04.調査②
舗装された道路の終点、先程は左に曲がったところを今度は右方向、今度こそ山の方へ向かう。――と言っても、道らしい道があるわけではない。田と田の隙間を縫うようにして細々と浮かぶ、畦道である。
そこを、両手を広げてバランスを取るようにして、市子は歩く。白犬と狐も、こちらは普通に危なげなく後に続く。
「――この山に、何があるので御座るか? 見たところ、別段霊山であるとも見えんので御座るが」
山を眺めながら、白犬が問うと、市子は小さく笑った。
「霊山ではない――よ。確かに。でもそれ以上に面白くて、厄介な山だ」
「……さっきからオメェ、わかること何も言ってねェな」
「まあね。実のところ、私にも確証が持てることがあんまりなくてね」
軽い調子でそんなことを言う。
「まあ、そのうちわかるだろうさ。今はとりあえず、調べ物調べ物」
言って、スタスタと歩き続ける。
「山に登ると言っても……登るので御座るよな」
「そうだね。登るね」
「道など、なさそうで御座るが」
白犬が先を覗き込んだ通り、登山道など見当たらない。そもそもが、現在一行が歩いているところだって畦道だ。道ではない。
そこを、歩く。
「んーっとね。昔は使われてた峠道があるらしいんだよ。隣の、と言っても山を挟んだ隣の村に向かう道がね。今はほら、麓に山の周りを大きく迂回する道路が舗装されたから、今ではもう使われてないんだけど」
「あ? いやそれにしても、峠道の方が近いんだろ? それなのに、今じゃ全く使われてないってーのか?」
「うん。それはだってほら、神隠しがあったから」
さらっと市子は言う。それに対して、白犬がやや訝しげに、
「神隠し神隠しと、先程から何度も話になって御座るが……詳細は、全く伝わってはいないので御座るか? 12年前に起こった、ということ以外は?」
「まあ、そうだね――ああ、一応、情報をもらってはいるんだけどね。要確認、っていう文言付きで、だけど」
「要確認……」
「ま、聞き取り調査、だね。山の方を見てから、になるけど」
話している間に、田と山の境界に近づいた。一線から深い森になっているが、
「ほら、よく見ると入口的な何かが」
「よく見ても入口的な何かでしかないので御座るが……ここから登るので御座るか?」
「そだね。んじゃあ行こう」
やや尻込みする白犬に構わず、市子は躊躇いなく森へと踏み込んだ。




