26.実検開始
「さて。いよいよエックスデーというわけだよね」
山の麓で、狐、白犬、ぬいぐるみを一望して市子は言った。
初めから登山をする予定だっただけあって、さすがに市子も狐もそれなりの恰好はしている。
とはいえあくまでも“それなり”であって、市子は厚手のパーカーにジーンズ、狐は白いYシャツにこちらもジーンズで、それだけだが。
まるっきり山を甘く見ていると言わざるを得ない。この場の誰も気にしていないが。
「いくつかゐつさんに確認も取ったし、他の諸々も見て回った。あとは今夜にこの山を登るだけだ」
「ゐつのばーさんに訊いたって、それで何かわかったのか?」
「んー……わかったかどうかっていうと、あんまりわかってないかな」
市子の言葉に、ああ? とぬいぐるみが市子を見上げる。対して市子は肩を軽くすくめて、
「ま、さすがに西洋でドンパチやってるゐつさんだからね。極東の事情には多少疎くもなっちゃうわけだけど……それでも仮説はあるらしくって。私はこの後もその仮説の補強をしていかなきゃいけなくなったよ」
忙しい忙しい、と嘯く市子。
「ゐつ殿の仮説とは?」
「それはまあ、まだ仮説だからね。私も似たような予想は立てているけれど……でも思うところもある。その辺りも含めて、調査していかないと、ってわけだけれど」
ふ、と吐息して、市子は覆われた目で山を見上げた。
「狐さん、ゴザル君。――ま、大体わかっているとは思うけど、警戒は上げておこう。警戒内容はふたつ。ひとつは、攻撃されることへの警戒。――と、それから、もうひとつ」
にやり――と市子は笑った。
「手加減を忘れないでね、ふたりとも。――トバすよ」




