11.適材
「さて、いよいよフィールドワーク。聞き取り調査に入ります」
「おお、いよいよか。いよいよだな。この時を待ってたんだ。この時を、そう聞き取りを」
「タヌキ君のキャラ崩壊が心配だけどそれは華麗にスルーして、ここでひとつ問題があります」
「スルーするなよ。ちょっとした遊び心だろ」
今度こそぬいぐるみをスルーして、市子は人差し指を立てる。
下山後、麓に戻ってからのことである。
「これが結構重要な問題」
「問題……聞き取り調査に関して、で御座るよな。何かあるので御座るか?」
「ああ、セッシャ、わかったでゴザる。セッシャが不審なのでゴザるな?」
「まあ簡単に言うと、ビジュアルだよね」
「おい、スルーするなって」
狐の腕の中で、ぬいぐるみがびちびちと暴れる。抱えている狐は無表情だが、やや持ちにくそうだ。だがそんなことに構うこともなく、ぬいぐるみは、
「聞こえるんだよ。最近のオレサマはキャラが薄いって声がな。オレサマはもっとキャラを濃くしていかなきゃいかねェんだよ」
「一体誰の声を聞いてるのかな……? まあ確かに否定はしないけどね」
「してくれよ!」
「ともかく。ビジュアル的な問題だ。これから私たちは、12年前にこの地域で起こった神隠しについて、この地域に住む人たちに訊いて回るわけだけれども……この地域に住む御老人たちに訊いて回るわけだけれども。――ぶっちゃけた話、私が直に訊きに行くとなると、ちょっと警戒されちゃいそうな気がしちゃうわけだ」
「ああ、成程な」
ほらほら、と市子はその場でくるりと回って見せる。服装は夏らしい涼しげま服装だ。ややサイズの大きなTシャツに、デニムのホットパンツである。足元に至ってはあろうことか草履であり、たった今トレッキングをしてきたとはとても思えない軽装だ。
だが、一番の問題はそこでもないだろう。
顔。
両目にかけて締められた包帯。
それが一般人に与える衝撃は、恐らく生半可ではない。
「しかし、それならどうすると? 市子殿でいかんとなると、タヌキ殿は論外、拙者も犬に御座るし。そうなると――」
白犬は己の傍らに立つ者を見上げた。ぬいぐるみも、己を抱えている者を見上げる。
「……え」
三者の視線を受けた狐は、頬を引きつらせつつ半歩下がった。
市子はにんまりと、満面に笑む。




