12.訪問①
「――はいはい、どちらさま」
呼び鈴を受けて戸を開けたのは、恐らく70代ほどであろう女性だった。やや腰が曲がってきてはいるが足取りも確かであり、その高齢を感じさせない歯切れの良さである。
老女は戸を開けて、しかし戸惑った。それは戸を開けた先に立っていたのが自身の二倍は身長のありそうな人物で、しかも美女だったからだ。
黒のレディーススーツを着込んだ美女は、こちらへにっこりと笑顔を見せると、そのままにこやかな調子で、
「こんにちは。突然の御訪問の失礼をお許しください。私、こういう者です」
澄んだソプラノで言い、すっと名刺を差し出す。あっけにとられたままの老女は警戒心をもつ隙も無く、差し出されたそれを受け取ってしまう。
「……研究者さん?」
「はい。K大学で民俗学の研究をしております。実は今、この地域についての調査を行っておりまして。よろしければお話などお伺いしたいのですが」
「はあ……あたしの話なんかでよければ、そりゃ構わんがね……んじゃ、奥にどうぞ。すぐにお茶用意すっからね。茶の間で待ってて」
「どうぞお構いなく……では、お邪魔いたします」
「汚ねえ家だども、遠慮せんで……はあ、こりゃまたえらい別嬪さんが来たと。じーさんが見たら腰抜かすでな……」
小声で感嘆を漏らしながら家の奥へ戻っていく老女の後に、狐も邪気のない笑顔で続いた。




