04.支度
サツキの住んでいる屋敷――サツキの仕えているコトヨの屋敷の、自室として与えられている離れに息も絶え絶えな勢いで飛び込んだサツキは、勢いもそのままに草履を脱ぎ散らかし、部屋中を駆け鳴らした。
旅。それも不帰の旅だ。
何が要る?
サツキは旅に出たことなどない――だから、何を持っていくべきなのかがわからない。
あれもこれもとかき集めそうになるが、重くなりすぎてはいけない。まして痩せ形の少女の体格だ。必要最小限でなければいけない。
必要最小限とはいかほどか?
着替え、は無理だ。そもそもサツキはあの少女の体格に合う服など持っていない。
食べ物。これは多少であれば持たせることもできるはずだ。日持ちのいいものを作れば、いくらかの助けにはなるだろう。水も。水筒を渡せば、これは途中でも補給できると思う。
あとは。地図、はあってもしょうがない。山の周辺図しかないのだから。
雨具。これはあってもいいはずだ。防寒は必須だろう。
それから。
慌ただしく駆け回り、料理の仕込みや道具の用意などを並行して行っていくサツキの騒ぎに、母屋にいたコトヨが何事かとやって来た。
離れの入り口からひょいと覗き込む。だがサツキは用意に忙しく、コトヨの来訪にも気づかない。
初めは何事かと問おうとしていたコトヨだったが、程なくして口を閉じた。それからそっとその場を後にする。
部屋中の家具をひっくり返す勢いで駆け回りながら、サツキは少女の旅支度に明け暮れた。




