェータは一瞬息を呑んでから、もう一度計算しつつ聞き返す。
「百七十二京八千兆馬力? なんですそレ!? 非現実的ナ!?」
「Gーファントムには、それだけのものがあるのだ。我々はグランフレアという身体を通してそのパワーの一端を引き出しているにすぎん。むしろ、企業製作であるグランフレアという身体だからあの程度で済んでいるのかもしれない。基礎段階からもっと強い機体ならば、破壊神にもなれるだろう」
教頭がそれに対し、エリザヴェータへ向かって言った。
「ーー面白い。我々の相手になってなかったそのロボが、私に勝てるとでも?」
セルキウスはその様子をみて高笑いをする。
ーーだが、葉桜君はその様子を見て逆に微笑んだ。
「いいじゃねぇか、こっちこそ楽しいぜ。これで対等にやれるんだな?」
「計算上は攻撃を繰り出すだけで以前のモーターならグランフレアが崩壊します。でも、今のショックアブソーバーの性能を限界まで作動させて時間制限付き、とすればあるいは」
茉莉が葉桜君に告げる。
その時、グランフレアの中にあるGーファントムの僕のコクピットに、文字列が流れた。
『グランフレア・劫火は登録されたあらゆる火器を転送により使用可能』
そう書かれ、次にジェットアクス・46センチ砲・ジャベリンミサイル・ドリルシールド、マッスルソーなどといった今まで登録した武器の一覧が出る。
「ーーそうか。これで召還する事で戦況に応じたサポートをする、それが僕の……役目だったのか」
瞬時に察した僕はタッチパネルを押す。
「葉桜君、ジェットアクスを!」
「ジェットアクス? 壊されちまって無いぜ?」
そう返事をする葉桜君だが、瞬時にグランフレアの両手の中にジェットアクスが再生成された事に目を丸くする。
「うぉ!? どっから出た!?」
「……いけるかい?」
そこで、念のために訊いてみる。
「ーーあぁ、任せな。砂羽都、支援を頼むぜ!」
「ーー了解。こっちはマシンキャノンの火力があがってるみたい。これならやれるよ!」
コントロールを取り戻したグランフレアはジェットアクスを二本構えると、ヅワイスターに突っ込む。
機体のパワーは未知数。これほどの能力があれば倒せる!
「ヅワイスター、捻り潰してみせろ!」
セルキオスが命令し、ヅワイスターが両の鋏を振り下ろしてくる。
「吹き飛べァ!」
だがグランフレアは両方の鋏をジェットアクスで砕き相殺し、
「でやぁぁぁぁ!」
さらにアクスを捨てて手刀をヅワイスターの頭部に叩き込んで、引き裂いた。
「……素手でこれか! さっきまで歯が立たなかった奴をこうも押してみせるとは!」
砂羽都は機体性能に驚いてみせる。
「このままぶち抜く! 肥後、頼む!」
葉桜君は頭部を破壊されてバランスを崩したヅワイスターの目の前に出る。
「任せて!」
「ダブルドリルナックル……ミキサーアームッ!」
僕がグランフレアの両手にドリルシールドを召還すると、グランフレアを操る葉桜君はそのまま両手の拳でシールドを装備し、殴りこんでヅワイスターのボディを破砕させた。
「ーーくく、やるではないか。パワーだけは認めてやろう」
セルキオスはヅワイスターを完全破壊させたグランフレアの姿を見て不敵に笑う。
まだこいつが、残っていたのだった。
レオーガに、セルキオス。人が乗っている、それだけで見方によってはヅワイスターなどよりも圧倒的に脅威だ。
「後はてめぇだけ倒せば終わりだな。4対1だぜ」
葉桜君が笑ってみせる。
「葉桜に肥後、分かってるな。茉莉も大丈夫か」
砂羽都が呟く。
「うん」
「あぁ」
僕は茉莉の後に頷く。
「それはこちらの台詞だ。合体で敵が減って好都合というもの。貴様達を倒せば、そのまま列島全てを飲み込める! 死ね!」
セルキオスはそう叫ぶと、レオーガの両手に付いた牙のようなものを展開させた。
両腕がワニの顎のようにデカくなり、噛み付いた瞬間全てを破壊しそうなくらいだ。
「クラッシュバイト・フルパワー。貴様の両腕を肩口から引っこ抜いてやる!」
そして海上を疾走し、瞬時にこちらに迫るがーー。
「おっと、残念だったな」
近寄ってきたレオーガの顔先に、瞬時に46センチ砲が突きつけられた。
「何ィ!?」
驚愕の表情がセルキオスに浮かんだ。
「馬鹿みたいに突っ込んできやがって。こっちはノーモーションで銃を構えられるんだ。そして私の特技は……竹槍。早撃ちでは負ける気がしない。死んでもらおう」
砂羽都のドスの聞いた声。
「貴様ァァァァァ!」
「トリガは引かせてもらうッ!」
グランフレアは至近距離で46センチ砲をぶっ放し、レオーガは胴体を貫かれて吹き飛ぶ。
「ーーどうやらこいつのパワーも、上がっているようだな。片手でぶっ放したはずなのに反動が殆どない」
砂羽都はそう言いながら、着水しそうになるレオーガの図体にさらに一撃、46センチ砲を叩き込み爆発させた。
「ーーやるじゃないか」
葉桜君が、砂羽都に向かって褒めてみせる。その言葉は、力を認めたという事なのか。
「なに、お互い様だ。……それに肥後の力や茉莉のサポートが無ければ機体の維持は出来なかった。そう思えばーー」
砂羽都が礼のように安心した顔でそういった直後に、ミサイルがグランフレアの横を掠めて飛んでいく。
「ーー何っ」
葉桜君が反応をする。
「今のは、ハープーン……スピネルか!」
ルシウス先生の声が入る。
その言葉にレーダーを見ればいつの間にかこちらに向かってきたスピネルが、8機も居た。
「ーーどうする?」
葉桜君が厭な顔をしながらルシウス先生に尋ねる。
「逃げるしかあるまい。コンテナに武器を畳み、急いで粒子とフレア、ジャマーを掛けて逃げるぞ」
するとルシウス先生がそう指令したので、了解だと葉桜君は頷いた。
「ーー結構物分りがよくなったじゃないか」
「俺だって自衛隊に攻撃仕掛けたらどうなるかくらいは分かってる。あの人達は守るのが仕事だからな」
葉桜君はそう言いつつもグランフレア・劫火を潜行させ、帰路へと急いだ。




