09.監視者
気配は強い。周囲を完全に取り囲んでいる。そしてその気配は、ただ市子らを囲んでいるわけではない。
敵意。
市子らに照射される視線には、それの色が最も濃い。
警戒よりは強く、殺意には至らない、視線。
それが、術式を解析する白犬と、白犬を待つ市子らに向けられている。
見上げ、見つめ、見下ろしている。
……成程ねえ。
内心に、市子は数える。
……十、二十、んー、もっといるかな。
ぼんやりと白犬を待つ姿勢のまま、市子は周囲の様子を探る。当然のことながら視覚ではない。それ以外の感覚だ。
そして、敵意。
敵意に満ちた視線が、その持ち主の居場所を明確に示してしまっている。――ある意味では探るまでもない。
戦闘慣れしていない。
だが獣でないことは確かだ。獣は、これほどまでに明確な敵意を発しない。彼らが他者へ向けるのは、どれほど強いものであっても警戒心の域を出ない。
意志ある者。
意思ある者。
敵意をもって、市子らを見ている。
攻撃するべきか、見逃すべきか。
……さてさて、それを判断するのは誰なのかな?
統率は垣間見える。だから、一応は統率者的な者がいるのかもしれない。
だがそうだとしても……やはり、甘い。
観察している側もまた、観察されていることに気が付いていない。
自分たちだけが狩る者であると思い込んでいる。
しかし、だからこそ、
……これを施したのは、彼らではない、ということになるんだよねえ。
白犬を眺めながら、市子は考える。
ぬいぐるみらにも話した通り、これはかなり高度な術式だ。これほどまでにあけすけに気配をさらす者たちが、術者であるとは考えられない。
けれども、
……これはこれで、不可解というか。
考える。考えて、探り、考える。
ただ姿を見せていないだけで、気配も、視線も、息遣いまでもあからさまなのだ。探ることそれ自体はたやすい。
だからこそ、わかる。
……人間じゃ、ない。
少なくとも“普通の”人間ではない。
だが、それならば何なのか。
……何というか、魔術よりも魔法に近いというか……人間よりも、世界そのものに近しい……でも、魑魅魍魎の類では、決してない。
“彼ら”が何者なのか、市子にはまだ判然としていない。




